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2019/11/26

【新】導入で所得が2倍?初期費用0円の収穫ロボットが示す可能性

  • #ロボット

「スタートアップが農業を救うには、ロボットをサービス化するのが最善策だった」

最近ではきつい、汚い、稼げない「新・3K」と言われ、人気のない業界の1つでもある農業。その影響から深刻な人手不足や就業者の高齢化といった課題を抱えている。

その課題をAI×ロボットの切り口から解決しようとしている企業がある。その名は、inaho(いなほ)。自動野菜収穫ロボットを提供する、アグリテック企業だ。

inahoが他のアグリテックスタートアップと大きく違うのは、農業機器に多い売り切りモデルではなく、収穫量に応じてサービス料金をとるRaaS(Robot as a service)モデルを国内で初めて採用していることだ。

しかし不確実性の高い農業の領域において、売上に比例する収益モデルは安定性に欠けるようにもみえる。

長年変革を起こせなかった業界を、日本初のビジネスモデルRaaSを採用するinahoはどう変えようとしているのか。

CONTENTS

ロボット農機の急成長

日本の農業界の課題として、農業就業人口の減少が挙げられる。現状、減少の歯止めがかかっておらず2000年から2018年の19年間で40%近く減少している。

農業人口変化

その影響もあり日本農業機械工業会によると、inahoも含まれる農業機械市場規模は2005年以降5,000億円前後で推移しているが、長期的には縮小傾向にあり成長市場とは言い難い。

しかし、テクノロジーによって農業の課題を解決する「スマート農業」の視点で市場をみると、真逆の景色がみえてくる。

農業人口が減少する中で現状を維持するために、収穫や耕作の自動化・無人化を実現するロボット農機を含むスマート農業のニーズが高まっているのだ。

富士経済のレポートによると、畜産業を除いたスマート農業の市場規模は2018年 698億円から2030年 1,074億円へ50%以上拡大すると予想されている(「先進テクノロジーが変える!!農林水産ビジネス最前線と将来展望2019」)。

その中でも、ロボット農機は2018~2030年の間に50倍もの急激な成長が見込まれている。

そんな急成長市場に挑むinahoの武器は、RaaS(Robot as a service)というビジネスモデルだ。

スタートアップにとって経営が難しいと言われる「農業×ロボット」の領域において、同社が考えている成功戦略を菱木CEOにきいた。

菱木豊(ひしき・ゆたか)/ 不動産投資コンサルタント会社に入社し、4年後に独立。2014年に株式会社omoroを大山らと設立し、不動産系Webサービスを開発運営後に売却。AI導入のコンサルティングや、InstagramのマーケティングWebサービスを開発運営。地域活動のカマコンの運営。2017年にinaho株式会社を設立。

農家が目指すべきは「農地の拡大」

inahoは収穫を補助するロボットですが、農家にとってどれほどインパクトがあるのでしょうか。

実は、私たちがターゲットにしている施設野菜の業界では、農家の全作業時間のうち収穫する時間が約半数を占めています。そのため、現在の生産を維持するだけで精一杯な状況です。

収穫が作業時間の大部分を占めている。(出所)inaho公式資料

ではなぜそんな状況が起きているのか。その理由は収穫できる期間の長さです。

収穫というと1年に数回のイメージを持っている人も多いですが、アスパラガスやナスなど私たちがターゲットとしている施設野菜(屋内で栽培される野菜)は、数ヶ月にわたって毎日収穫ができます。

しかし今の日本農業は生産者の平均年齢が約67歳で、今後10年で農家の数が半分になると言われるように、人材不足に陥っています。

これらの収穫時期が長い野菜は数ヶ月にわたる雇用が求められる一方で、1年中収穫はできないので年間の雇用は難しい。

働く側も「8カ月間だけ働いてほしい」と言われたら、「1年間雇用される方にいきます」となるじゃないですか。

また、収穫作業は人が直接行う必要があるため、労働内容も負荷が大きく厳しい条件になってしまいます。

その結果採用ができず、農家の人は収穫に多くの手間が取られてしまう。

収穫に多くの時間を取られるため農地を広げられず、所得も上げられないという負の連鎖が起きています。

inahoがターゲットにしている施設栽培の業界でも、農家あたりの施設面積は過去15年間ずっと横ばいです。農家数が減っているだけでなく、所得の伸びしろもありません。

そこで農家が農地を広げて所得を上げられるように、収穫の手間を減らすロボットを私たちは提供しています。

具体的には、手作業で採っている野菜を人工知能を使って自動的に収穫するロボットです。ロボットの設計やアルゴリズムも全て内製しています。

例えば、アスパラガスは幹の長さで収穫可否を決めるため、人が畝にしゃがんで1本1本手で長さを測って収穫していました。これをinahoのロボットはセンサーを使って測定し、昼夜問わず自動的に収穫できるわけです。

現在は畝の間にある白い線に沿って採る仕組みですが、今後は白い線がなくとも動くようにしていきます。

RaaSモデルは生き残るための「逆転の発想」

収穫を効率化して人手を削減するプロダクトは他にもあるのでは。

似たようなサービスは他にもありますが、私たちはビジネスモデルが特徴的です。マネタイズ方法として売り切りモデルではなく、売上に対してサービス料金をもらうRaaSモデルを採用しています。

※RaaS:SaaS(Software as a Service)に似たモデルであり、①ネットワーク経由で機能を利用する②使用量に応じて課金するサブスクリプションモデル③継続的なアップグレードを前提としているなどの共通点がある

たとえば、1kgあたりの野菜の単価が1,000円だとします。inahoのロボットを用いてつくった野菜1kgを市場に売った時、農家の売上1,000円の15%にあたる150円をサービス料としていただく仕組みです。

つまり、農家の収穫量が上がればinahoの収益も上がるビジネスモデルです

ビジネスモデル (2)

(出所)inaho公式資料

私たちが取り組んでいるアスパラガスでも、1,000万円分採るのに農家は180万円程の人件費をかけています。つまり、15%の手数料を加味しても、ロボットを使った方が最終的に利益を多くあげられる。

私たちの目的は、農家の人件費を安くすることではありません。そもそも、地方は人がいなく採用できていないので、削れる人件費が多くありません。

人件費の削減ではなく、人を雇うよりも安いうえに3人分働くロボットを導入することで、今と同じ従業員人数で農地を数倍に増やす。これが私たちが目指す世界です。

実際に、ロボットを導入している農家が農地を広げてビニールハウスを増築するなど、農地拡大の兆しは見えています。

農業用器具は売り切りモデルが多いですが、なぜinahoはRaaSモデルにしたのですか。

当初は600万円ぐらいで売り切りモデルを考えていました。600万円は安くありませんが、それでも75~80%の農家が「買います!」と言ってくれて。

しかし売り切りモデルだと、解決できない課題が2つありました。

1つ目が、稼働期間の保証です。

通常の農機は10~20年動き続けます。しかし、スタートアップである私たちが大手メーカーと同じように、最初から長期間の稼働を保証するロボットをつくるのは困難です。

もう1つが価格の問題です。

日本の農家は高齢者が多いので、「ロボットは使いたいけれど、今から数百万円も設備投資できない」のような声が少なくありませんでした。

それらの課題を解決するために、似たような課題を克服しているSaaSモデルを参考にし、それをハードウェアに導入できる形を考えた結果RaaSモデルになりました。

農業機器の企業は買い切りモデルが多いですが、RaaSモデルに対して農家の人は抵抗を示さなかったのですか。

ほとんどありませんね。9月に初号機の導入が決まってから、他の会場などでも「売上の15%をもらう仕組みですが、導入しますか」と聞くと、その場で約90%の農家が申し込んできました

RaaSモデルであれば初期費用を抑えられますし、ソフトウェアやハードウェアをアップデートし続けられるので、常に最新の状態で農家は使えますよね。

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(出所)inaho公式資料

収穫ロボットの特性的にもこのモデルは合っています。

カメラやセンサーの性能は年々向上していますが、それでも100%の収穫精度を求めれると、開発に時間がかかり市場になかなかプロダクトを出せません。

しかし農家は、「30%採ってくれるだけでもいいから早く使いたい」という意見が大半でした。つまり、精度をアップデートしながら利用する方が、開発側にも農家にも都合がいいです。

私たちのロボットも去年の10月は約50%の精度でしたが、今は最大75~80%が採れるようになっています。

RaaSモデルは作物の収穫量に収益が左右されます。そうなると、初期費用が多くかかるロボット事業には向かないのでは。

価格が安定していない食物、収穫時期が短い食物はRaaSモデルに向いていません。

たとえば、天候の影響を受けやすい白菜。値上がりして1個数百円になるときもあれば、値下がりで20円、30円にもなり価格変動が大きいです。

一方で、アスパラガスなど施設内でつくられる野菜は、天候の影響を受けづらく安定的に生産されており、年度ごとの価格変動は大きくありません。

また、その中でもアスパラガスやナスなどは特定の時期だけでなく数ヶ月に渡って収穫ができます。

とくにアスパラガスはRaaSモデルに最適でした。

1年のうち240日は収穫していますし、トマトやピーマンに比べ地面からまっすぐ生えているのでロボットが採りやすい。1kgあたりの単価もトマトが400円前後に対して、アスパラガスは1,000円を超えており、しゃがんで手で収穫する必要があるので他の野菜よりも負荷が大きい。

たまたまヒアリングをした農家さんの声からアスパラガスにたどり着きましたが、結果的にベストな野菜から参入できたと感じています。

逆にクボタやヤンマーといった既存の農業機械メーカーは、RaaSモデルに切り替えにくい。

たとえば、彼らが今つくっているコンバインやトラクターは売り切り前提です。なぜかというと、それらの機械は稲刈りや田植えの時期など、基本的に1年のうち1週間といった短期間しか使用するタイミングがないからです。

短期間しか使用するタイミングがない農作物でRaaSモデルにしてしまうと、収益が一過性になってしまいますし、価格も決めにくいです。

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(画像:Joshua Hawley / Shutterstock.com)

なので私たちも価格が安定せず収穫時期が短い食物はやらず、単価が高く価格が安定しており、収穫時期が一定期間ある施設食物だけをターゲットにすると決めています。

「半径30分圏内」しかサービスを提供しない理由

農家の方がロボットを使いこなせるかが普及の鍵になると思います。そのためにしている工夫はありますか。

「支店から半径約30分圏内の農家にしか、ロボットを提供しない」と決めています。

ロボットに必要不可欠なメンテナンスやセッティングの質を担保しつつ提供するためです。

ビニールハウスや畝の数によってロボットの動きが変わるので、ロボットを使うには農家ごとに訪問して農地マップをつくらなければなりません。

この作業は、農地を広げたり形を変えたりするたびに必要になるので、比較的高い頻度で必要になってきます。

また機械メンテナンスの問題もあります。今までの農業機械のような売り切りモデルであれば、農家が自分で直したりしていました。しかしこれをサービスモデルにすると、「ちょっと修理しに来て」といった場面が増えるでしょう。

そうした状況でも提供するサービスの質を担保するために、30分圏内ルールを定めています。

今後は遠隔監視や故障予知などを導入して、1つの支店で対応できる範囲を広げていきますが、基本的には支店網を増やしていろいろな地域に対応していく予定です。

農地のデータを活用する

収穫の精度を上げることはもちろんですが、他に考えている構想はありますか。

RaaSモデルは農家の利益に自社の利益が比例するので、収穫を安定させつつ収穫量も増やしていくのが重要です。

そのために農家ごとの収穫データの収集と共有に力をいれていく予定です。

情報共有モデル

(出所)inaho公式資料

多くの農家は、全ビニールハウスやハウスごとの収穫量は計測していますが、畝1つあたりでは管理できていません。

しかし、ロボットを使えば位置情報が紐付いているので、畝の1m単位での量が分かります。そうすると、農地の中で調子の良い・悪い領域が可視化できる。

そこまでできれば、調子悪いところに肥料をあげて全体の収穫量を増やすといった施策を打てます。

既存のサービスでも、似たようなデータを得るものはあります。しかしそれらの多くは、カメラを使うためコストがかかり、結局定点で何カ所に付けるだけで終わってしまう。

一方でロボットの場合は、カメラ自体が移動するので、得られるデータ量や種類、精度が全く異なりますし、余分なコストがかかりません。

最終的には、各農家から得られたデータを他の農家とも連携できるようにし、ユーザー全体で情報をシェアすることで、全員が質の高い農業を行えるようにしていきたいです。

ロボットの活用領域も将来的には広げていきたい。

今は野菜を扱っていますが、ブドウなどの果物なども利用できる余地が十分ある。

農業に限らず、水産業、林業などの一次産業全般で、テックが入っていない領域が多いためビジネスチャンスがある。また全然領域は異なりますが、「地雷をとってくれないですか?」と連絡がきたりもしています。

まずは5年間で1万5,000台を導入し、2022年には500人程度の規模になれるように取り組んでいくつもりです。 私たちの強みを活かせる領域であれば、積極的に対応していきたいですね。

文末画像 (2)

(インタビュー:松岡遥歌、編集:町田大地)


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