「教科書や先生が言うことがすべて正しいのか?」 学生時代、このように感じた人もいるのではないだろうか。
TimeLeap 代表取締役社長の仁禮彩香さんは、小学1年生でその疑問を抱いたことがきっかけで、中学生で起業した。
しかし起業したのは「身近にあった疑問を解決したい」と、考えた結果に過ぎないと言う。
「当時、周りに起業家は誰もいなかった」と話す仁禮さんが、どのように起業に踏み出したのか。中学生から事業をつくってきた過程からそのきっかけを紐解く。
※本記事は、以前noteで公開した記事を再編集した内容です。
「通いたい小学校」をつくってみた
今まで起業した2社とも教育領域ですが、いつから同領域に興味があったのですか。
最初に興味をもったのは、小学校のときです。幼稚園はインターナショナルスクールに通っていたので、1人1人が個人として考えを持つ重要性を教えられました。
「どのような考えをあなたは持っているのか」「どのように生きたいのか」をよく考えていました。
しかし幼稚園を卒業して、地元の小学校に入ると環境が変わりました。「教科書か先生の意見が絶対的な答えで、それに沿った考えの子が正しい。それ以外は正しくない。」と決められていて。
他人と異なる速度で物事を進めると「進めるのが早すぎるから、今はやらないで」「そこまで教えてないから駄目」と言われ、押さえつけられてしまう。
仁禮 彩香(にれい・あやか)/ 中学2年生の時に株式会社GLOPATHを設立。学校コンサル、研修開発、CSR支援など展開。高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを買収し経営を開始。 2016年に株式会社Hand-C(現TimeLeap)を設立。同年 ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。Hand-Cでは企業向け研修や、小中高生向け人材育成プログラムなど、「自らの人生を切り開く力」を育む様々なプログラム開発/運営を行う。
決められたスピードで、決められた量をこなすことを求められる空気の中で、「あと5年間通い続けるの無理だ」と感じたわけです。
小学1年生で考えた「通いたい学校」は、自分と相手の考えをお互いに聞きながらよりよい答えを探すせる場所でした。そのモデルとして明確にイメージできたのが、通っていた幼稚園。
親にその考えを言ったところ、すぐに車を出してくれて、幼稚園の先生と話せる機会をつくってくれたんです。その先生に「小学校をつくってほしい」と相談したところ、なんと1年で学校を本当につくってくれました。
その小学校に5年間通い、教材選びや授業内容の策定などの学校づくりに取り組みました。
小学校で日本の教育現場から離れたことで、逆に現場の課題や可能性が見えてきた。その解像度を上げるために、中学は一般の学校に通うことを決めました。
社会勉強のために「起業」という選択肢をした
中学校で感じた違和感は、「社会と関わる機会の少なさ」でした。
学校生活で会う大人は、授業や部活で関わる先生か親がほとんどです。社会から孤立してるので、勉強する意味や他の選択肢を知る機会も少ないです。
その状況を変えるために、まずは自分が社会勉強をして現状を正しく捉えようと考えました。その方法として考えたのが「働くこと」でした。
どうやって働くかを考えていたところ、たまたま習っていた合気道の先生が「新しい会社を今度つくる」と話していたのを思い出して。
会社をつくれば、社会と接続でき、お金の仕組みも学べる。また、教育環境をサポートするプログラムや仕組みをつくる会社をつくれば「業界課題の解決もできる」と仮説を立てました。
そこで合気道の先生に会いに行ったところ、メンタリングだけでなく出資もしてくれることになったので、起業しました(笑)。
私はもともと起業家になりたかったわけではありません。母は主婦ですし、父もサラリーマンなので、起業家が周りにもいませんでした。
しかし当時の自分が持っていた知識の中で出したベストな仮説が「起業」でした。その選択肢をとっただけなんですよね。
中学生で起業すると、未経験のことが多く大変だったのでは。
たしかに起業したときは、今よりも学生起業家が少なかったこともあり、世間の評価と自分の中での価値観が合わずストレスを感じることもありました。
しかしその経験があったからこそ、今は「どういう人間なのか自分で認識していれば十分」と考えられるようになったんです。
すべての体験が新しかったので、既成概念にとらわれずに組織のあり方やチームで働く意味を学べたのも運がよかったです。
働き方1つをとっても、社長の私は学生で一緒に働いていた大人も全員副業です。フレキシブルな働き方をするのが当たり前でした。
一般的な企業の働き方を私自身が知らなかったので、バイアスをかけずに最適解を出せた。今言われている「働き方改革」のようなことが自然と実現できていたわけです。
当時は「自由な時間で働くのが普通」と思っていました(笑)。
2社目の起業は「再出発」
その後1社目の代表を辞め、2社目の「Hand-C(ハンドシー)」を起業したのはなぜですか。
理由は2つあります。
1つ目は、自分が大学生になったタイミングで一度組織を軌道修正したかったからです。
中学で起業してから関わる人も増え利害関係も生じてきたので、会社として次のステージに進んでいくにはどうするのがベストなのかを考えました。
そこで出した答えがコンテンツを刷新し、新しい人を入れて「再出発」することでした。
2つ目は、次世代へバトンタッチするためです。
1社目は「子どもによる、子どものための未来創造企業」というテーマがありました。自分たちが会社や学校をつくったのは「学ぶ」ためでもあり、会社は同時に優れた勉強のツールの1つでもあったんです。
なので、自分が子どもでなくなったら、次の世代に会社ごと譲ろう最初から決めていました。
ではどこからが大人なのか。中学生の私たちがたどり着いた答えは、「お酒飲めるようになったら大人じゃない?」と決まって(笑)。
次の世代のメンバーに自分たちの会社を使ってもらえるよう、20歳で代表を辞めて2社目をつくりました。
それでつくった新しい会社が「Hand-C」だと。会社のテーマも「生きることに喜びを」に変わっていますよね。
Hand-Cでもいろいろなことに取り組みましたが、「課題を解決し、サステイナブルな事業をつくる」ためのテストの意味合いもありました。
教育はライブなので、絶えず内容が変わります。それを持続可能なかたちにするにはチームと資金が必要です。
そういった中で新たな一歩として始めたのが、小5~高3を対象にした「Hand-Cサタデースクール」でした。
「社会接続」「自己認識」「多世代交流」をテーマに、小5~高3までの子どもが一緒に受けます。
たとえば授業では、お金の仕組みについて学ぶというものがありました。「カレー屋さんの収支計画書と基本データを元に、経営を改革する方法を考えコンサルする」というテーマで、小5~高3の子どもが一緒にチームで考えるものです。
その体験を通して、利益とビジョンのような基準とするものの違いで、「お金の意味合いがどのように変わるのか」を学ぶ授業です。
このプログラムで私たちが考えたかったのことの1つがマネタイズ方法でした。提供するプログラムによってお金の出し手は保護者だけでなく、地域や企業を含めいろいろなかたちがあるんじゃないかと考えたんです。
2019年6月にHand-CからTimeLeap(タイムリープ)に社名変更したのも、このテストの結果を踏まえて目指すべき形がより明確になったからです。
今後はTimeLeapを通して、今までの経験をどのように教育に結びつけていきたいですか。
私たちは今まで、社会との接点をつくったり、お金の概念について教えたりと通常の学校では実施しにくい内容を提供してきました。
他にも異なる強みや背景を持った人がコラボレーションして学びべる放課後のスクールのような仕組みをこれからつくっていきたいです。
日本の教育は種類が少なすぎます。選択肢が増えないと、どのような学び方が自分に合うのか分からない。また学び方だけでなく、いろいろな種類の学校が社会的にも認められるべきだと思います。
日本の教育システムはよくできているので、よい部分は残してそれ以外の部分の選択肢を増やしていきたいです。
今まで協力してくれた人に、「何も返さなくていいから、代わりに社会に還元して欲しい」と言わたので、私も事業を通して学びを社会に還元していきます。
(聞き手・文:町田、森、写真:INITIAL)