日本の就労人口が減っている今、「やりたい仕事に出会える世界」を雇用以外の手段で実現できないかー。
Spreadyは、人材業界が抱える課題を感じていた佐古雅亮氏・柳川裕美氏の2人が、2018年5月に共同創業の形で立ち上げたスタートアップだ。
一緒に仕事をした経験もなかった2人は、どのようにご縁繋ぎサービス「Spready」を作るに至ったのか、話を伺った。
※本記事は、以前noteで公開した記事を再編集した内容です。
「就職活動以外で、新しい仕事との接点が少ない」人材マーケット
起業の経緯を教えてください。
佐古雅亮氏(以下、佐古) 2008年に人材会社のインテリジェンスに入社してから10数年、人材業界に携わってきました。長く在籍していると、人材業界が抱えるペインも数多く見えてきます。
もともと起業しようと考えていたわけではなく、「34歳になって、残りの命の使い方をどうしようか」と考えたとき、人材マーケットの構造的な課題を解消することが、自分にとって大事な使命だと考えました。
佐古雅亮(さこ・まさあき)/ Spready株式会社代表取締役 2008年に株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。2015年にスタートアップ支援事業を立ち上げ、2017年株式会社ネットジンザイバンク(現for Startups株式会社)に参画。2018年5月にSpready株式会社を創業。
課題を解決する手法として、起業を選択したのでしょうか。
佐古 そうです。HR領域が抱える課題を解決したいので、この領域以外の事業を立ち上げることはないものと考えています。たとえば、「エンターテインメントの世界で起業します」とはならないでしょうね。
起業で一番重要なのは、「お客さんの何の課題を解決したいか」だと思っています。
ビジネスモデルやマーケットといったマクロ的な話ではなくて、ユーザーがどんな課題を抱え、それをサービスでどう変えられるのか。
「Spreadyによって、人材との関わり方はこう変わる」イメージを明確に描いて、相手にも伝えることが重要です。
柳川さんがSpreadyと関わるようになった経緯を教えてください。
柳川 裕美(以下、柳川) 前職で採用担当をしていた時、採用エージェントとしてお願いしていた一人が佐古さんでした。
当時、佐古さんと一緒に働いたことはなかったですが、ユーザーインタビューを受けたことが、Spreadyに関わる最初の出来事ですね。
ユーザーインタビューを受けたとき、人材サービスに対する課題観や思いが自分と同じことに驚きました。
私も人材会社に4年半いましたし、事業会社側の採用担当の経験がありますが「今の人材サービスでは解決できない課題は多い」と常に考えていたので、すごく気が合うと感じました。
会社を退職する1年程前から、自分で事業をやりたいと考えていました。
「誰とやるか、何をやるか、一緒にやりたいと思った人が私とやってもらえるかどうか」の3つを、1年ぐらいかけて探しているときに佐古さんに出会いました。
柳川 裕美 (やながわ・ひろみ)/Spready株式会社 取締役 2008年、株式会社リクルートエージェント(現:株式会社リクルートキャリア)に新卒入社。2012年10月からはゼビオ株式会社にてグループ全体の広報/マーケティングを管掌。2015年8月Retty株式会社に入社後、2019年1月にSpready株式会社へ参画。
最初からSpreadyに入ろうと思っていたわけではなく、プロジェクトベースでお手伝いしていました。
しかしサービスを手伝ううちに、自分の子どものように思えてきたんです。
佐古さんと2人でサービスについて議論しているときに「すごい本気になって考えているな」と実感した瞬間があり、これはもう一緒にやるしかないと思いジョインしました。
人材業界の課題について、具体的に教えてください。
佐古 転職しないかぎり、「人」と「組織」が自由に出会えないことが大きい課題です。
転職は大きな決断ですが、今の人材マーケットでは人材会社からお見合いのように会社を紹介されます。この構造が変わらないと、ミスマッチが必ず発生すると思っています。
私はキャリアアドバイザーとして1万人以上の方とお話ししてきましたが、「やりたいことに出会っている人」は非常に少ないと感じました。転職を考える人で、「やりたいことがあるから、今の仕事をしている」と言える人は珍しいです。
それは個人に責任があるのではなく、やりたいことに出会う機会が存在しないことが原因だと思います。
今の日本では、一度に様々な会社を見れる機会は新卒一括採用のタイミングくらいですよね。就職後に他の業界の事を知る機会もないまま、新卒で入った業界のキャリアイメージだけで仕事をすることになる。
私はそれを見るたびに、「もっと違うかたちがあるはずだ」と思ってきました。
自分の生き方や価値観を醸成するには、他者との接点が必要で、机に向き合って自己分析をしても、いい会社には出会えません。
だからこそ、自分自身の可能性に触れる機会を持てるように、Spreadyを通し、「1人1人がもっとやりたいことに出会う」ことをシンプルに実現したいと考えています。
「B with C to Cモデルのご縁繋ぎサービス」とは
Spreadyの事業を教えてください。
佐古 Spredyは法人から頂いた「こういう人に会いたい」等のニーズを、サービスに登録して頂いているスプレッダーの皆さんに共有し、「こういうお知り合いの方はいないですか?」と展開するプラットフォームです。
法人が行う「人探し」は採用だけと思われがちですが、直接的な雇用以外にも、人を探すことは常に行っています。
「新規事業を始めるにあたって、その領域のエキスパートに話を聞きたい」「人事制度を新たに設計したいから、経験がある方に話を聞きたい」等のニーズがありますよね。
該当する人が知り合いにいれば、スプレッダーにキャスティングをしていただき、面談でお引き合わせいただくと、面談報酬が発生する形態です。
「雇用」の形をとらないのはなぜでしょうか。
佐古 Spreadyが最終的にやりたいことは、人材の流動性を高めることです。
今の人材系サービスは、採用したい会社と転職したい方を、「雇用を短期間で実現する」ビジネスモデルです。
しかしSpreadyは、ディスカッションやプロジェクトへの参画といった、雇用よりも2歩、3歩手前のタイミングで人が交流し合う機会を提供します。
具体的に言うと、新規事業をつくるときに、「その事業のユーザーになり得る人にインタビューしたい」「そのマーケットについて詳しい人にプロダクトを相談したい」といったオーダーがSpready上で並んでいるイメージです。
柳川 2025年までに約500万人の労働人口が不足すると言われる、日本の労働市場において、労働力の流動性と生産性を高めることは、日本が目指すべきものだと思います。
Spreadyを通して人と組織の新たなつながりの場をつくり、日本固有の「働く」カルチャーそのものを変えていきたいと思っています。
雇用を前提としない人と組織の新たなつながりの場ができれば、「やりたいに出会い続ける世界」が見えてくるのではないでしょうか。
サービスを始めたことによる発見はありましたか。
佐古 多くの人は気付いていないだけで、日常的にたくさんの繋がりをもっています。
コミュニティがオフラインに限定されていた昔とは異なり、インターネットの登場により、オンラインにコミュニティの場が移りつつある。
物理的な距離の面から考えても日本は国土が狭いため、多くの場合繋がりたい人と繋がれます。
特に東京は、出会いたい人にはほとんどの場合出会えるんですよね。このことは、サービスを始めて実感しました。
柳川 今まで、会社が個人と出会うタイミングは、採用や雇用前提の面接しかありませんでした。それ以外の出会いを実現する手段や発想もなかったと思います。
まずは「ちょっと相談したい」「アドバイスをもらいたい」などの、雇用以外の繋がりをもっと増やしたいです。
個人側も「転職を考える」タイミング以外で、会社との繋がりを持てるようになる。そこで自分の新たな可能性に気づいたり、それこそやりたいことを見つけることが出来るようになると考えています。
佐古 2008年にインテリジェンスに入った当時は、いまは増えてきているカジュアル面談は考えられませんでした。
当時は転職自体がまだ世の中から認められていなかった時代でした。その当時から比べると今はだいぶ人材の流動性が上がってきたと感じます。
カジュアル面談が浸透してきたのも、Wantedlyが「話を聞きに行きたい」ボタンを発明した影響だと思っています。
「応募のハードルを下げて面接ではない形で会うにはどうしたらいいか?」等の法人側が抱えるニーズを、「話を聞きに行きたい」ボタンを提供することで解決しました。
Wantedlyが新しいコミュニケーションの在り方を発明したように、Spreadyも「雇用を前提としない組織と人の繋がりの新しいかたち」を世の中に広げていきたいです。
Spreadyは新しい考え方のサービスですが、成功のカギはどこにあると考えていますか。
佐古 知り合いが介在が1つのカギになると思います。営業と同じで、新規営業のメールが来ても、知らない人からであれば返信することはあまりないですよね。
ただ、自分と繋がりがある人からくれば、信頼関係がある分会う人も多いと思います。
知り合いが介在することで話が前進しやすくなるのは採用に関わらず、あらゆる分野に対して当てはまると思っています。
柳川 前職では、社内のリファラル採用(社員からの紹介による採用)が盛んに利用されていました。
リファラル採用は、自社をよく知る社員を通じて求職者さんが応募されているので、最初から会社のことをよく分かってくれていますし、全くカルチャーに合わない人は社員も紹介してこないので、事前のスクリーニングがされています。
社員の紹介であることで選考に通りやすくなることはありませんが、カルチャーフィットしている分、合格率も高くなるんだと思います。
信頼する人からの紹介の力は大きく、Spreadyでも自分が知っている人を紹介するので、募集ニーズとまったく合わない人は紹介されません。
正社員や派遣に限らず、プロジェクト単位での仕事もしやすい環境に近年なってきているでしょうか。
佐古 そうですね。雇用の形が変化していることは、われわれにとっても追い風だと思います。
実際にSpreadyの社員数は現在4人ですが、業務委託方は11人いるため、全体では15人程度の組織です。
業務委託などのプロジェクト単位の働き方はまだ東京中心の印象ではありますが、会社の組織とそれ以外の境界線が薄れてきていると実感します。
柳川 労働力不足になる時代ですから、正社員だけ採用することや、新卒で入社した人だけの組織づくりは徐々に難しくなるでしょうね。
「多様な雇用形態やプロジェクトワークでの参加」「ディスカッションして個人の知恵を借りる」など、事業への参画の仕方になっていくことは必然だと思います。
(聞き手:松岡遥歌、文:三浦英之、写真:INITIAL)