「幼少期から世の中をよくしたいと思っていました」
そう話すのは、ユーザーと “なかま” になれるコミュニティタッチツール「commmune(コミューン)」を提供するコミューン株式会社 CEOの高田氏だ。
そんな彼が目指すのは、「ユーザーと企業が簡単に共創関係をつくれる世界」だ。
BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)を経て起業するが、1つ目のサービスは撤退を余儀なくされた。しかし、その失敗があったからこそ今があるという。
なぜBCGを辞めてまで起業し、これまで全く関わりの無かった「コミュニティ」領域に挑むのか。
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転機となった2人との出会い
どのような事業をされていますか。
私たちは、コミュニティタッチツール「commmune(コミューン)」を提供しています。
皆さんが使っているSpotifyやNetflixといった、比較的解約が容易なサブスクリプションサービス(サービス利用期間に対して対価を支払う方式)は、提供側からすると使い続けてもらうことが重要です。そういったサービス提供者が、ユーザーと長期的な共創関係を効果的に築くためサービスがcommmuneです。
プログラミングを一切せずに、機能やデザインの実装、カスタマイズ、運用ができ、簡単なコードで自社サービスにも実装できる使いやすさが特徴です。
これから、多くのビジネスがサブスクリプション型になっていくのではないでしょうか。
そうなると、既存ユーザーだけでなく、一度離れたユーザーや現時点でユーザーではない層も含めて、長期的な関係性をつくっていくことが非常に大切です。
今後、この領域は非常に大きい市場規模になると思いますし、日本のみならず世界中に共通している課題なので、国内外問わず勝負していきたいです。
(画像:公式ページ)
そもそもなぜ起業したのですか。
起業することは、BCGに入社したときから決めていました。
幼少期から「自分は世の中をよくすることをしなければいけない」と思っていたんですよね。
世界をよくするためにベストな生き方を考えた時、国連が思い浮かびました。なので、それからは国連で働くために勉強をしたり、大学時代には国際機関のOECD(経済協力開発機構)でインターンをしていました。
夢への道を着々と進んでいましたが、「ビジネスが絡まないと、世の中は持続的に変えられない」ことを、インターンを通して感じました。
世界中の多く人は、いくら世の中のためになるといっても、最終的には「自分にとっての経済合理性」に基づいた行動しかしません。
なので本当に世の中を変えるには、全員にとっての経済合理性の概念を変える必要があると思っています。
概念を変えることで行動が変わり、それが世の中をよくする行動に変わったとき、世の中は初めてよくなる。本当の意味で世の中を変えるとは、そういうことなのではないかと考えました。
概念を変えるためにビジネスをやる必要があったので、BCGに入って勉強しました。基本的なビジネススキルを習得したら、辞めて起業すると初めから決めていました。
高田 優哉(たかだ・ゆうや)/ パリ農工大学留学、OECDインターンを経て、2014年東京大学農学部卒業。新卒でBCG 東京オフィス入社。在職中に 上海、LAオフィスへの出向を経験 2018年3月に退職しコミューン株式会社を共同創業。(写真:ami)
会社を辞めて起業したきっかけは。
一番のきっかけは、最高執行責任者(COO)の橋本との出会いです。
橋本は大学1年生から同じサークルで、ずっと知り合いでした。知り合いと言っても、僕はソフトテニスを、彼はバスケをしていたので、飲み会で会って楽しく飲むくらいの関係です。
大学卒業後は、それぞれ別々のビジネス領域でしたが、お互い仕事の情報を共有していたりするうちに、いつの間にか気のしれた友人になっていました(笑)。
彼は当時Googleで働いており、とくにマーケティング領域は僕より圧倒的に豊富な知識を持っていました。仕事の合間を縫って、時々会ってはお互いのアイデアの壁打ちをしたり、2人でアイデアソンに出たりしていました。
その頃から、起業するなら当然一緒にやると、お互いに考えていたと思います。
会社辞めることに抵抗はなかったのですか。
ありませんでしたね。BCGもGoogleも3、4年働いていると、それなりに働き方や生活に慣れてきてしまいます。
そうやって今の生活に安住することに対して、お互いに強烈な危機感があったので、ほとんど同じタイミングで会社を辞めました。
そのタイミングが合ったのは、運が良かったです。
左から山本氏、高田氏、橋本氏(画像:提供)
山本 CTOとはどのように出会ったのですか。
最高技術責任者(CTO)の山本は、COOの橋本と大学の同じクラスで、1年生からずっと一緒に勉強していた仲だったそうです。なので、僕は社会人になってから知り合いました。
最初はサプリメント事業で起業したので、商品の購入に関係するシステム部分の開発を任せられる、優秀なエンジニアを探していました。そのときに橋本が「自分が知っている中で一番優秀なエンジニア」として紹介してくれたのが山本です。
最初は1カ月に1回ぐらいのペースで手伝ってもらいながら、毎月「ジョインして欲しい」と頼んでは断られていました(笑)。
最終的には、それを10カ月続けたところ、10カ月目でOKしてくれました。
失敗から見つけた新たな「可能性」
なぜサプリメントのサービスを始めたのですか。
BCG時代もいろいろな事業アイデアを考えましたが、自分で当事者意識を持てるものがなかなか見つかりませんでした。
その中で、唯一自分ごと化できたのがサプリメントです。自分自身が好きで、アドバイザーの資格を持っており、サプリメントのコンサルもしていたことも大きいです。アメリカに駐在していたので、最先端のサプリメント事情を知っていたのも、事業を始める動機になりました。
そういった経緯もあり、事業として筋がいいかは分かりませんでしたが、サプリメント事業を始めました。
ビジネスモデルはシンプルで、ユーザーごとに最適なサプリメントを選び、毎日飲む分だけ小分けに包装して、郵送するサブスクリプション型の事業です。
毎日を1日目のようなフレッシュな気分で過ごしてほしいと思い、サービス名はDayone(デイワン)と命名しました。
今やっているのはその事業ではありませんよね。
そうですね。今もサプリメントのスタートアップはいくつかありますし、資金調達もしているので、市場的には全然成り立つと思います。
しかし、私たちは始めたときに勝ち筋の描き方を間違ってしまいました。
今ならば、攻めたマーケティングや訴求をできるかが、どれだけサプリメント事業において重要だったか分かります。ただ当時はまだ青く、そんな飾りではなく、サービス自体の価値で勝負すべきだと考えて走り出しました。
しかし、市場やβ版のユーザー評価を分析すると、サービスや製品自体の価値よりも、ブランドイメージや訴求方法で選ばれている側面が大きいことが分かってきました。
そこに自分の人生を懸けたいか考えた時、迷ったんですよね。代表である自分が迷っていたら事業は絶対にうまくいかないと思い、やめる決断をしました。
(写真:ami)
そこからなぜ今の事業に。
サプリメント事業をやっていた時、クローズドβ版で200人くらいのユーザーにサービスを提供していました。
仮説検証をするうちに、ユーザーが使っている理由や辞める理由が取りにくいことに気付きました。友人関係にあるユーザーならばすぐに聞けますが、通常のユーザーと企業の関係では、ユーザーまでの距離が遠く、考えを把握するのが難しくなります。
また、ユーザーが自分たちのサービスを他の人に勧めてくれたり、アイデアやフィードバックをくれても、それに対して報いることができないことにも課題を感じていました。
しかしそのときは、リソースが少なく開発も大変ですし、toCのサービスでオフラインでの対策も現実的ではなかったので、自分たちでその課題に対して取り組むのは仕方なく諦めました。
そこから、サプリメントビジネスを辞めると決めたとき、コミュニティ施策に課題感があったことを思い出したのが、今の事業を始めたきっかけです。
その後、知人の起業家にヒアリングしていく中で、ニーズがあると判断し、ピボットを決めました。
まさかサプリメントからコミュニティに事業が変わるとは、創業当初は思いませんでしたが、1つ目の事業をやっていなければ、今の事業アイディアを見つけられなかったのも事実です。
原体験は大事だと思いますが、「原体験をつくりにいく」のも重要だと思います。
「原体験がないと何もできない」ではなく、まずやってみる。やってみて、自分の中に原体験をつくりにいくのもありなんじゃないかと今なら思います。
聞き手:松岡遥歌、文:町田大地
(後編に続く)
*情報開示:コミューンの株主であるUB Venturesは、INITIALと同じユーザベースグループに所属しています。