働き方改革による「複業・副業」解禁から約1年。いまだに日本の社会では長時間働く人の方が偉いという風潮が残っている。
「なぜ一社で仕事しかしてないおじさんが偉そうで、仕事と子育てで2つのバリューを出してる女性が肩身の狭い思いをしているんだろう」
NTTドコモ、DeNAで10年以上新規事業の立ち上げに従事した後、2017年にuni’queを創業した若宮 和男氏はこう語る。
同社は長時間労働が是とされる風潮に異を唱え、代表も含めて全員複業をルールにして働いていることが特徴だ。
オーダーメイドのネイルサービスを展開する中で、昨年出演したTV番組「池上彰vs100人の社長」で見た衝撃の光景から起業家支援の事業も始めたという。
「誰もが当たり前に活躍するために、複業は必要です」と語る若宮氏に、uni’queの事業や全員複業に至った理由、「バンドスタイル」と呼ばれる独自の働き方とマネジメント方法について話を伺った。
若宮 和男(わかみや・かずお)/ uni’que代表取締役社長、ランサーズ タレント社員/Product Value Manager。建築士としてキャリアをスタート後、東京大学にてアート研究者となる。 NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げに従事。女性主体の事業が少ない日本の現状に課題を感じ、2017年にuni’queを創業。
生きるって複業
uni’queは「複業」OKではなく、全員複業をルールにしているのがユニークですね。
uni’queは女性向けサービスに特化したスタートアップです。
ユーザーだけでなく、社員の大半も女性です。どうしたら女性が当たり前に活躍できるだろう?と考えて、たどり着いた答えが「複業」でした。
全員複業ルールの中では、お金を稼いでいるかは関係なく、自分が懸命に価値を出しているものを業としています。なので、ママ業も”業”としてとらえています。
そもそも人は生きる上でママ業や彼氏業などたくさんの”業”をパラレルにこなしているじゃないですか。
会う人によって自分のアカウントを切り替えるようなイメージで、自然と時間は切り分けて使っていますよね。なので複数の仕事を持つのはそこまで大変ではありません。
そう考えると複業の方が自然で、一社で一つの仕事しかしない方が不自然という捉え方もできますよね。
女性はどうしてもキャリアのピークと出産適齢期のタイミングが一緒になるので、二択になるケースが多いですが、どちらも自然にやれる方が良いと考えています。
すごく柔軟な考え方ですね。
大企業で働いていたとき、4時頃になると時短勤務をしている女性がいつも申し訳なさそうに保育園に迎えに行っていたんです。
ママ業で子育てをしながら、会社でも働き2つのバリューを出している。そんな女性が会社内で肩身狭そうにしている姿がおかしいし、なぜ仕事しかしないおじさんの方が偉そうにしているんだろう?と疑問だったんですよ。
働き方改革の流れもありますが、いまだに日本の社会では「たくさん働いている人が偉い」風潮が残っていますよね。
長い時間働いた方が偉い価値観だと、体力・ライフステージでの変化上、女性よりも男性の方が有利じゃないですか。
短い時間でもバリューが出せること、働く量とその人が出す価値は比例しないことを証明したくて全員複業のスタイルを始めました。
最初は「複業OK」で始めたんですが、自分が複業しないとマネジメントができないと思ってルールにしています。
ネイルと起業支援の事業
なぜ事業領域を女性向けサービスに特化しているのですか。
NTTドコモ、DeNAで新規事業の立ち上げに携わっていた際に感じた違和感がきっかけです。
当時、新規事業の部署にいる女性比率は1割を切っていたんですね。女性がどんなに事業を提案しても、ニーズが理解されずに新規事業が立ち上がらないケースをいくつも見てきました。
消費者・ユーザーの半分は女性だし、メルカリやInstagramなどのサービスは主に女性のニーズを捉えて急成長しましたよね。
新規事業の現場では理解されにくかったですが、女性向けのサービスは事業機会があると思いネイル事業で起業しました。
現在はオーダーメイドのネイルをアプリでつくれるサービス「YourNail(ユアネイル)」と、女性特化のインキュベート事業「Your(ユア)」を展開しています。
(画像:uni'que提供)
YourNailは、アプリで自由にネイルデザインができ、フィルムにプリントしてお届けするtoC向けのサービスです。デザインがカスタマイズできること、その人のサイズにあったネイルがオーダーメイドできることが特徴です。
(画像:uni'que提供)
5%しか実際に起業しない
昨年出演したTV番組「池上彰vsニッポンの社長100人」で衝撃の光景があったと伺っています。
出演した社長100人のうち、95%が男性だったんです。女性社長はわずか5%で、新規事業の部署にいた時よりもさらに少ない。
収録時間のトイレ休憩も衝撃的で。男子トイレにだけ行列が外にまであって、女子トイレは誰も並んでいない。普通、花火大会や日常のイベントではありえない光景でした。
(画像:uni’que提供)
女性社長はわずか5%。どうして女性の起業家が少ないのでしょうか。
起業のハードルを高く感じているのと、ロールモデルが不足しているからだと思います。
起業してからの2年間で数十件以上女性からの事業相談に乗りました。ただ、その中で起業した人は5%ぐらいしかいないです。
たとえば、起業前後の相談でよく受けるのが、結婚や出産などのライフステージの変化でも起業をやっていけるか悩んでいること。「起業=フルコミット、プライベートなし」の考え方が前提になっていることが要因です。
また、起業家の数自体が少ないので、ロールモデルも少ない。
元リクルートや元外資コンサルでタフワークをやるバリキャリのイメージが強く、引け目を感じて起業を諦めてしまうケースも見られます。ロールモデルの選択肢が広がれば、解消できると思います。
相談に載った方々は良い事業アイデアを持っていたので、起業意欲自体に男女差はまったくないと思うんですよ。
つくりたい事業や社会へのバリューは確固とした思いがあっても、具体的にシステムや事業計画に落とし込み、資本政策を立てる段階でつまづくことが多いんです。
意欲がある方が、実際に起業するまでのハードルを下げることはできないか。そう思い、2019年9月に女性向けのインキュベート事業「Your」を立ち上げました。
(画像:uni’que提供)
伴走型の「複業」起業
起業家を支援する「Your」はどのような内容ですか。
事業アイデアはあるがどうやって形にしていいか分からないーこのような女性の方に向けた複業でも起業できるプログラムです。
われわれが提供するのは、システム開発、資本政策や株式など起業に必要な知識、メンタリング、そして複業でもチャレンジできる環境です。サポーター企業としてPlug and Play、資生堂のプログラムfibonaとも連携しています。
応募いただいた方には複業でuni’queメンバーになってもらい、事業立ち上げ経験のあるuni’queのメンバーが伴走しながら事業を立ち上げます。
事業が一定の条件をクリアした段階で分社化・株式譲渡をして、子会社の代表としてオーナーシップを持ってもらえる仕組みです。
(画像:uni’que提供)
自ら起業するのと、企業内で新規事業を立ち上げるのと何が違うのでしょうか。
自分で起業したら会社の株を100%持つところからスタートできますが、すべて自分でやる必要があります。
一方企業で新規事業をやる場合は、事業責任者になっていても、最終的にその事業の進退を判断するのは会社です。
「Your」では新規事業立ち上げの経験が長い私や、YourNailを立ち上げたプロダクトマネージャー・デザイナー・広報・エンジニアがしっかり伴走する。
その代わりに事業が立ち上がった後も子会社となるので、新規事業から会社としての売上・利益を増やすことができ、uni’queとしてもメリットがある形になっています。
会社を分社化するときは、3分の1~49%までの株を譲渡します。3分の1以上の株式があれば拒否権もありますし、 調達に動いて過半数以上の株式を取得し、自分の会社にすることもできる仕組みにしています。
新規事業の立ち上げに長年携わっていた経験から、応募した方にはどのようにアドバイスをしますか。
計画を緻密に作るよりも、まず実際にやってみることを提案しています。
新規事業をやっていると、当初の計画とは全く違うものになる可能性も大いにあります。 納得いくまで企画書直しをするよりも、やり始めた方が圧倒的に早い。とにかくまず事業を始める、そのために一緒に考えるサポートをします。
ゼロから立ち上げるフェーズは、ロジカルシンキングよりも内発的な衝動が大事だと思います。今応募がある事業アイデアは、教育や保育など身近なテーマが多いです。
バンドスタイルの働き方
全員複業で会社の運営はうまくいきますか。
複業で起業できるプログラムを提供していますし、まずは自分たちが全員複業で事業を成長させ、事業立ち上げを成功させることが重要です。
そのために私たちは「バンドスタイル」の働き方をしています。
CEOである私(指揮者)が全体を指揮するオーケストラではなく、それぞれのメンバー(楽器パート)が自由に演奏して音楽を作っていくイメージです。
チームをうまく運営するために心がけていることが3つあります。
1つ目は、事業の価値の旗はしっかり立てて、それに照らして行動を決めること。
たとえばYourNailでは、「あなたらしいネイルでつながる新しい世界」を事業の価値においています。
新たな施策をやるときも、この価値が判断基準になります。「新しいつながりを生むか」という観点で、それぞれが自分で考えて行動しています。
2つ目は、CEOがすべて決めないこと。
ピラミッド型の決裁を辞めて、CEOが必ず意思決定するのではなく、たとえばデザイン面ならデザイナーが全て判断する形をとっています。基本的には事後報告です。
スタートアップはスピードが命です。私に許可を求めていても時間がもったいないですし、資料を作る時間があったら事業を進めてほしい。
社内会議はほとんどないですね。事前に議論しても正解は分からないですし、失敗してもどうリカバリーするかが大事なので。
3つ目は、雑談のためにつながる時間をつくること。
毎週水曜日の朝に、オンラインでチーム全員がつながる時間をつくっています。議題があるわけではなく、「キャンプ行ったよ」などの雑談がメインですし、何も話さないこともあります。
ただつながる。時間を共有することでコミュニケーション量を担保しています。
各自が活動しているバンドメンバーなので、全員複業だと、チャットツールでのやりとりが中心で、物理的に全員揃って会うのは半年に一回なんですよ。
直接的なコミュニケーションが少ないからこそ、難しい部分もありますが工夫してバンドスタイルを続けています。
(画像:若宮さんの発言を元に筆者作成)
感性を生かしたスタートアップへ
最後にuni’queが目指す未来を教えてください。
複業や柔軟な働き方で、感性を重視したスタートアップのあり方を広めていきたいです。
全力で速く大きくなるだけがスタートアップの形ではない。私たちはしなやかに美しくリズムに合わせる「フィギュアスケート型スタートアップ」のスタイルを実践していきます。
(画像:若宮さんのコメントを元に筆者作成)
ダイバーシティの環境づくりは、女性のためだけではなく、男性含めたみんなが働きやすい社会になるために必要です。
本当は、あまり「女性」を強調したくないんですよ(笑)
ただ現状女性の起業家も少ないですし、働きやすい環境が少ない。
感性を大切にした全員複業の形はまだ普通ではありませんが、未来の働き方のスタンダードになるかもしれません。
私たちは誰もが当たり前に活躍できるようなカルチャーづくりに挑戦していきます。
聞き手:松岡 遥歌、編集:藤野 理沙、写真:ami
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