ログイン

  1. ホーム
  2. オリジナル記事
  3. ARはリアルな人の繋がりを豊かにするのか?拡張現実の可能性に込めた想い
2019/09/13

ARはリアルな人の繋がりを豊かにするのか?拡張現実の可能性に込めた想い

  • #起業ストーリー
  • #AR

ARとは「Augmented Reality」の略で、一般的に「拡張現実」と訳されるが、目の前の景色にバーチャル映像を重ね合わせることで、文字通り世界を拡張することができる。

その技術は、小売や医療など様々な業界でイノベーションを起こしているが、その中でもAR×エンタメの軸で「リアルな体験」のアップデートに挑むプレティア。

共同創業者の李禎み氏は、なぜ「AR」という手段で挑戦を続けるのか。そこには「機会平等をみんなに保証する」という李さんが持つビジョンと、ARの意外な結びつきがあった。

※本記事は、2019/3/4に公開された記事2019/3/5に公開された記事を再編集し、公開したものです。

CONTENTS

サービス内容を教えてください。

李さん(以下、李)私たちプレティア株式会社は、『サラと謎のハッカークラブ』という渋谷を舞台にしたAR謎解きゲームと、ARコンテンツを各地に簡単に出現させるために必要な、「ARクラウド」と呼ばれる基盤技術の制作・開発をしています。

image1 リサイズ

李禎み(り・よしみ)/ 東京大学経済学部卒業。中国生まれ、東京育ち。日英中のトリリンガル。在学中に、大手スタートアップでの長期インターンや中国への長期留学を経験。大学卒業後、在学中より関わっていたARスタートアッププレティア株式会社に、共同創業者として正式参画。

AR謎解きゲームは、リアル謎解きゲームと、ポケモンGOを掛け合わせたものを想像していただければと思います。

実際の渋谷の街を舞台に、私たちが開発したARアプリを使って渋谷中に仕掛けられた謎を解きながら、ミッションクリアを目指すゲームです。

機会格差に気付いた幼少期

ARで起業することは昔から考えていたのでしょうか?

もともとARの専門家でもありませんし、実は国連などの国際機関で働くことを目指していました。

苗字から分かるかと思いますが、私は中国生まれで、2歳半のときに両親の都合で来日しました。そこから日本で生活し、中学校に入学するタイミングで日本国籍に帰化しました。

中学校以降も基本的に東京で育ち、東京大学の経済学部に進学し、中国の清華大学に1年間留学した後2017年に卒業しました。

 国際機関で働くことを目指したのはなぜでしょうか?

これには私の出自が関係しています。中国に親戚がいるので、小学生の頃は数年に1回は中国に規制する機会がありました。

両親は中国でも田舎の出身なので、私が帰省すると、「今日は夜6時以降、電気がつながらないから早く寝てね」と言われたりするわけです。

一方東京では、水道・電気・ガスを不自由なく使えている。同じ時代に生きているのにこれだけ生活水準が違うことに、小学生ながらショックを受けました。

私自身、正義感が強かったこともあり、「生まれた場所が違うだけで生活が不自由になるなんて、不公平ではないか」と感じるようになり、世界にまだ残っている格差問題に、強く興味を持つようになりました。

そうする内に自然と「どこの地域で生まれようが、どういうバックグラウンドで生まれようが、みんなが努力をした分、等しく豊かな生活が送れる社会をつくりたい」と思うようになったんです。

image3 リサイズ

中学生になり英語の勉強を始めてからは国際機関に目がいくようになり、世界中の人と協力しながら、誰もが豊かに生きられる社会をつくる人材になりたいと思っていました。

大学ではどのように時間を過ごしていたのでしょうか?

そういう想いを抱いて大学に入ったのですが、そこで挫折を経験しました。

中高生の時は自信家でしたが、大学で自分より賢い人を目の当たりにして、「私が頑張らなくても、この人たちに任せていれば世界はよくなりそうだな」と考えてしまい、入学して最初の2年間は国際機関のことを考えなくなってしまいました。

しかし清華大学への留学をきっかけに、かつて自分が小さいときに持っていた「みんなが豊かに生きられる社会をつくる人材になる」という想いが蘇り、国際機関で働くことを再び目指し始めました。

私は経済学部の人間だったので、目標の世界をつくるために世界銀行やIMF(国際通貨基金)でエコノミストになるのがいいだろうと安直に考えました。

そのためには何をすればいいかを、いろんな人に聞いているうちに、世界銀行などで働くには、世界のトップスクールで博士を取るのが当たり前ということを知ります。考えてみれば当たり前なのですが、自分が思っていたより就職のハードルが高いことに気付いたんです。

大学卒業までの残り時間を考えるとトップスクールの入試勉強が間に合いません。その後いろんな人に相談した結果、一度社会人経験を積めば別ルートでも就職できる可能性があると聞き、社会人経験を積むために就活することにしました。

国際機関のキャリアを歩むために、就活をはじめたんですね。

ちょうど私が就活を始めたタイミングで、大学1年生のときからずっと仲が良かった代表の牛尾がプレティア株式会社を創りました。

就活を始めたタイミングではスタートアップが何かも把握していなかったんですよね(笑)。しかし、牛尾と何かやるととてもワクワクする経験ができることは過去にプロジェクトを一緒にやっていたので知っていました。また、人間としても信頼していたので、「私に何か手伝えることがあれば何でもやります」という感じで関わり始めたんですよね。

そうしてプレティアを手伝いつつ就活をして、いろいろな方と接する中で、自分の考えが急速に変わっていくのを感じました。

たとえば途上国のインフラプロジェクトに関わるような総合商社で働くことも、国ごとの格差を解消する1つのアプローチです。しかしそうではなく、スタートアップという世の中を変える方法に惹かれている自分に気付きました。

image2

エコノミストに憧れていたのも、究極的には「どこの地域で生まれようが、どういうバックグラウンドで生まれようが、みんなが等しく努力をした分、豊かな生活が送れる社会をつくりたい」からで、それを実現するアプローチはいくらでもあるなと。

自分自身「こういう世界をつくりたい」という想いを軸にキャリアに関する意思決定をしようとしていました。そうすると「世界のこういう問題を解決したいんだ」という思いで挑戦している、スタートアップの人たちと一緒にいるときが、一番楽しいと感じたんです。

AR技術が実現する、「リアルな人との繋がり」とは

そこからさらに、自身の課題感とARエンタメが結びついたきっかけを教えていただきたいです。

プレティアは「人間の生活を根本から変えるような技術を使ってサービスをつくろう」というところから始まっている会社なので、その文脈でAR/VR技術に注目するようになったのですが、技術について深く知れば知るほど、それらが持つ可能性に惹かれていきました。

とくにARは、「何もないところに、低コストで面白いコンテンツをつくれる」ところが大きな価値だと思っています。

ARは、大型商業施設やアトラクション施設といったハードを通して人間に与えてきたリアリティを、コンピューティング資源に置き換えます。

いちからハードを作る必要がないため生産コストは大きく下がりますから、より簡単に面白いコンテンツを世の中に提供することができるんです。

「どこにいても、誰であっても、面白いコンテンツにいつでもアクセスできる」ことを可能にするAR技術が普及することで、「豊かな生活を送るための機会が皆に与えられたみんなが等しく機会を得られる世界」を実現させることができると考えています。

58443873 2575658975795852 6385669586561269760 n

プレティアが提供する、AR謎解きゲーム「サラと謎のハッカークラブ」の画面

なぜAR技術を用いた事業展開を選択されたのでしょうか。

AR技術は、リアルとデジタルの境界を融合させることができるテクノロジーです。

砂漠に本来は存在しないオアシスを出現させたり、街中にポケモンを登場させるといった、「何もないところに面白いコンテンツを出現させられる」こと、これが私たちが信じるARの価値です。

昔はハードありきのコンテンツが世の中を占めていましたが、インターネットが発達してからは、コンテンツの舞台はオンラインに移りましたよね。

オンラインでは、人と人とのコミュニケーションをスムーズに、かつインスタントにすることにフォーカスを当てたサービスが多いと思います。

しかし私たちは、オンラインではなく「リアル」で人々を繋げることこそが、社会に対する本質的な価値提供だと信じています。

ユーザーヒアリングを繰り返していく中で、ミレニアル世代のユーザーが「一緒に時間を過ごして遊ぶのが一番楽しい」と話してくれました。

インターネットが発達して、オンラインで距離時間関係なく繋がれるとしても、リアルの場での体験価値は変わらない、と気付いたのです。

AR技術を用いているからこそ、リアルを越えた表現が可能となり、これまでにない体験価値を提供できると思っています。

余談にはなりますが、こういった考えは、VR旅行サービスを一旦やめてピボットするときに、いろいろなアイデアを試していた過程でたどり着いたものになります。

image5

その頃は、自分たちが考えている新しいサービスのターゲットになりそうな方をセンター街付近で見つけては、「ちょっとお話聞かせてくれませんか?」と声をかけ渋谷のスクランブル交差点のスターバックスでインタビューを実施していました。

その生活を1カ月ぐらい続けて、「この方にハッピーな時間を提供できるサービスって何だろう」とメンバーで毎日考えていたときに、「やっぱり友達と会って、一緒に遊んでいる時間が一番楽しいです」という声が多いという結論に至ったんですね。

「どんなオンラインサービスやアプリが好きですか?」「なんでそれが好きなんですか?どうやって使っているんですか?」と聞くと、多くの方が「友達と会えないから使っています」と答えていたんです。

そこから「本当は友達と会いたいし、一緒に遊びたい」というユーザーの心の声が聞こえてきて、そのとき初めて「今までオンラインにこだわっていたけれど、自分たちがプレティアとしてやりたいことは、リアルの場での人との繋がりを豊かにするサービスだ」と思いました。

ARへの愛が深まった転換点を教えてください。

私たちがAR/VR技術に注目し始めてから、一番最初に開発したサービスを体験してもらったときの「ユーザーの笑顔」は、間違いなくこの領域に対する自分の愛を深めましたね。

今プレティアでは、ARエンタメで『サラ謎』をつくっていますが、もともとはVR旅行サービスをつくっていました。

VR旅行サービスをつくっているときも、ARとは少し文脈が違いますが、VR技術の「人間の能力をフルに発揮する手助けができる」部分に惹かれていました。

私たちがつくっていたVR旅行サービスは、「ヘッドセット被って360度動画を見ると、自分が行ったことのない場所に、まるで行ったかのような体験を得られる」擬似旅行体験を提供するものでした。

海外の友達に自分たちが作った日本旅行のVRコンテンツを見せたときに、「何これ、すごい!」「行ったことないのに、本当に行ったような気分になれる!」と目の前でとても感動してくれて。

そのときの友達の笑顔は、今でも鮮明に私の脳裏に焼き付いていますね。

そういったユーザーの笑顔を目の当たりにした経験から、少しずつ自分の中でAR/VRに対する期待や可能性への確信が強まってきたという経緯です。

やっぱりリアルでの価値というのは絶対に消えないですよね。

どんなに技術が進歩しても、人間が社会的な動物である以上、他人とのつながりを求めて生きていくと思うので、「人との繋がりを豊かにすることが、真にハッピーな生活を送るには必要」というのが、プレティアの共通認識です。

image4

本文・写真:ami


関連する企業


おすすめ記事
  • JAXA、経産省を辞めて起業家に。「アート発VRサービス」に見出した可能性
    • #起業ストーリー
    • #VR