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2019/12/02

FABRIC TOKYOの組織に見る、「小売」と「D2C」の本質的な違いとは

  • #D2C

オーダースーツなどのD2Cブランドを展開するFABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)。

同社は店舗でサイズを測定した後に、スマートフォンからスーツを注文するビジネスモデルで成長し、2019年12月現在、全国に18店舗を出店している。

今年9月にはSaaSとRetailを掛け合わせた「RaaS(Retail as a service)」構想を発表するなど、独自の事業戦略にも高い注目が集まる同社。

しかし意外にも、代表の森 雄一郎氏は「D2Cの最大のボトルネックは組織にある」と考えているという。

そのボトルネックをFABRIC TOKYOはどのように解決してきたのか。森氏に話を伺った。

CONTENTS

D2Cの難しさは「小売文化」と「ネット文化」の違いにある

「D2Cの最大のボトルネックは組織」と考える理由を教えてください。

D2Cは多岐にわたる組織を持つ必要があり、カルチャーや経歴が異なる人材を1つにまとめることが非常に難しい。

その意味で、組織は最大のボトルネックだと考えています。

メーカー、小売、そしてECビジネスでもあるD2Cは、サプライチェーンが非常に長い。これが組織づくりに大きく影響しています。

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森 雄一郎(もり ゆういちろう)/ 株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役社長 1986年岡山県出身。大学在学中、国内外ファッション情報サイトを立ち上げる。卒業後、ファッションイベント企画会社にて大手アパレル企業などのファッションショープロデュースに従事。その後、ベンチャー業界へ転向し、不動産ベンチャー「ソーシャルアパートメント」の事業開発を担当したほか、フリマアプリ「メルカリ」の創業期に参画しインターネットビジネスを経験。2012年に株式会社FABRIC TOKYO(旧ライフスタイルデザイン)を創業。自身が洋服のサイズに困っていた経験から、カスタムオーダーのファッションレーベル「FABRIC TOKYO(旧LaFabric)」をリリース。

そもそもD2Cは、小売文化にインターネット文化が出会って誕生した、データドリブンな成長を目指すビジネスだと考えています。

そのため、D2Cに適した組織を作り上げる上で、「従来の小売文化と異なる文化をどう創るか」が重要なポイントになります。

この文化の違いは、次のような側面から説明できると考えています。

(画像:INITIAL作成)

1点目は、製品開発と仮説検証について。 従来のアパレル業界は、基本的に「プロダクトアウト」の考え方で製品開発をしてきました。

ミラノコレクションやパリコレクションでトレンドができ、雑誌やメディアによって拡散され、世界のアパレル小売企業が動く、という流れです。

しかしインターネット業界は、プロダクトアウトとは正反対の「マーケットイン」の考え方が求められます。

データを通して顧客と向き合い、顧客それぞれの課題を解決する必要があるからです。

大手メディアが力をなくしていく一方、ニッチなメディアが読まれているように、人の個性は多様化し、大きなトレンドが無くなりつつある。

アパレル業界でも、1人1人に向き合った商品づくりやマーケティング戦略を立てる上で、「マーケットイン」の思考が重要になってきました。

(画像:Michael Nivelet/shutterstock)

製品開発の考え方が「マーケットイン」になると、仮説検証の方法も変わります。

従来の小売業界ではトップダウンで仮説が下りてくることが多いですが、D2Cでは顧客一人一人にあった製品を作る必要がある。

短期間で製品を作り仮説検証を行う、アジャイル的な考え方を取り入れていくことが求められます。

2点目が、人材について。 製品開発や仮説検証のやり方が変われば、採用すべき人材も変わってきます。

たとえばFABRIC TOKYOにおいて、来店から商品をお届けするまでの一連のユーザー体験を改善するプロジェクトがあったとします。

このプロジェクトは特定の一部署だけでは出来ません。デザイナーやエンジニア、商品企画、カスタマーサポートといった部署が連携して、プロジェクトに取り組む必要があります。

専門分野の人材を採用することも重要ですが、それ以上に、D2Cは他部署と横断的にコラボレーションできる組織でなければなりません。

(画像:FABRIC TOKYO提供資料を元にINITIAL作成)

徹底的に「オープン」な文化を組織に根付かせる取り組みを行う必要があります。

3点目が、KPIの設定について。

KPIの考え方を「PL思考」から「BS思考」に転換できるかどうかは、1つのハードルになると思います。

従来のアパレル業界は、「今期にどれだけ売上をあげられるか」を重視するPL思考で動いています。

従業員も長期的な視点の重要性を認識はしていますが、給料やボーナスを増やすために短期的な売り上げの目標を追わざるを得ません。

一方のD2Cは、LTVを主要な指標とする、BS思考で動きます。

(画像:FABRIC TOKYO提供資料を元にINITIAL作成)

われわれの場合、売上や利益ではなく、「顧客」と「店舗」の2つのユニットエコノミクスをKPIにおきました。

具体的には、顧客のユニットエコノミクスは「継続率」と「継続回数」を見ています。

「1年目に商品を購入した顧客が、2年目以降どれだけ継続購入したか」を示す継続率、「1顧客が、1年間に何着商品を購入したか」を示す継続回数の2つで測っていますね。

また、店舗のユニットエコノミクスは、1店舗の価値を「どれだけリピート顧客数を増やせたか」という視点で測っています。

ミルフィーユ的に、新規顧客とリピート顧客を積み上げる店舗をつくることが重要です。

4点目が、店舗の役割について。

(画像:FABRIC TOKYO提供資料を元にINITIAL作成)

D2Cにおけるリアル店舗の役割は、その場で顧客に商品を買ってもらうことではありません。購入はネット上で行うからです。

また、D2Cの顧客は店舗で商品を購入することを期待していません。

これらの点から考えると、「顧客の心理的安全をどう築くか」という目線が重要です。

従来のアパレル店舗に訪れる方の中には、接客されたくないがために、イヤホンを付けたまま入店する人もいますよね。

一方の従業員も、無理なノルマを課せられているために、無理な接客をして商品を売ることになる。結果として、多くの従業員が疲弊して辞めています。

このミスマッチは非常に悲しいことです。

(画像:FABRIC TOKYO提供資料よりINITIAL作成)FABRIC TOKYOの従業員数推移は順調に増加していることがうかがえる。

FABRIC TOKYOの店舗のスタッフは全部で70人ほど在籍していますが、実はここ2年で1人しか辞めていません。アパレル業界の平均的な離職率は30%程度ですが、われわれは3%を切っています。

店舗での売上ではなく、顧客満足度を追求することは、従業員の働きやすさにも繋がるのではないでしょうか。

仕組みで担保される、FABRIC TOKYOの文化

 新しい文化を組織に浸透させるのは、そう簡単なことではないですよね。

そうですね。

FABRIC TOKYOにD2Cの文化を根付かせるために、さまざまな独自の取り組みを行っています。

1つ目は、異なる部署間に共通の目標を持たせる「アラインメント」と呼ぶ仕組みです。

アラインメントの事例の1つに、「離反客(購入したスーツに不満があっても、連絡を特にしないまま離れてしまう顧客)を減らす」というものがありました。

離反客の増加はリピート率の低下につながるため、経営インパクトの大きい課題として、全社的に対応すべきものです。

普通であれば特定の一部署が主導するのかもしれませんが、開発・マーケティング・オペレーションの3部署のアラインメントとして取り組みました。

最終的にはヤマト運輸さんと連携して、購入履歴からワンタップで返送が可能な「簡単にスーツのお直しを手配できる仕組み」という形になりました。

この仕組みは今後リリースする予定で動いています。

「それは〇〇部署の仕事だよね」というたらい回しを回避し、共通の目標に向かって仕事ができることがアラインメントのメリットです。

2つ目が、TRYプロジェクトです。

FABRIC TOKYOでは、役職や社歴関係なく「小さなリスクを取る = チャレンジする」人を応援するため、さまざまな部署の人が集まって1つのプロジェクトに参画&推進できる「TRYプロジェクト」という仕組みがあります。

TRYプロジェクトはさまざまな部署から有志の参加者を集めて行う形にしています。

これまで、採用プロジェクトや、新入社員の受け入れを行うオンボーディングなどのTRYプロジェクトを行ってきました。

実はこの代々木オフィスへの移転も、5部署から集まった有志が主導したTRYプロジェクトです。

有志の中には普段オフィスには来ない店舗のスタッフもおり、彼らならではの「接客の研修をしやすいようにデモショップをつくったらどうか」というアイデアから生まれたのが、実際のショップを再現したこのエリアです。

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代々木オフィス内には、FABRIC TOKYOの店舗のレイアウトが再現されたデモショップのエリアが設けられている。

このエリアで行う「接客研修」もFABRIC TOKYOならではだと思います。

エンジニアや管理部門の人材であっても、接客や小売の知識を徹底的に習得するために、入社して最初の1カ月間は接客研修をするんです。

接客の知識はもちろんのこと、複数の部署の人と一緒に研修することで、同期のような関係性も築くこともできます。

研修後にそれぞれの部署に散らばっても、コミュニケーションしやすい土台が出来ています。

組織をつくる中で、特に立ち上げに苦労した組織やチームはありますか?

優秀な執行役員や部長がいればチーム自体は立ち上がります。それよりも、チーム間のコラボレーションが難しいんです。

D2Cのスタートアップであるわれわれと全く同じ業界は存在していません。中途採用によって様々な業界から人材を集める必要があります。

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デジタル人材はIT業界から採用し、アパレル人材はアパレル業界から採用しますが、カルチャーや考え方がすぐに折り合うことはありません。

FABRIC TOKYOも、その部分は苦労されているということでしょうか。

たしかに今でも苦労している部分ではあります。

しかし、採用候補者の方に志望理由を聞くと、「FABRIC TOKYOが面白いから」と答える人が8割程度です。実は「特定の仕事がやりたい」と答える人の方が少数派なんですよね。

「自分が今できることはこれだけど、次はこの仕事にチャレンジしたい」と考える人材が多いため、「社内転職チャレンジ」とよぶ仕組みがあります。

「社内転職チャレンジ」は、入社して1年以上であれば、社内の別の部署に異動できる仕組みです。

販売・カスタマーサポート・サプライチェーンマネージメント・新規事業開発など複数の選択肢があり、これまで全社員の内10%程度が社内転職チャレンジを経験しています。

われわれの事業はサプライチェーンが長い分、各部署の業務や役割も複雑です。

この転職チャレンジによって、新しいことに挑戦できるだけでなく、部署間のやりとりが多く発生するので、全体のコミュニケーションも活発になるんですよね。

継続的に商品を購入してもらうために、どのような取り組みをしていますか。

スーツは月額課金ではなく、顧客が買いたいタイミングで販売するモデルです。「同じ顧客が3年後も購入しているか」といった長期的な継続率は追うのは難しい。

そこでわれわれは、「商品が手元に届くまでに満足度を高められた顧客は離反しない」という仮定に基づき、3回のアンケートで満足度を調査し、各部署にフィードバックしています。

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1回目のアンケートは、来店のタイミングで行います。来店後、すぐにアンケートをお送りし満足度を調査します。

2回目は、商品を注文するタイミングです。FABRIC TOKYOでは店舗でサイズを計測し、注文はネットで行う仕組みになっているため、来店日と注文日は平均して10日程度ずれています。

このタイミングでもう1度アンケートを行い、来店時の満足度と、注文時の満足度の2つを取っています。

3回目が、商品が届いたタイミングで行います。発注してから平均して30日後に届くので、そのタイミングで商品の着心地の満足度を取っています。

ただし、アンケートの目的はあくまでサービスの品質を保ち、離反客を防ぐことにあります。このアンケートの数値だけを改善しても、リピート率は100%にはなりません。

そこでプラスアルファの要素として取り組んでいることが、商品のラインナップを拡大させることです。

たとえば、われわれはスーツを取り扱っていますが、次の商品としてシャツの展開を始めると、購入者数も購入品数も増えるんですよね。

実際にポロシャツなどの販売も行っていますが、新しい顧客にアプローチするのではなく、リピート顧客にプロモーションしているイメージです。

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2019年5月には、「自動のサイズマッチング」と「完全受注生産」を掛け合わせたビジネスポロシャツの販売を開始している。(画像:FABRIC TOKYO公式ホームページより)

「RaaS」で目指すのはApple並のユーザー体験

RaaSで目指すことを教えてください。

そもそも私がRaaS構想を打ち出したのは、「フロー型」ではなく「ストック型」のビジネスをしたいと考えたからです。

これには2つの背景があります。

まず1つは、日本の人口が減っていること。

日本での新規顧客の獲得には限界が来ますし、競合が増えれば顧客の取り合いになってしまいます。

既存顧客が継続的に利益をもたらす、ストック型のビジネスの方がサステイナブルだと考えています。

2つ目が、顧客に寄り添ったビジネスをしたい、ということです。

「寄り添う」とは、サービスが安定して存在し、顧客に価値を提供し続けることだと考えています。

弊社CFOの三嶋の実体験ですが、かつて愛用していたオーダースーツのお店が潰れてしまい、別に案内されたお店に行くはめになったそうなんです。

しかし、そのお店では購入履歴や自分の好みが共有されておらず、テーラーとも相性が合わなかった、と話していました。

これはあくまで一例ですが、「サービスが不安定」な体験は誰にでも起こりうると思います。

販売して終わりではなく、その後の利用もサービス化して、顧客単価を上げていくことができるかが重要です。

以上の2つの背景から、Retail as a Service、「小売のサービス化」を掲げました。

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2019年10月には、月額398円でスーツの保証・交換・補修をサポートする「FABRIC TOKYO 100」の提供を開始している。(画像:森氏ブログ”MORILOG”より引用)

たとえばAppleは、iPhoneやMac Bookといったデバイスだけでなく、AppleMusicや、iCloudといった月額課金のサービスも展開しています。

そのサービスが便利であれば、次の買い替えタイミングでもAppleのデバイスを買い続ける理由に繋がります。

つまり、デバイスとサービスの両方からビジネスを構築して、ユーザー体験をサポートしているんですよね。

この体験は今はAppleしか実現できていませんが、これから小売のあらゆる分野で当たり前になる可能性があります。

そこで1年前に、「アパレル業界では、FABRIC TOKYOがRaaSのファーストペンギンになろう」と社内で宣言しました。

この考えには従業員や株主も賛同してくれています。売上や利益ではなく、リピーターのコアな顧客をどれだけ大切にできるかを考える人たちだからです。

「RaaS」の方向に舵を切り、「販売はゴールではなく、販売がスタート」と考えるFABRIC TOKYOを創っていきます。

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聞き手:佐久間衡、文:三浦英之、写真:INITIAL


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