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2026/07/23

総額増の裏で深まる選別――2026年上半期スタートアップ資金調達動向

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2026年上半期の日本のスタートアップ資金調達総額は3779億円と、前年同期比で12%増加した。ただし、50億円以上の調達額が345億円から780億円へと2倍超に増加する一方、50億円未満は1%減少。Sakana AIを除くと市場全体の伸びは2%にとどまり、調達総額の増加は一部の大型案件に支えられた。

その内側では、シリーズC、とくに設立から年数を重ねた企業への資金が縮小した。中・大型調達には国内独立系VCと事業法人の共同参加が増えたものの、足元の投資は過去5年以内に組成された大型ファンドへの依存度が高い。

EXITではM&A関連件数が増加する一方、IPOは減少した。調達総額は伸びたものの、成長資金の供給からEXIT、投資家への資金還流までをつなぐ市場の循環には、なお課題が残る。

本稿はSpeedaが7月30日(木)に公開する国内スタートアップの資金調達動向をまとめたレポート『Japan Startup Finance 2026 上半期』に先立ち、速報としてエッセンスをまとめた。8月24日(月)11時にはオンラインでの解説セミナーも実施する(お申し込みはこちら)。

CONTENTS

総額増を押し上げたSakana AIと大型案件

2026年上半期の国内スタートアップ資金調達額は、2026年7月22日時点で3779億円となった。観測ラグを考慮し、2025年7月9日時点で集計した前年上半期の3388億円と比べると、391億円(12%)増加した。

もっとも、2026年上半期の特徴は、単に総額が増えたことではない。増加の中身を見ると、少数の大型案件が全体を押し上げた構図が見えてくる。

50億円以上を調達した企業は、2025年上半期の4社から2026年上半期には9社へ倍増した。その合計額も、2025年7月9日時点の345億円から、2026年7月22日時点では780億円へ増加した。増加額は435億円となり、調達総額全体の増加額391億円を上回る。大型調達の増加が、それ以外の案件における減少を補い、市場全体の金額を押し上げたことになる。

一方、50億円未満の企業による調達総額は、2025年上半期の3043億円から2026年上半期には2999億円へ減少した。前年同時期比では1%減となり、50億円以上とは対照的な動きがみられる。

調達規模別に詳しく見ると、10億円未満と10億円以上20億円未満は前年とほぼ同水準だった一方、20億円以上50億円未満は14%減少した。大きく伸びたのは50億円以上の区分だけであり、総額の増加が各規模帯に広がっていたわけではない。

なかでも2026年上半期最大の調達案件となった、AI基盤モデルを開発するSakana AIの310億円調達を除くと、上半期の調達総額は前年同時期から2%の増加にとどまり、総額の伸びが少数の大型案件に支えられていたことが分かる。

一方、2026年上半期の調達企業数やラウンド数は、2025年上半期の同時期集計値を上回っている。ただし、公開情報をもとに集計する資金調達データは、直近の案件ほど後から追加されやすい。特に小規模案件や企業数、件数は観測ラグの影響を受けやすく、現時点の増加をそのまま市場の裾野の拡大と評価することはできない。

企業数や件数による評価には今後の追加捕捉を待つ必要があるものの、調達金額の構成からは明確な傾向が確認できる。2026年上半期は、市場全体の資金調達環境が一様に改善したのではなく、50億円以上を調達した少数の企業へ資金が集中した半期だった。

シリーズC、とくに成熟企業への資金が縮小

シリーズ別に調達額をみると、大型案件が調達総額を押し上げる一方、シリーズCへの資金配分は縮小した。2026年上半期のシリーズC調達額は463億円だった。2025年7月9日時点で集計した前年上半期の608億円から24%減少している。調達企業数も107社から99社へ8%減っており、社数以上に金額の落ち込みが大きい。

ただし、シリーズCは必ずしも設立から長い企業だけで構成されているわけではない。現在シリーズCにある企業の設立後年数中央値は10年である。これを基準にみると、設立10年未満の調達額は465億円から424億円へ9%減少した一方、10年以上では143億円から39億円へ73%減少した。シリーズC全体の調達額が24%減少するなか、縮小は設立10年以上の企業で特に大きい。

セクター別では、SaaSの成長・レイター段階の弱さが目立つ。SaaS全体の調達額は、2025年7月9日時点で集計した前年上半期の671億円から、2026年上半期には536億円へ20%減少した。なかでもシリーズCは115億円から67億円へ42%減、シリーズD以降は133億円から70億円へ47%減少している。

2025年7月9日時点でシリーズCだった企業でも、その後の12カ月以内の後続調達率低下と調達額の集中がみられ、今回の動きと整合する可能性はある。ただし、調達間隔の長期化を排除できないため、選別が継続的な傾向かどうかは、今後期間を延ばして追跡する必要がある。

調達額上位20社:ディープテックと産業特化型AIに資金が向かう

2026年上半期の調達額上位20社は合計1162億円と、調達総額の31%を占めた。2025年7月9日時点の前年上半期の26%から比率は上昇しており、大型案件への集中が強まっている。上位企業に共通するのは、研究開発や量産、海外展開、事業基盤の拡張など、大型資金を必要とする企業が並ぶ。

調達額トップは、AIエージェント・基盤モデルを開発するSakana AI。シリーズDで310億円を調達し、市場全体の約8%、上位20社の調達総額の4分の1超を占めた。1社としては突出した規模の資金調達となり、2026年上半期の大型調達を象徴する案件となった。今回の調達先は米シティグループやGoogleなど、事業拡大に向けた戦略的パートナーシップの色合いが濃い。日本発の基盤モデル開発企業として、期待を集めた形だ。

AIは産業の現場へ

上位の顔ぶれを俯瞰すると、産業特化型AIの実装・事業化を行う企業に資金が集まっている。

モビリティでは自動運転AIを開発するTuringがシリーズAで68億円、製造業向けでは、AIを用いた製造DXを手掛けるがシリーズAで51億円、医療現場では外科手術AIシステムのアナウトがシリーズCで33億円を調達した。汎用AIの性能が急速に向上する中、各産業・業務への実装を担う特化型AI企業が大型調達の上位に並んだ。

ヒューマノイドAIロボットを開発するアトムはシードで30億円調達した。同社は、Turingの共同創業者元CTOが立ち上げた企業で、試作機段階ながら、すでに200〜300社から問い合わせが集まっており、フィジカルAI(現実空間で動作するAI)への期待の高さを示す案件の1つだ。

ディープテックの大型化と国策の連動

長期の研究開発を前提とするディープテック領域にも、大型の資金が流れ込む。

核融合発電の実証を目指すStarlight Engineは、シリーズAで56億円を調達。グローバル・ブレインをメインファンドに、同社が運用する複数ファンドを含む計17社が名を連ねた。京都フュージョニアリングのグループ会社として、核融合発電実証プロジェクト「FAST」を推進する。宇宙領域では、宇宙機・宇宙輸送・宇宙実験サービスを開発するElevationSpaceがシリーズCで64億円を集めた。

長期投資を要するディープテックでは、核融合や宇宙、GXなど政府の戦略分野を中心に、NEDOやAMEDなどの公的支援と民間のエクイティを組み合わせた資金調達が目立つ。

新体制で挑む次のステージ

事業再編を経て経営体制を刷新した新生Spiberは、旧Spiberから構造タンパク質素材事業を承継し、新代表の川名麻耶氏のもとで量産・事業化に向けた再建を進める。今後の運転資金として、100億円を投じることを川名氏は明かしている

2025年4月にシリーズBで77億円を調達したスタートアップのウタイテは、2026年3月に代々木アニメーション学院、VOISING、ASOBI GODと経営統合により、代々木アニメーショングループとして再始動。教育からタレント育成、コンテンツ展開までを一気通貫で手掛ける体制を構築した。

大型調達を支えた国内独立系VCと事業法人

10億〜50億円を調達した企業では、国内独立系VCの参加が小幅に広がった。参加したVCは前年上半期の41社から45社へ、投資先は32社から35社へ増加した。なかでも、過去に投資関係が確認されていない企業への新規投資は32件から39件に増えている。

事業法人系による投資は前年並みだったが、新規投資先への投資が増加する一方、既存投資先への追加投資は減少した。

国内独立系VCと事業法人系の共同参加は、20億〜50億円の調達で特に増えた。2026年上半期に事業法人系が参加した15件のうち、10件では国内独立系VCも参加した。前年は、事業法人系が参加した8件のうち、両者が参加した案件は1件だった。

少なくとも20億〜50億円の調達では、事業法人が国内独立系VCに代わって資金を供給したというより、両者が同じ案件に参加する構図が強まった。国内独立系VCが資金調達を主導・支援し、事業法人系が追加の資金供給を担うケースが、中・大型調達を支えたとみられる。

少数出資から大型出資・M&Aへ深化するオープンイノベーション

事業法人によるスタートアップとの連携では、少数出資にとどまらず、事業戦略に応じて大型出資やM&Aへと発展させる事例もみられた。

三菱電機は製造業DXを手掛ける燈に約50億円、プリント基板製造のエレファンテックに約40億円を出資した。エレファンテックには2023年のシリーズDでCVCを通じて出資し、事業部との連携を進めてきたが、今回は本体から大型出資し、連携をさらに深める。燈とはAIを活用した事業変革、エレファンテックとはプリント基板製造の新製法の普及を進める。さらに2026年7月には、クラウド型地上局サービスを提供するインフォステラを完全子会社化した。事業領域ごとの成長戦略に応じて、大型出資とM&Aを使い分けながら最適な手法を選択している例といえる。

ヒューリックも同様の動きを見せている。同社は2023年にCVCを通じて出資・協業していたシェアサロン運営のサロウィンを完全子会社化した。CVC投資先がグループ会社となる同社初の事例で、ヒューリックの不動産や事業基盤を活用しながらサロウィンの出店や周辺事業の拡大を進める。少数株主としての出資から協業を経てM&Aへ進んだ例といえる。

新設ファンドは前年並み、足元は既存の大型ファンドが支える

2026年上半期に新設が確認されたファンドは79本と、前年上半期の同時点とほぼ同数だった。規模が判明したファンドの総額は1393億円で、2025年7月19日時点で観測した前年の1663億円(78本)を下回る。ただし、2025年上半期の数値は、その後の追加捕捉によって3677億円(96本)まで増えている。2025年、2026年のファンドデータには大きな観測ラグがあり、現時点の金額だけからファンド組成が縮小したとは断言できない。

独立系VCでは、ファンド規模の拡大とともに、1社当たりの投資上限を引き上げる動きがみられる。Dual Bridge Capitalは100億円規模の2号ファンドの組成を進め、1社当たりの投資上限を7.5億円から20億円へ引き上げる方針を示した。ジェネシア・ベンチャーズも約180億円の4号ファンドをファイナルクローズし、最大投資額を5億円から15億円へ拡大。XTech Venturesも約130億円の3号ファンドをファイナルクローズし、1社当たり最大10億円の投資体制を整えた。

追加投資に特化したファンドの組成も進んでいる。Coreline Venturesは、りそな銀行を単独LPとする追加投資ファンドをファーストクローズした。当初60億円で運用を開始し、段階的に100億円まで拡大する計画だ。複数のLPを募るメインファンドとは異なり、りそな銀行が将来的に機関投資家や個人投資家へ国内VC市場への投資機会を提供することも見据え、単独LPとして参画した点は特徴的だ。

ディープテック領域でも新たな動きがあった。独立系VCのANRIでジェネラル・パートナーを務めた鮫島 昌弘氏はGXをはじめとするディープテックに投資するBUILDを設立し、80〜100億円規模のファンド組成を目指す。

大型ファンドの組成も続く。グロービス・キャピタル・パートナーズは700億円超の8号ファンドの組成を進めるほか、スパークス・グループは「未来創生4号ファンド」を設立した。トヨタ自動車、三井住友銀行に加え、三菱UFJ銀行、みずほ銀行も初期LPとして参画し、総額150億円で運用を開始。2027年3月を目途に1,000億円規模への拡大を目指している。

新設ファンドは将来の資金供給力を示すが、足元の投資を直ちに支えるものではない。2026年上半期、国内独立系VCによる10億〜50億円の調達への投資では、ファンド規模判明分の88%を100億円以上のファンドが占め、研究開発型では98%に達した。

こうした中・大型調達は、100億円以上の大型ファンドと、主に過去5年以内に組成された比較的新しいファンドによって支えられている。過去の国内独立系VCファンドをみると、組成後0〜2年は新規投資の中心期に当たる。3〜5年になると、1ファンド当たりの新規投資は0〜2年の約4分の1まで減り、既存投資先への追加投資の比重が高まる。6〜8年では、新規投資はほぼ終了し、投資活動が確認されるファンドも15%まで低下する。

資金量だけでなく、投資体制を補完する動きもみられる。リアルテックファンドを運営するUntroD Capital Japanは、九州を中心に大学発スタートアップへの投資・育成を手掛けるQBキャピタルと包括連携を開始した。案件発掘や投資後の育成に加え、QBキャピタルのキャピタリストがUntroD Capital Japanが運営するファンドの投資・育成活動にも参画する。ディープテック投資に必要な人材やノウハウをVC間で共有する新たな取り組みだ。

現在主力の2021〜2025年組成ファンドも、今後は追加投資を優先する時期に入る。10億〜50億円の調達が多いシリーズB後半からCでは、研究開発や量産、事業拡大にまとまった資金を要する。後継大型ファンドの組成が進まなければ、この成長段階への新規投資が細る可能性がある。

M&A件数は増加も、出口問題はなお残る

2026年上半期のEXIT環境は、M&A関連件数が増える一方、IPOは減少した。両者を確認したうえで、シリーズC・D以降の企業のEXIT状況をみる。

2026年上半期に確認された被買収や事業譲渡などのM&A関連件数は141件となり、2025年7月9日時点で集計した前年上半期の103件から37%増加した。前年分を2026年7月16日時点まで追加捕捉した106件と比べても、33%の増加である。

ただし、M&A関連件数の増加が、レイター企業のEXIT拡大を意味するわけではない。2026年上半期の141件のうち、確認できた最終シリーズがCまたはD以降の企業は11件と、全体の8%にとどまった。M&Aはスタートアップの出口として広がっているものの、シリーズC・D以降に到達した企業の滞留を解消する経路としては、なお限定的である。

2026年上半期のIPOは全体で42件、このうちスタートアップは14件となり、前年同期比を下回った。スタートアップIPO14社のうち、創薬企業のイノバセルとジェイファーマを除く12社は、上場前期の通期決算で黒字だった。IPO市場では、将来の成長期待だけでなく、上場時点の収益性を求める傾向が続いている。

上半期最大のIPOは、タクシー配車アプリを展開するGOだ。初値時価総額は2260億円と、スタートアップでは2021年のビジョナル(2545億円)以来の大型上場となった。GOはタクシー配車を基盤に、決済、広告、車載端末など周辺事業を拡大しており、2025年5月期には配車以外のタクシー関連サービスの売上が配車事業を上回った。単一サービスから周辺領域へ事業基盤を広げてきた点が、大型上場を支えた。

一方、GOを除くスタートアップ13社の初値時価総額の合計は、前年上半期を下回った。GOという大型案件が市場全体の金額を押し上げたものの、IPO件数とそれ以外の上場規模を見る限り、EXIT環境が広く改善したとは言いにくい。

2025年上半期にシリーズC・D以降で調達した220社を、その後12カ月追跡すると、IPOまたは被買収・子会社化などに至った企業は6社、全体の3%だった。事業譲渡まで含めても8社、4%にとどまる。12カ月という期間だけでEXITの進捗を評価することはできないが、少なくとも短期的に出口へ移行した企業は限られている。

IPO・M&A関連事象が確認されなかった212社のうち、設立10年以上の企業は103社と約半数を占めた。このうち90社は、後続調達が確認されないか、調達していても10億円未満だった。

後続調達の有無や金額だけで、企業の経営状況を判断することはできない。既存資金の残存期間や事業収益、借入による資金確保なども考えられる。ただし、長期未上場となったレイター企業の多くが、足元ではEXITにも大型の後続調達にも進んでいない状況は確認できる。

2026年上半期はM&A関連件数が増加したものの、長期未上場となったレイター企業の出口拡大には、まだ明確にはつながっていない。

おわりに

2026年上半期の資金調達総額は増加したが、その伸びはSakana AIをはじめとする一部の大型案件に偏った。一方、シリーズC、とくに設立から年数を重ねた企業への資金は縮小した。M&A関連件数は増えたもののIPOは減少し、長期未上場となったレイター企業のEXITも限られている。市場の課題は、調達総額を増やすことだけでなく、成長資金の供給からEXIT、投資家への資金還流までをつなげられるかにある。

こうしたなか、イノバセルの上場は1つの示唆を与える。同社は、臨床開発から承認取得までを自ら担う資金需要の大きい事業モデルを支えるため、未上場段階から機関投資家やクロスオーバー投資家を株主に迎えた。シリーズDではIPOラチェット型の新株予約権を導入し、公開価格が一定水準を下回った場合の投資家のダウンサイドリスクに配慮した仕組みを採用した。個別企業の事例ではあるが、VCだけに依存せず、未上場市場と上場市場をつなぐ資本政策を設計する1つの方向性を示している。

直近の傾向では下半期に大型調達が増えており、2026年も通年総額が上振れる可能性がある。ただし、注目すべきは金額そのものではない。大型調達が一部の有力企業に集中したままなのか、上半期に縮小したシリーズCや長期未上場企業にも成長資金が届くのか、さらにVCに加えて事業法人や機関投資家まで資金供給の担い手が広がるのかが重要になる。

こうした広がりが確認できなければ、通年総額が増えても、2026年は市場回復ではなく資金集中が進んだ年と評価すべきだろう。下半期は、日本のスタートアップ市場が大型案件を生み出すだけでなく、次の成長とEXITへ資金をつなげられるかが問われる。

(執筆:平川凌、森敦子、編集:森敦子、デザイン:LABORATORIES、板坂晃幸、山下和奈佳)


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