2025年の日本のスタートアップ資金調達総額は、7613億円(デット除く)と前年同時期の集計額からほぼ横ばいを維持した。調達額平均は前年から不変だが、中央値は下がり、資金は選別と小さくつなぐへと移る。
ファンド設立は、設立本数・総額ともに前年を上回ったものの、標準的なファンド規模は縮小し、総額を超大型が下支えする構図が鮮明だ。EXITでは、上場維持基準の見直しを受けた質の高いIPOへのシフトや、M&Aは件数の高水準を維持した。
本稿はSpeedaが1月27日(火)に公開する国内スタートアップの資金調達動向をまとめたレポート『Japan Startup Finance 2025』に先立ち、速報としてエッセンスをまとめた。2月17日(火)にはオンラインでの解説セミナーも実施する(お申し込みはこちら)。
選別と延長戦が進む資金調達
2025年のスタートアップ資金調達総額(デット除く)は7613億円となった。観測ラグを考慮すると、前年値(2025年1月集計時点の7793億円)に対しほぼ横ばい。一方、調達社数(金額不明含む)は2,700社と、前年値(2,869社)から約6%減少している。
1社あたりの資金調達額の傾向をみると、平均値は前年値と同額の3.1億円だったが、中央値は前年値(7760万円)から6240万円に下がった。

金額判明分の社数をもとに調達規模別の内訳をみると、2025年は前年(2025年1月集計)と比べて総数に差はないものの、10百万円未満が448社(前年+98社)へ増えた一方で、10〜500百万円未満1,680社(同▲115社)と、中央値を形成する中核帯が薄くなった。
5〜10億円未満は176社(同+9社)と底堅く、10〜50億円未満は前年並み。50〜100億円未満は10社減り(同▲4社)、100億円以上は5社(同+1社)と件数自体は多くないものの、金額面で50億円以上は2割を占め総額を下支えする格好となった。とはいえ、小型案件ほどデータ観測ラグが大きい点を踏まえると、実態は統計が示す以上に小粒化が強い可能性がある。

この分布の変化はスピーダ調達シリーズ(※1)とも整合している。前年(2025年1月集計の2024年)から2025年にかけて、シリーズAの調達総額は1684億円→1391億円、調達社数は519社→501社と減少した。シリーズBは1726億円→1924億円と増えたが社数は351社→312社へ減り、少数の案件に厚く資金が乗る選別の進行が示唆される。
シリーズD以降は金額(985億円→1053億円)と社数(89社→104社)も増えたが1社あたり規模は縮小した。大型の成長資金を調達する企業がいる一方で、小刻みな延命・調整目的の資金調達も増えていることが示唆され、両社が混在する延長戦の様相を呈している。
結果として、平均は大きく崩れない一方で中央値は6240万円へ低下し、「勝ち筋が見える先に厚く、その他は小口でつなぐ」配分が2025年は強まった。背景には上場環境の不確実性で未上場期間が延び、フォローオン(追加出資)が選別されやすいことがあると考える。
(※1)スピーダ調達シリーズは1月27日(火)公開予定の『Japan Startup Finance 2025』レポートに詳細な数値が公表されています。
調達額上位20社:産業特化型に熱視線
調達額上位20社をみると、投資は産業に深く特化した事業に集中している。産業が抱える構造的課題や深刻化する人手不足を背景に、現場のオペレーションや業界慣行を根本から再設計し、競争優位を築く。単なる効率化にとどまらず、産業構造そのものの変革を狙う企業に、資金が流れ込んでいる。

2025年の調達額トップは、NTTグループ、カタール投資庁をリードに資金調達したMujin。従来は製造・物流現場のロボットに知能を与えることで作業の自動化に取り組んでいたが、現在は複数のロボットや設備を横断的に統合制御し、現場全体を最適化するプラットフォームへと進化している。
ロケット開発を手掛けるインターステラテクノロジズは、2026年1月にシリーズF累計で201億円(うち融資53億円)を調達したと発表した。ランキングは、集計時点で登記簿から確認できた130億円を記載している。リード投資家のトヨタグループ、ウーブン・バイ・トヨタからは約70億円の出資を受けると共に、エンジン製造などで事業連携する。調達資金を活用し、ロケット打ち上げの高頻度化と通信衛星事業を一体で推進する垂直統合モデルを構築することで、持続的な競争優位の確立を目指している。
モビリティ分野では大型投資が目立ち、空飛ぶクルマを開発するSkyDriveや、自動運転システムを開発するTuring、T2といった企業が名を連ねる。これらの企業は移動インフラの再設計や、ドライバー不足をはじめとする構造的な課題の解決に取り組んでいる。
ソフトウェア領域では、製造業向けのキャディや医療現場を支えるカケハシのように、アナログな慣習が色濃く残る現場に深く入り込み、業務や意思決定の前提となるデータを押さえにいく動きが見られる。汎用AIの性能が高まる中、特定現場の業務データを蓄積し、AIを実用的な形、すなわちシステム化できるかが競争優位を左右する。こうした実装力が投資家の関心を惹きつけていると考えられる。
ディープテック領域への期待も根強く、構造タンパク質素材を開発するSpiberはその1社だ。一方で、長期投資を前提とする事業特性から、事業の時間軸や資金繰りの難しさが意識される局面に入っている。上半期の速報記事で、2025年内に362億円の借入金返済が控えている点に触れたが、現時点では追加の公表は行われていない。そうした中、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の長女である川名麻耶氏と、事業継続に向けた事業支援に関する契約を締結しており、2026年上半期を目途に支援が開始される予定だ。
なお、集計時点までに登記簿で調達が確認できなかったためランキング対象外としているが、AIモデルを開発するSakana AIは、11月にシリーズBで総額約200億円の調達を発表した。既存株主である三菱UFJ銀行や、Khosla Venturesをはじめとする海外投資家などから調達し、日本の大手企業や公共機関の課題解決を加速させる。
大型調達で存在感を増す事業法人
投資面では構成に変化がみられる。投資家タイプ別の投資額では、VCが2973億円と前年比263億円減少し(▲8%)、構成比も低下した。事業法人は1480億円(同+320億円)へ増加し、構成比を押し上げた一方、投資を行った事業法人数は742社から701社へ減少。1社あたりの投資強度が上がったことを示唆する。金融機関も投資額は310億円→367億円と、1社あたり投資額の中央値とともに上昇し、案件を絞りつつ関与を深めた。

VC属性別にみると、前年値(2025年1月の集計時点)では、独立系VCは80億円減、金融系VCは12億円減少と相対的に底堅い一方、海外VCは123億円と減少が目立つ。ただし海外資本は大型案件への寄与が大きく、年次のブレも大きいため、単年の増減を構造変化とみなすのは早計である。これに対し、大学系VCは50億円増、政府・地方自治体系も21億円増となっており、減少分の一部を政府系・アカデミア起点の資金が補う構図となっている。

この変化は「10億円以上の大型調達」に絞るとさらに鮮明だ。総額はほぼ横ばいだが、VCの投資額が減少する一方で事業法人の投資額が増加し、大型資金の担い手がVC主導から事業法人の直接投資の比重が高まっている。

背景として、VCは初回投資後のフォローオン資金を確保する設計上、勝ち筋が見える先へ資金を厚く配分しやすい。一方、事業法人は技術・市場へのアクセスや協業を目的とした戦略投資として大型調達で関与を強めやすい。その結果、大型局面での主体シフトと同時に、中位層ではバリュエーション調整やマイルストーン到達までのブリッジ(つなぎ)比率が高まっている可能性がある。総額が保たれても資金配分はより選別的になるという特徴が、2025年に一段と強まったとみられる。
ファンド設立動向:規模の見えないファンドが増加
2025年に設立されたファンドは150本、ファンド総額は4747億円であった。調達額同様に、2025年6月末時点で進捗が前年を下回っていたが、結果として前年値(2025年1月集計時点の112本、3870億円)を上回った。但し、金額不明が67本(全体の45%)に達し、増加分の相当部分が「規模の見えないファンド」によって占められた。

金額が判明している83本に限ると、平均ファンド総額は前年値(2025年1月集計時点)の61億円から57億円に、中央値は前年40億円から30億円まで低下。少数の超大型ファンドが平均を押し上げており、実際に100億円以上のファンドは15本と少数ながら総額の約半分を占めるなど、総額は超大型ファンドに支えられる構造が一段と強まっている。
規模別では、50億円以下は61本と前年値(2025年1月集計時点の39本)から増加する一方、50〜100億円以下12本(前年値16本)に減少しており、標準的なファンド規模が小型化している。

さらに、30億円未満のファンドは41本と金額判明分の約半数を占める。そのうち約4割(17本)は金融機関系であり、中央値の低下は金融機関系の小口ファンド増加が押し下げ要因となっている。
一方で独立系は金額不明が42本と突出しており、募集・クローズの長期化や非開示の増加といった観測ラグ要因が重なった結果、資金供給力の見通しが立ちにくい状況にあることを示している。
上場環境の不確実性が続く中で、LP資金が「勝ち筋が見える先への厚張り(超大型)」と「小口分散(小型・10〜50億円帯)」へ寄りやすく、ミドル上位(50〜100億円)の回復が遅れる構図が、2025年はファンド側でも明らかになった。
本数・総額の増加自体は資金供給の面が広がる点や資金供給の底割れ回避という意味ではポジティブだ。一方で、ファンドの小粒化はフォローオン余力を弱め、ミドル・レイターの資金ギャップを拡大させる可能性がある点には注意が必要だ。
100億円以上の大型ファンドの設立は引き続き確認されている。金融機関系、二人組合ファンド、独立系VCの2号以降のファンドが中心だ。

金融機関系においては、三菱UFJキャピタルが300億円規模のファンドを立ち上げたほか、三井住友海上キャピタルやFFGベンチャービジネスパートナーズも100億円規模のファンドを設立した。
実績豊富な独立系VCにおいては、より大きなスタートアップを生み出すことを志向する動きが広がっている。東京大学エッジキャピタルパートナーズの6号ファンドは、前回ファンドの300億円規模から461億円(最終的に470~500億円見込み)へ、Angel Bridgeの3号ファンドも同様に100億円から260億円へと拡大して新ファンドを設立した。いずれも投資社数の拡大が目的ではなく、積極的な追加出資を通じて1社あたりへの投資額を厚くし、将来的により大きな成長を見込める企業を育てるため、支援の深度を高める戦略を掲げている。
その一方で、独立系VCの1号ファンドの組成には、引き続き高いハードルがある。運用実績の乏しい段階では、機関投資家や金融機関からの出資獲得は容易ではなく、十分なファンドサイズを確保できないケースも少なくない。
そうした中で、アーリーステージ特化の独立系VCであるALPHAは例外的な存在と言える。当初の募集上限額は150億円だったが、最終的には200億円での組成を完了した。創業メンバーが40社超のEXIT実績を有している点に加え、2023年に政府が策定した新興運用業者促進プログラム(日本版EMP制度)が後押しとなり、出資者の9割以上を機関投資家・金融機関のみで構成している。
規模の大きさが意識されるIPO
2025年のIPOは108社と、2024年の133社から減少した。そのうちスタートアップは過去10年で最低の31社であった。背景には市況要因に加え、2025年9月に制度要綱が公表された東証グロース市場における上場維持基準の見直しの影響も無視できない。

新基準は2030年適用予定で上場時の基準を変えるものではないが、上場後に求められる水準が上がることで、IPOの「入口」段階から企業側の目線が変化している。2025年のスタートアップIPOでは初値時価総額の中央値が前年の89億円から135億円へ上昇している。また、グロース市場からスタンダード市場へ移行する企業も出始めるなど、制度変更の影響は、未上場企業のIPO戦略と上場企業の市場選択の双方に及び始めている。
主要なスタートアップのIPOをみると、上位3社のディープテック企業を除き、すべての企業が上場前年に黒字化、もしくは上場年に黒字見通しを示している。収益性の裏付けがより強く求められる傾向が強まっていることが確認できる。

初値時価総額は、小型衛星の開発・運用を手がけるアクセルスペースホールディングスが481億円と、2025年のスタートアップIPOでは最大規模となった。同社は宇宙特化型スタートアップとしては5社目のIPOであり、先行企業と同様、宇宙分野の成長性に対する市場の高い期待が反映された形だ。
一方、直近決算期(2026年5月期見込み)では、売上高36億円に対して営業損失39億円を見込んでおり、引き続き先行投資フェーズにある。もっとも、2026年1月14日時点の受注残高は104億円に達しており、事業基盤は着実に拡大している。これまでは政府系案件が中心だったが、小型衛星の運用体制強化を背景に、民間企業や海外顧客の獲得も始まりつつあり、今後の成長余地を示す動きとして注目される。
高水準が続くM&A 戦略転換の受け皿となるか
2025年の被買収・子会社化は167件にのぼり、2024年に引き続き高水準で推移した。この背景には、M&A市場全体の拡大がある。2025年は日本企業が関与したM&Aは件数・金額ともに過去最高を更新したと報じられている。
スタートアップのM&Aが活発化している要因の一つには、グロース市場の上場維持基準見直しにより戦略転換を迫られるスタートアップと、成長を取り込む攻めの経営を強める大企業の思惑が重なっていることが挙げられる。

2025年の象徴的なEXITはUPSIDERだ。みずほ銀行がUPSIDERホールディングスの株式70%を460億円で取得した(表中では100%取得の場合の値を記載)。将来的なIPOを見据えて、経営メンバーは引き続き株式を保有しながら、みずほフィナンシャルグループとの協業により、さらなる成長を目指す。
M&Aにおいても、2021年以降にGoogleによるpringの買収や、PayPalによるPaidy、三菱UFJ銀行によるカンムの買収など、FinTechスタートアップを中心に100億円超の案件が年に数件は見られるようになっている。一方で、IPOが停滞している状況下、FinTechに限らず、他分野からも同規模のM&A事例をいかに創出し、その数を増やしていけるかが、より重要な論点となっている。

IPO申請を見直し、M&Aを選択する例もあった。ThinkingsはIPO申請準備に入っていたが、AIによる事業環境の変化を踏まえ、より大きな価値創出を志向する選択としてM&Aを選んだことを代表がnoteで明かしている。こうした動きは、スタートアップ側だけでなく、投資家側においても、IPOを唯一の出口とする考え方が見直されつつあることを示している。
今後の観測ポイント
2025年は、資金配分の選別と延長戦が一段と進んだ。調達社数は減少し、中央値も低下。総額は横ばいでも分布は歪んだ。投資家側ではVCの比重が低下し、事業法人・金融機関が存在感を増した。特に大型調達では事業法人の関与が「広く薄く」から「絞って厚く」へ寄っている。
2026年以降の焦点は「EXIT流動性の改善」だが、上場維持基準の見直しでIPOは短期的に回復しにくく、金利環境も引き締まり方向にある。観測ポイントは4つある。
第一にM&Aを産業構造として増やせるか。東証自身がM&A促進に言及しており、EXITの流動性向上は従来以上に急務だ。
第二に大型調達における事業法人比率がさらに上がるか――市場の下支え要因である一方、依存度上昇はリスクでもある。
第三にシリーズA・Bの中央値が反転するか。生成AIが普及による変化の中で勝ち筋を素早く捉えて成長の再現性を示せるスタートアップが増えれば、中位層の資金が「つなぎ」から「成長投資」へ戻りやすい。
第四に50〜100億円級ファンドの回復と金額開示率の改善。この帯はシードからシリーズB以降を継続支援する中核であり、資金供給力の低下はフォローオン余力を弱め、ミドル〜レイターの資金ギャップを広げる。また、金額不明(未開示)の高止まりは、募集長期化や着地の不確実性を示すシグナルだ。
事業法人の積極姿勢が続く限り投資全体の急落は考えにくいが、EXITの流動性が回復しなければ、成長資金を取れる企業と延長戦を強いられる企業の二極化が一段と明確になるリスクが残る。
(執筆:平川凌、森敦子、編集:森敦子、デザイン:川﨑菜々美、イラストレーター:NUT DAO)




