スタートアップ最前線
企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」を有し、2016年10月にIPOしたユーザベース。その創業期にエンジニアとして参画し、上場までプロダクト開発を牽引。
現在は、グループのチーフテクノロジストや傘下のUB Venturesでテクノロジー・パートナーを務めるのは、竹内秀行。
Microsoft Innovation Award 2015など数々の賞を受賞し、エンジニアとしても確かな実力をもつ。
エンジニアだけなく、個人でエンジェル投資家としての活動も行い、今度は株式会社イエソドで代表取締役も務めるという。
いくつもの顔を持つ彼が、様々な業界やビジネスモデルを見てきた中で、次のビジネスの可能性を見つけた領域は「企業の管理」。
テクノロジーと従業員情報の管理を掛け合わせることで、今まで生じていた非効率性を無くそうとしている。
竹内氏は、企業内で煩雑に管理されていることの多い社員情報や利用サービスのアカウント情報を1つのデータベース上に統合し、簡単に管理できる世界をつくろうとしている。
竹内氏のプロダクトづくりにおける強みは、「お金の匂いに気づける」こと。その思考法と現在挑戦中のプロダクトの構想に迫る。
プロダクトをつくる上で重要なことは2つだけ
プロダクトをつくる上で大事にしていることはなんですか?
竹内 秀行(たけうち・ひでゆき)/ 大学院在学中に2社起業し6年ほど経営。2008年、株式会社ユーザベース創業時よりチーフテクノロジスト(現職)として、同社のプロダクトである、SPEEDA、NewsPicks、FORCASなどの基礎を作り上げ、東証マザーズ上場を経験。その後、2018年9月に株式会社イエソドを創業。
20代の頃から一貫して、私がプロダクトづくりに込めている想いが2つあります。
1つ目は、いろいろな人に対して影響力のあるサービスをつくることです。今でもサービスをつくるか決める基準になっています。
2つ目は、お金をきちんと生み出すプロダクトをつくることです。
大学院の頃から自分で会社をやっていく中で、お金になるサービスをつくる重要性を身に染みて実感しました。いくら志が高くてもお金がなければ会社は生きていけませんし、実現したいアイディアも試せません。
なので、お金を持っている企業、業界、部署、人はどこで、そこに対してどんなプロダクトをつくればお金が出てくるかをよく考えています。お金はあるところからしか出てこないので、そこを一番はじめに見ています。
この話を聞いて勘違いして欲しくないのですが、私は守銭奴ではないです(笑)。
ただ今まで自分で会社を経営したり、上場までたどり着いた企業で働いていただけに、普通のエンジニアよりはお金に対する執着はあるんじゃないでしょうか。
これまでのつくったSPEEDAやNewsPicksも上述の2つの条件を満たしている?
まずSPEEDAは、ビジネスパーソンの情報収集・分析における課題を解決する最先端のプラットフォームです。世界中の企業情報、業界レポート、市場データ、ニュース、統計、M&Aなどあらゆるビジネス情報をカバーしています。
ユーザーの多くは会社を買ったり売ったりするような金融系やコンサルといったお金のある企業が多いです。取り扱っているお金の額が大きいため、経済活動に対しても大きな影響を与えます。また、企業の直接的・間接的な売買でそこで働く人に対しても大きな影響があります。
NewsPicksは、経済ニュースを業界人や専門家のコメントとあわせて読むことができるサービスです。国内外100メディアのニュースのほか、NewsPicks編集部が作成するオリジナル記事も配信しています。
こちらも、ユーザーはお金を持っていて、情報感度の高いビジネスパーソンであり、社会的に発言力や影響力が大きいです。
今つくっているイエソドも前述の2つの条件を満たしている?
イエソドが取り組んでいる領域は、「企業の管理 ✕ テクノロジー」のコープテック、監査テック、情報セキュリティ分野です。
一見影響力の少ない領域に取り組んでいるように思えますが、普及すればバックオフィスや監査といった会社内の人の行動そのものを変えられる可能性をイエソドは秘めています。
企業の管理部門に特化したサービスなので管理部門がターゲットですが、管理部門単体ではなかなか予算がおりません。しかし私たちのプロダクトはそれに加え、情報セキュリティの切り口でも価値提供をしています。
これにより情報システム部門など他部門もユーザーになるため、お金をしっかりととれるプロダクトだと考えています。
(画像: create jobs 51/Shutterstock.com)
過去プロダクトをつくってきた中でどのような苦労がありましたか?
今まで開発してきた中で、つくるのが難しいと思ったことはありません。つくるのが簡単だったという意味ではなく、プロダクトに集中し淡々とつくるべきものをつくっていた感じです。なので、よくある開発秘話みたいなものもほとんどありません(笑)。
0からプロダクトをつくる時にエンジニアがやるべきことは、ビジネスの構造を理解した上で、仕組みを着実に1つずつ開発していく。それが何よりも必要だと思っています。
今までの経験の中で面倒だったことをあえて挙げるとしたら、非エンジニアに対する期待値のコントロールです。
進捗を報告する際に画面のモック見せると、「できているじゃん」と言う人が結構います。しかし全開発の80~90%は目に見えない裏側の仕組みの開発なんですよね。
その目に見える部分と実際の進捗とのギャップをコントロールするのが結構面倒くさかったです(笑)。
ただそうやって創業初期からプロダクトをつくって得た経験は、今も役に立っています。UB VenturesというVCで、組織の話やスタートアップのプロダクトのつくり方といった話ができるのもその時の経験があったからです。
イエソドのコンセプトも、起業初期の数人の頃から上場までの急拡大フェーズを、内部で見ていたからつくれると思っています。
頻繁な組織変更や人が毎月数十人入ったり、出たりを実際に経験しないと、管理部の辛いポイントが正確に分からないんですよね。
そういった意味でSPEEDAやNewsPicks、FORCASをつくれただけでなく、創業メンバーとしてユーザベースにジョインし、組織づくりも経験できたのは運が良かったです。
未来の予約をできるのが強み
イエソドはどのような課題を解決している?
国内の企業ではSaaSの利用が増えており、AWSといったクラウド関係のプラットフォームを使ったサービス開発も増えています。
こうしたサービスの利用が増えていることで、業務システムの分断が発生しています。この分断の課題を解決するのがイエソドです。(サービスの詳細はこちら)
私たちが提供する価値は4つあります。
(画像:公式資料より)
その中でも特に重要なのは「人と組織の状態を未来日付で予約できるようになる」ことです。
例えば2ヶ月後に人事異動が決まっている人の権限情報をあらかじめ予約をしておき、異動初日の朝4時頃に全SaaSのアカウント発行や権限が与えられている状態になる。そういう状態をつくりたいです。
入社に関しても同様で、人事部門が入社する人の情報を事前にイエソドに入力すると、入社日に全てのシステムに自動的に情報が入り、使える状態になるイメージです。
(動画:公式ページより)
こういった操作をイエソド上では全てドラッグ&ドロップでできるようになっており、今まで煩雑だった管理が圧倒的に簡単になります。
業務システムの分断はスタートアップや人数が少ない企業独特の問題ですか?
大企業でも同様の問題は起きています。
上場している企業は、動ける人数は多いので社員情報の棚卸作業はできていますが、その情報が外部に漏洩していないかといった情報セキュリティの部分に課題があります。
監査の際も「人がきちんとやっています」と言われると、深く調査もしにくいので監査法人もOKですと言うしかなく困っているのが現状だったりします。
イエソドを作りきれれば、こういった「企業の人・組織・情報にまつわる非効率」が元になった問題をなくせると思っています。
これからリリースに向けてスパートをかけていくので、ぜひ一緒に組織の非効率を解決したい人がいたら連絡を貰えると嬉しいです!
聞き手:松岡遥歌、文:町田大地