2018年には60億円を調達し、2019年2月24日現在、評価額358億円で国内第9位のスタートアップFinatext(H30年 ジャパンベンチャーリサーチ)。
日本初、売買手数料0円で株取引が可能なアプリ「STREAM」を始めとして、数々の金融領域のサービスを手掛ける注目の企業だ。
イギリス、台湾、ベトナム、スリランカなど日本を含め5カ国・地域に拠点をもち、グローバルのメンバーを合わせて100名を超えるが、離職率は創業以来ゼロに近い数値を保っている。
雇用動向調査(H29年 厚生労働省)から日本の平均離職率が約15%と言われる中、大きくこの数値を下回る組織をどのようにしてつくったのか。
今回は、林 CEOが組織を作る上で大事にしているポイントを話してもらった。
「金融」を再発明する
Finatextはどのような事業を展開していますか?
Finatext 林さん(以下、林) Finatext(以下、フィナテキスト)は「金融をサービスとして再発明する」というビジョンを元に、BtoB、BtoC双方のサービスを手掛けており、事業会社や金融機関にとってのプラットフォームを目指しています。
具体的には、金融に関するアプリ制作、データ解析、データ利用といったニーズをトータルで解決できるソリューションを提供しています。
事業はどのようにして生まれたのですか?
「よりよい金融体験を顧客にしてもらうためには何が必要か」を考えて、将来実現したい形から逆算していった結果、生まれました。
金融は規制が多く、一気にすべてを変えることは難しいので、まずは小さく変えるための手段として金融のUI/UXを変える試みから始めました。その一歩として、ミレニアル世代に受けるような投資アプリからサービスをスタートしました。
最初から「こうしたらうまくいく」という計画があって、それをもとに事業をつくっているわけではありません。
場面ごとに最適な解をサービスに落とし込みつつ、自社内で事業を繋いでいくことで、最終的な目的を達成するという考え方ですね。
(出所:公式ページ)
サービスを通してどのような世界を実現したいですか?
金融は、本来人々の生活を豊かにするツールだと思います。
今の金融サービスに多い「面倒だ」「つまらない」顧客体験を変えたいです。
そのためには、サービス設計を考えぬき、信頼感を持ってもらうことは当たり前ですが、企業とユーザーがWin-Winの関係にあるサービス体系にする必要があると思います。
ユーザーの弱みや盲点を突いて課金させるのではなく、フェアな環境をつくった上で、正当な対価をいただく環境を作りたいです。
日本の思想はワークしない
フィナテキストはグローバルに重点を置いていますよね。
いつかどの分野でもいいのでNo.1になりたいと思っていて、それを実現しようとすると、どう計算しても日本国内だけでは無理なんですよ。
売上が数百億で時価総額が数千億の企業ではなく、もっと世の中にインパクトが与えられる会社になりたいので、グローバルで勝負できないと話にならないなと思っています。
ただ理解だけしてアクションを取らずにいても意味がないので、創業初期の頃から海外に挑戦しています。
もともと僕自身も、前職はロンドンで働いていたので、海外に飛び出すことにためらいがなかったことも大きいと思います。
グローバルにやっているのが当たり前の会社にしたいですし、それを目の当たりにした他の企業も、「グローバルって当たり前だよね」と感じられる環境を作りたいという、中二病的な想いをもっています(笑)。
実際海外に挑戦してみて難しかったことは何ですか。
日本式の思想は海外ではほとんどワークしないので、ゼロベースで考える必要があるところがもっとも苦労しました。
林 良太(はやし りょうた)/ 東京大学経済学部卒業後、英ブリストル大学を経て、日本人初の現地新卒社員としてドイツ銀行ロンドンに入社。投資銀行本部にて、機関投資家営業などに従事。2013年、株式会社Finatextを創業。(写真:ami)
もちろんワークしない原因を分解して、勉強することも大事ですが、例えば、イギリスやアメリカでは休暇を頻繁に取る、などその地域に住んでいないと理解しにくい文化や雰囲気も結構多いと思います。
なので、現地の肌感がしっかりと分かるメンバーの採用が大事ですし、うちの場合はグローバル拠点は、全て現地の人を採用し、経営してもらっています。
そのための信頼できる仲間を集めたり、経営を任せられるかがグロ―バル化の1つの鍵になるんじゃないでしょうか。
また、うちの会社では、月1でタウンホールという全社・全拠点に向けた情報共有会を、英語と日本語を同時に話しながらやっています。
効率性だけを考えれば、日本語でやったほうが絶対良いです。ただそれを理由に、文化づくりを諦めたくない。続けていくことで、それが当たり前になると思っています。むしろ続けられなければ、文化なんてできません。
続けるために重要なことがあるとすれば、英語ができるかどうかは大きな要因だと思います。逆にそこを諦めずに続けていけば、会社のスタンスが周りにも伝わります。
やはりカルチャーを浸透させたり、作ったりするのも言葉が必ず関わるじゃないですか。
その点、僕は語学力だけはあるので運がよかったです。
会社のカルチャーはどのように作ったのですか。
自分のありのままを出して会社を作ってきたところ、今の文化ができました。 素直な人間なので、自分の気持ちに嘘をついてまで規律に従えなくて。
例えばうちの会社では、給与データ以外に社員がアクセスできないデータは基本的にありません。もちろん顧客情報で見せられないものは公開していませんが、それ以外は全て公開しています。
あとは、役割をきっちりと決めないようにもしています。例えば、僕は会社の代表で創業者ですが、メンバーが僕のことを「社長」と言うときは、必ず後ろに「(笑)」付いていて、いじられている時なんですよね。でもそれってとてもいいなと思っていて。
誰でもフェアに意見を言えたり、役割をこなせる組織を作りたいです。
そういう文化をこれからも守るためにも、なるべく社内ルールを少なくしてセルフマネジメントをするように設計しています。言うなれば、企業文化で会社のガイドラインをつくっていきたいです。
経費1つにしても「自分で考えて行動する」形を徹底すれば、ルールを細かく決めなくても、きちんとそれが文化となり機能するんですよね。
「生きざま」を共有する
「愛」という言葉をよく使われますが、林さんにとって「愛」とは何ですか?
深い話ですね。僕の中でも「愛」の定義はどんどん変わっています。
会社が10~20人ぐらいのときは、「本当にそいつが好きで、プライベートでも遊びに行くし、思想も同じ人」に対する感情が「愛」でした。
今は、その要素もありますが、少し変わって、そこに信じることが加わりました。信じるとは、上っ面の信じるではなく、一人前の人としてその人の発言や行動を信じることです。
だからこそ、僕も厳しい発言ができるし、それが原因で喧嘩になっても、終わった後に「さっきはごめん」とわだかまりなく戻れるのは「信頼」があってこそだと思います。
では、どうやってその信頼を築くのか。
(写真:ami)
それこそ「自分の生きざま」だと思います。うちの会社にも信頼を築くためのヒントを言語化していますが、本質的に重要なのは「どう生きるのか?」という空気感を全員で共有することじゃないでしょうか。
時と場合によって「これいいよね、悪いよね」ということがありますが、その判断軸になるのが空気感だと思うんですよね。その空気感をつくるのが「僕の生きざま」であり、そこから始まる「みんなの生きざま」だと思っています。
ちょっと抽象度が高い表現ですみません(笑)。
でも、そうやって信じるかが重要であり、「愛」なんじゃないかと最近は考えています。
なぜ林さんは人を信じられるのですか?
自分がしょぼいと分かっているからじゃないですか。分かっているからこそ、チームを信じられるし、愛が生まれるんだと思います。
うちの会社には、本当になんでもできる伊藤君という全知全能の神みたいなCFOがいます。
彼とかは一歩間違えたら、社長から妬まれかねません。仕事ができすぎちゃうので、信用がないと「どんどん勝手に決めやがって何やってるんだ」となりかねないんですよ。
ただ僕は、彼を信じているので一切バッティングすることも、不信感を抱くこともないです。
ポジティブサプライズを狙う
林さんは小さい頃からいまのキャラクターですか。
自分の苦手な部分はよく分かっているタイプなので、昔からうまく他の人の力を借りていました。
僕自身、人の気持ちが分かる方ではありません。なので、1対1のコミュニケーションは好きですが、1対Nになると気持ちが全く分からないので苦手です。
しかし、あまり損得で動くことがないので、誠心誠意ぶつかっていることが相手に伝わると、相手も誠心誠意を持って応えてくれるんですよね。
「林さんはよく分かってくれているからいいな」というよりは、「ちょっと俺の言っていることをよく分かっていないかもしれないけど、一生懸命向かってきてくれるからまあいっか」といったコミュニケーションです。
そのコミュニケーションを通して、どのような会社を作りたいですか。
ジョブとか役割で繋がるのではなく、人同士が繋がっている会社をつくりたいです。
明確な役割やルールを決めるのはいつでもできるので、敢えてジョブや役割を定義していません。漏れるリスクを取って「ポジティブサプライズ」を狙える会社、それが目指す姿です。
最悪のケースにならないように最低限必要な組織だけは作っていますが、基本的にはそれ以外の部分ではリスクをとって組織づくりをしています。
ユーザーとの距離について考えを教えてください。
ユーザーとの距離が近い金融サービスであることは大事だと思っています。
ユーザー会にも行きますね。社長であることを最初は伏せて行きますが、大体話しているうちにバレてLINEグループに入れられます(笑)。
今ではLINEグループだけでも、恐らく全国各地で30個ありますし、100人以上のユーザーと繋がっています。
アプリの動作が悪かった時は、翌朝起きるとLINEの通知が大変なことになっていることもあります(笑)。
今は証券会社の役員もやっているので前ほどはコメントしづらくはなりましたが、LINEの内容は見ていますし、バグが起こった時にはすぐスタンプで「本当にすみません」と送ったりしています。
(写真:ami)
今までの業者対ユーザーの構図から、境界がどんどんなくなっていくと思います。
ユーザーと距離が近いと文句を言われたりもしますが、僕自身好きなんです。
ユーザーに対しても「愛」を持っているんですね。
そうですね。ただ、ユーザーは神様ではなく、ファミリーだと思います。
だから、過剰に優しくする必要もないし、過剰に厳しくする必要もない。
その関係性が築けているからこそ、結果的にアプリ上でのコミュニティの民度も高いですし、コメントも書いてくれます。
当たり前のことかもしれませんが、きちんと自分が持っている想いをユーザーと共有することは、大事なことだと思います。
※後半に続く