「ヤフー・LINE統合」。驚きのニュースが舞い込んだ。
2019年11月13日の夜。国内最大級のポータルサイト「ヤフー」を展開するZホールディングス 株式会社(以下、ZHD)とスマホ向けメッセンジャーアプリ「LINE」を展開する韓国NHNの日本法人LINE株式会社(以下、LINE)が月内を目処に経営統合の基本合意を目指すと報じられた。
両社の統合後の勢力図が気になるところだ。本記事では、両グループの投資先からスタートアップへの影響を探る。
衝撃的なニュースから一夜明けた14日朝。両社から「検討は事実であるものの、決定事項はない」旨のプレスリリースが出た。この日の両社の株価は高騰し、LINEの株価に至ってはストップ高となった。
本ニュースをうけて「日本国内でのEC・決済合戦は決着するのではないか」と考えた読者もいるのではないだろうか。
それぞれPayPay・LINE Payに多額の資金を投じ、シェア争いを繰り広げていた。アプリ紹介サービス「Appliv(アプリヴ)」(運営元:ナイル株式会社)の調査によればPayPayが一歩リードしている。しかし、アンケート調査ごとに結果のばらつきがあり、争いの激しさがみてとれる。
PayPayはZHD(Zホールディングス)も属するソフトバンクグループ。新領域である戦略事業の位置づけで全社総力戦ともいえる還元強化策を展開していた。今年10月に、かつては決別関係にあったと報じられたことがあるSBIホールディングスとZHDが金融サービス事業で業務提携をすると発表した。
同様にLINEもLINE Payを戦略事業と位置づける。経済圏を築くべく、みずほフィナンシャルグループと共同で2020年にネット銀行「LINE BANK」の開業を目指している。また先月、野村ホールディングスとブロックチェーン事業領域において資本業務提携を発表。
金融サービスに限らず、両グループが国内の地盤を固めるにあたって、国内スタートアップへ投資をしていることをご存知だろうか。
両グループの国内スタートアップ投資先一覧
両グループの2006年から現在までの国内スタートアップへの投資先をみよう。投資元はヤフー、ソフトバンク、ソフトバンクグループ、YJキャピタルなどのグループ会社だけでなく、アスクルなどの関係会社投資分も含むものである。
投資先をみていくと、共通の投資先は貸付型クラウドファンディングを展開するクラウドクレジットのみであった。
EXIT未済の現在投資先は以下のとおり。ソフトバンクグループがBtoB領域への投資先が多く、LINEグループは相対的にBtoCサービスへの投資が多い。
BtoC領域の投資先をみると、ソフトバンクグループは動画、SNS・コミュニティ、コマースを重視していた。LINEグループはゲーム、ロボット、食、FinTechだ。それぞれの投資先における現在の企業評価額をみると、100億円を超える先は7社あった。
BtoB領域の投資先は、営業・マーケティング支援などエンタープライズ向けサービスが目立つ。特徴的なのは、FinTechに対しては両グループとも事業法人から直接投資をしている点だ。
投資先の現在の企業評価額をみると100億円以上が13社。中には、来月に新規上場が決まっているfreeeも含まれている。
ソフトバンクグループの国内スタートアップ投資
続いてそれぞれの投資動向をみよう。
ソフトバンクグループは巨大な「ビジョンファンド」を有している。そこからUberやWeWorkなど世界の名だたる企業へ投資を行っている。
日本のスタートアップへの投資は、ソフトバンクやヤフーなど事業法人から直接投資を行ったり、傘下のCVCであるYJキャピタルから行われている。
2018年は過去10年で最高額となる171億円をグループで投じている。大きかったのは、レシピ動画サービス「kurashiru(クラシル)」を運営するdely株式会社の主要株式取得。93億円程度とみられる。
また、下のグラフの数字には入ってこないが、他ファンドにLPとして参加もしている。
メディアプラットフォームであるだけにコンテンツ関連企業への投資が目立つ。続くのがAdTech。これは同じくヤフーに関連するものだろう。そして、FinTech。証券取引アプリを展開するOne Tap BUYへの投資が中心であった。
LINEグループの国内スタートアップ投資
同様にLINEも2018年に過去10年で最高額である94億円の投資を行った。これは、後述のFinTech企業への投資だ。
LINE本体とLINE Payからの直接投資の他、傘下のCVCであるLINE Venturesを通じた投資だけでなく、他ファンドへのLP出資も行っている。
LINEが投資に力をいれた領域はFinTechだ。2018年に集中的に資産運用のFOLIOとクラウド経費精算のfreeeへ大型投資をしている。戦略事業である本領域を既存金融機関大手だけでなく、国内スタートアップとも連携して進めていた。
両社が統合すると
この両社が統合した場合、まずFinTech領域における存在感が増す。BtoCが本業である両社だが、SaaSやHRTechなどのエンタープライズ向けの投資においても存在感があるのは面白い点だ。
また、国内スタートアップでFinTechと並んで人気が高いヘルスケア領域には、投資が少ないことも特徴的といえよう。
国内スタートアップへの投資先をみると、投資領域の幅広さに特徴があろう。両社の統合は対立構造にあった通信各社の勢力図にも影響する。
これだけにとどまらず、国内スタートアップの7割近くがITソフトウェアだ。ヤフー・LINEのIT巨人が誕生することで、戦い方にも変化が起こるだろう。
とくに両グループがFinTechに注力していたこともあり、国内FinTechは大手企業、メガベンチャー、スタートアップが入り混じった動きが加速していくと考えられる。
(文:森敦子、デザイン:廣田奈緒美)