日本のスタートアップにおける出口戦略は、もはやIPO一辺倒ではない。すでにEXIT全体のうち、M&Aが占める比率は約8割に達しており、スタートアップにとって主要な出口として定着している。
一方、買い手にとってもM&Aは成長戦略の中核として位置づけられている。47社のM&A実務担当者を対象とした調査でも、74%の企業が今後M&Aを拡大する方針を示した。
こうした状況を踏まえると、今後スタートアップM&Aもさらなる拡大が見込まれる。 本記事では、Speedaが蓄積したデータと47社のアンケート結果をもとに、日本のスタートアップM&Aの現在地と、その構造を読み解く。
※本記事は、Speeda調査レポート『スタートアップM&Aレポート2026 -データと事例で読み解く、実践知-』の一部を抜粋したものです。レポート本編は有償で提供しています。
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データで見るスタートアップのEXIT
スタートアップM&Aの定着
過去10年の推移を振り返ると、スタートアップのEXITにおいてM&Aが占める割合は、2015年の67%から2025年には88%へと大きく上昇している。

背景には、国内スタートアップ市場そのものの拡大がある。国内スタートアップの資金調達総額は、2015年の2047億円から2025年には7613億円まで拡大した。スタートアップ数の増加や事業成長を背景に、M&A件数も増加基調で推移している。
さらに2022年以降は、IPO市場の冷え込みに加え、東証の市場再編など資本市場環境の変化も進んだ。こうした環境変化を受け、M&Aはこれまで以上に重要な戦略オプションとして位置づけられるようになっている。

被買収総額も拡大傾向にあるものの、M&Aの多くは依然として小〜中規模案件が中心となっている。大型案件は一部にとどまっており、日本のスタートアップM&A市場はなお黎明期にあると言えるだろう。

買い手の多角化
スタートアップM&A市場が拡大する過程で、買い手側も多角化している。
日本のスタートアップが事業面・技術面で成熟したことで、海外大手企業による買収対象となる事例も生まれてきた。2021年にはPayPalが後払い決済事業のPaidyを約3000億円で買収したほか、2023年にはモデルナが、mRNA医薬の製造を手がけるディープテックスタートアップのオリシロジェノミクスを買収するなど、技術獲得を目的としたM&A事例も現れ始めている。

スタートアップが事業成長を経てIPOしたのち、M&A戦略を推進するケースも増えている。グロース市場(マザーズ市場含む)に上場する企業は、2021年に79社が66件のM&Aを実行していたのに対し、2025年には145社が227件を実行するまで拡大した(スタートアップM&A以外を含む)。

上場企業数の増加に加え、IPO後の成長戦略としてM&Aを積極活用する動きが広がっている。
また、スタートアップが未上場段階から別のスタートアップを買収する事例も増加しつつある。大型資金調達を実施した企業を中心に、事業強化や人材獲得、新市場参入などを目的としたM&Aが増加している。

このように、スタートアップM&A市場では、大企業だけでなく、新興上場企業や未上場スタートアップまで買い手層が広がりつつある。
74%の企業がM&A拡大へ 買い手企業の意思決定
拡大する意欲と組織体制
スタートアップM&Aの実績を有する事業会社47社へのアンケート調査を通じて、買い手企業の戦略や意思決定プロセス、直面している課題を聞いた。
回答企業の74%が、「今後3年でM&Aを拡大する」と回答した。多くの企業にとってM&Aが成長戦略の1つとして定着しつつある。一方で、売上500億円未満の企業では半数が専任チームを有しておらず、兼務や案件ごとのチーム組成体制をとっている。
買収の目的は、既存事業の強化と新市場への参入が圧倒的で、人材獲得や技術獲得を主目的とする回答は少数にとどまった。最終的な買収判断としては、9割の企業がシナジーを重視していた。その次の判断軸として、大企業では「文化・組織フィット」を重視する傾向が強く、中堅企業では「市場参入時間の短縮」を重視する傾向が見られた。
バリュエーションとPMIの壁
M&Aを成功させるまでの過程には、依然として多くのハードルが存在する。
ソーシング(案件発掘)の経路は、「仲介・FA」(31.8%)、「アウトバウンド」(31.4%)、「紹介」(30.9%)、「インバウンド」(24.7%)と大きな偏りは見られなかった。一方で、M&A実行件数の多い企業ほど、仲介/FAは案件数確保の手段として位置づけつつ、アウトバウンドの比率を高める傾向が見られた。
投資回収の判断基準においては、取得時のバリュエーション、「マルチプル(EBITDA倍率等)」が最も重視される結果となった。将来キャッシュフローなど不確実性の高い予測よりも、買収時点の価格水準を重視し、投資規律を守る姿勢がうかがえる。
M&A実行プロセスにおける最大の壁として浮かび上がったのは、「バリュエーション」と「PMI(買収後統合)」だった。
LOI(意向表明書)提示後に買収を見送る理由では、「バリュエーションの不一致」が77%と最も高かった。スタートアップ側の期待値上昇や将来成長の評価をめぐり、価格交渉が難航するケースが多い。
また、PMIで重視するポイントにおいては、「売上シナジーの創出」、「キーマンのリテンション」が上位に並んだ。一方で、PMIを担える人材の不足や、リソース不足がシナジー創出を阻む構造的なボトルネックとなっている。

スタートアップM&Aを後押しする「追い風」
近年、政府もスタートアップM&Aの活性化に向けて、法改正やガイドラインの公開を進めてきた。 主な内容は以下の通りだ。
「2021年」
- 経産省、「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」を公開
- 会社法改正で株式交付制度が導入。過半数取得の場合も株式対価M&Aが可能に
「2022年」
- 政府、「スタートアップ育成5カ年計画」を発表
「2023年」
- オープンイノベーション促進税制の拡充。スタートアップ買収時に株式取得額の25%が控除可能に
「2024年」
- 経産省、スタートアップのM&A活用に関する調査報告書を公開
「2026年」
- オープンイノベーション促進税制を2028年3月末まで延長。M&A型において、3年以内に過半数取得を予定するマイノリティ取引(50%以下)も対象化
こうした制度整備や買い手の多角化を背景に、スタートアップM&A市場は着実に拡大を続けている。一方、市場はなお発展途上の段階にあり、今後はより高い企業価値を持つスタートアップを継続的に生み出し、IPOやM&Aへとつなげていけるかが重要な論点となる。
また、東証の市場再編を経て、買い手側となる上場企業には、資本市場を活用した成長戦略がこれまで以上に求められるようになった。M&Aは単なる買収手段ではなく、非連続成長を実現するための重要な経営戦略として、さらに存在感を高めていくとみられる。
一方で、PMIを担う人材不足やバリュエーションギャップ、株式対価M&Aの実務負荷など、買い手企業には依然として多くの課題が残されている。
そして、より多くの企業がM&Aを成長戦略として取り入れていく中で、「M&Aを実行するか」だけでなく、「買収後にどれだけ事業を伸ばせるか」の重要性がこれまで以上に高まっていくだろう。
デューデリジェンスや契約交渉、PMIを含めた統合プロセス全体を設計し、自社の顧客基盤や事業アセットをスタートアップの成長へつなげられるか。実務力や統合ノウハウを蓄積しながら、継続的に価値創出を実現できるかが問われるフェーズへと入り始めている。
※本記事は「2026年スタートアップM&Aレポート」のサマリーです。 レポート本編では、Speedaが蓄積した2015年〜2025年のスタートアップM&Aデータに加え、スタートアップM&Aの実績を有する事業会社47社へのアンケート調査、有識者9名へのインタビューを収録しています。

データと実例の両面から、日本のスタートアップM&A市場の動向と実務論点を整理しました。
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執筆:平川凌、デザイン:川﨑菜々美



