「雨の日に傘を持たずに外出できる日が来るかもしれない。」
コンビニやオフィスの入り口、飲食店の軒先などに次々と傘を設置し、傘を持たずして雨の日の移動を可能にしようとする企業がある。傘のシェアリングサービスを展開する「アイカサ」だ。
住居や車、空きスペースなどあらゆるものにシェアリングの波が押し寄せる中、傘にもその仕組みを利用した同サービス。しかし、アイカサは「単価が高いものをシェアする」というシェアリングビジネスの鉄則とは、真逆の道をゆく。
大学を中退してまで傘に人生を懸ける男は、どこに勝算を見出しているのか?
雨の日の移動を便利にする
アイカサはどのようなサービスですか。
Nature Innovation Group 代表取締役 丸川さん アイカサは簡単に言うと、雨の日の移動を便利にするサービスです。
雨が降ったとき、実は20%~30%ほど傘を持っていません。そして多くの方は、家に傘があるにも関わらずにコンビニで買っています。結果、買った傘は無駄になっているんですよ。
アイカサは、そういった「雨には濡れたくないけど、傘を忘れてしまったユーザーさん」に、傘を介して「濡れない体験」を届けるサービスです。今、渋谷で50カ所、都内で約120カ所に傘を置いています。梅雨の6月には2倍の個所数に広がります。
どんな傘が置かれているのですか。
傘はオリジナルのものを開発しています。雨の日のビニ―ル傘が多い憂鬱な景色を明るくしたかったので、カラフルなものを展開しています。柄にもこだわっていて、1000本単位で少しづつ柄を変えていたりします。
今後は様々なシチュエーションでも対応できるように、カラフルなものだけでなく、真っ黒な傘も展開していく予定です。ご当地物ともコラボし、「地域限定」の傘も作っています。
傘自体も、風が強い日でも問題ないように、骨を強くしたり、今後は撥水加工を強めたものも展開をしていきます。
勝負ポイントは「質」と「手軽さ」
どのような利用方法が多いですか。
アイカサは利用方法でハックできる部分が多いので、新しい使い方がユーザーさんにどんどん発見されています。
例えば、雨の日の混んだ電車に傘を持って乗ると水滴がつくので、電車に乗る前に傘を一旦返して、降りたらまた借りるといった使い方もでてきました。
傘の利用方法を教えてください。
まず、傘にはロックシステムが付いています。仕組みはいたってシンプルで、利用登録をして傘の暗証番号を入力しないと、傘が開かないようになっています。もし、登録せずに傘を取っていっても、番号が分からないので開けず、使えません。
また、貸りるハードルを低くすることにもこだわっています。雨の日にアプリをダウンロードするのは手間ですし、Wi-Fiがないとアプリがダウンロードできないこともあるので、LINEでアイカサを友だち登録すれば、すぐに使えるようにしています。
30秒くらいの動画で使い方を説明しているので、ぜひそちらもご覧になって頂ければと思うのですが、基本的には3ステップで借りることができます。
※アイカサの紹介動画はこちら
まずLINEでアイカサを友達登録すると、トーク画面の下に「アイカサを利用する」というバーが出てきます。ここを押すと、「スポットを確認」「傘を借りる・返す」「HOW TO アイカサ」「お問い合わせ」「マイページログイン」という5つの選択肢が出てきます。
その中の「スポットを確認」を押すと、現在地に近いレンタルスポットが地図上に表示されます。
今配信をしているamiスタジオの周りもスポットだらけですが、数カ月もすればコンビニの数に勝てると思います(笑)。
地図の情報を元に借りたいスポットを選択し、「バーコードを読む・QRコードを読む」を押すと、QRコードリーダーが起動されるので、それを通して傘の柄についているQRコードを読み込んでいただけば、傘を開くために必要な暗証番号が送られてきて、レンタルが完了します。
今後は天気予報との連携をし、都心で増えているゲリラ豪雨の10分前に、「この場所の近くでアイカサが借りられるので、借りたほうがいいですよ」といった通知ができる仕組みをつくっていきたいです。
傘をなくしてしまった場合は、戻ってくるのですか。
人がよく傘を忘れる場所は電車やバスですが、そういった機関では忘れ物は基本的に全て1カ所に集まるので、うまく提携して月に1回傘を回収しに行く方法を考えています。そうすることで、電車やバス会社さんも傘を処理するコストが減りますし、弊社としても回収ができるので、WIN-WINの関係が築けます。
返す仕組みはモチベーションが肝
IoT×傘の仕組みは実現ハードルが高い訳ではないと思いますが、なぜ今まで出てこなかったのでしょうか。
返す仕組みをつくれるかが大きなポイントです。
アイカサは会員登録をしないと使えませんし、利用者は情報を登録しているので、返さない限り課金されます。なので、「傘を返す」モチベーションが働き、借りたら返す循環が機能する点が今までのサービスとは違います。現在も借りたユーザーは100%の返却率を実現しております。
また、傘のシェアと言うと、巻き込む必要がある事業者さんが多かったり、天気に利用量が依存するので事業としての不確実性も高いです。
そういった点が事業として始めにくい要因だと思います。「同じようなアイディアを考えたけど、上司に提案したら却下された」といった話はよく聞きます。
傘に感じた理不尽さが原動力
このサービスを始めようと思ったきっかけは。
今僕は24歳なのですが、もともと大学に対して価値を感じることができていなかったので、「何かピンとくるものがあったら大学を辞めよう」と頭の片隅でずっと思っていました。
そんなときに「自分が人生を懸けるものは傘だ!」とピンときたので、傘をやるために中退しました。
「傘が好きなのか?」と聞かれますが、どちらかと言うと嫌いです(笑)。無駄に買いたくないけど、欲しいときになかったり、気付いたら家に5、6本あったりするじゃないですか。そういう理不尽さに腹が立ち、このサービスを始めました。
シェアリングの形にしたのはシンプルで、中国で似たサービスがあったからです。中国でシェアブームが起きており、自転車やモバイルバッテリー、バスケットゴールなど、あらゆるものがシェアリングされていました。そういった中国の流れを見て、日本でも応用できる形がないか調べていたところ、このサービスを思いつきました。
モノを自社で抱える比較的リスクの高い事業モデルですが、始めるとき躊躇はありませんでしたか。
無知だったからこそ突っ込んでいけた部分はあると思います。それまでは個人でちょこちょこサービスをやってはいましたが、法人をつくってある程度の規模で仕掛けるのは初めてでした。でも年間8,000万本ぐらい買われているビニ―ル傘をリプレースして、「自分たちのサービスで雨の日の景色を変えられたら楽しいな」と思って突き進むことができました。
ただ、最初は起業とかスタートアップという言葉を、表面的にしか知らなかったので、「エンジェル投資家って何なの?」などをネットでゼロから調べてました。
シェアリングの鉄則を越えるために
そこからどのようにしてサービスを展開していきましたか。
最初は何でもやっていました。事業の進め方もよく分からなかったので、起業している人や、「傘 シェア」とグーグルで調べて出てきた、ビニ―ル傘を昔貸し出していたシブカサという団体に会いに行ったり。
シブカサさんを運営されていた方だけでなく、7年前にシブカサさんと提携していた店舗に「なんで当時やっていたんですか?」「今置けるとしたら、うれしいですか?」などを聞きまくっていました。
もちろん、投資家の方にも会いに行きましたが、「高いものをシェアする」というシェアリングの鉄則とは、正反対の単価が低い傘をシェアするモデルは、全然ウケがよくなかったですね。
もちろん、投資家によっては「すごい面白いし、チャンスがある」と言ってもらえることもありました。ただ、多くの事業者さんを巻き込む大人パワーが必要な分野なのは間違いないので、「おまえにそれができるのか?」とよく言われました。
最初は傘を作ったこともなかったので、何十社と傘をつくっている会社に直接電話をかけまくって見つけて。泥臭いことばかりでした。
逆境が多い中でどうやってそれを乗り越えていきましたか。
反骨精神ですね(笑)。
投資家の方をはじめ、周りからいろいろ言われて、自分なりに悔しさや腹立たしさがあったので、「それならできることを証明してやろう」と思い、とにかく動きました。
あとは純粋に、傘で困っている人たちを救いたい想いが原動力になっています。自分自身も傘が無くて困った経験があって、他の人も同様に困っているのだから、その現状を変えられたら気持ちいいじゃないですか。
だからこそ、アイカサが置いてある場所で雨の日限定クーポンを発行して、「お店も利用者も雨の日が楽しくなる仕組み」といった、とにかく傘に関係して自分達が楽しくできることを探しています。
今後もLINEのみで提供する予定ですか。
利用し始めてから3回目ぐらいまでは、LINEのほうが便利だと思いますが、それ以上使うユーザーが増えてきたら、アプリを開発して天気の通知機能をより精密にしたり、よりスムーズに傘を借りられる仕組みを開発していきたいです。
また、いろいろな企業との連携もすすめたいです。すでにtenki.jp(天気情報サイト)さんにはスポンサーになって頂いていますし、天気と傘は強いシナジーを生み出せる領域なので、今後はさらに新しい施策を打っていきたいです。
Twitterもやっているので、今日質問できなかった部分や「こんなアイディアはどう?」という意見がありましたら、是非ご連絡頂ければと思いますし、LINEでアイカサを友達登録していただいてお問い合わせしていただくと一番早いと思います。
これから梅雨真っ盛りなのでアイカサをぜひ使ってみてください!今の数倍展開も広げますし、かなり新しい取り組みを続々と発表していきます!
聞き手:松岡遥歌、文:町田大地