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2019/08/02

異色のキャリア「アントレドクター」。起業が拡げる医療の可能性

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  • #HealthTech

スタートアップ最前線

CI Inc.代表の園田氏は、現役の産婦人科医として週1度は医療に従事しながら、出産後の子育てを取り巻く課題を解決するために起業した。

同社が運営する、スマホから病児保育施設を予約できる「あずかるこちゃん」は、第12回キッズデザイン賞において審査委員長特別賞を受賞するなど高く評価されている。

「産まれる時だけじゃなく、その後も親子がよりよく生きていける方法を考えたかった」と語る園田氏は、産後の家族の生活をサポートする病児保育施設が十分に使わていない現状を変えたいと考えるようになったという。

園田氏はなぜ、起業家×医師という多忙なキャリアを選んだのか。

CONTENTS

医師の定義とは

園田さんが考える「医師」の定義を教えてください。

CI Inc. 代表取締役社長 園田さん(以下、園田)医師法第一条にも書かれていることなんですが、医師は臨床医として関わることだけが全てではありません。

医師法第一条は以下のように規定されています。

「 医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」

病気を治す人だけが医師なのではなく、公衆衛生や国民の幸福をデザインするといった、人が幸せと感じる時間をつくれる人が「医師」なのではないでしょうか。

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(画像: lovelyday12 / Shutterstock.com)

今このビジネスを通して医師の性分を発揮しているので、自分は毎日医師をやっていると思っています。

日本全体に目を向けても、医師の起業家は増えていると思います。本当に大事なことは病院での診察以外の時間にあるという課題感を持つ人が増えているからではないでしょうか。

ヘルスケアスタートアップに対する投資額も拡大傾向にある。たとえばスタートアップとして2018年には医師の金子和真氏が「Linc’well(リンクウェル)」を創業している。

たとえば産婦人科医の目線で考えると、子宮頸がんはワクチンや検診といった対策(予防、早期発見)で防げるはずなのに、毎年10,000人の方が子宮頸がんを患い、3,000人の方が子宮を摘出、同数が子宮頸がんにより命を落としています。

そういった現状から、目の前にいる人をどうやって救うか以上に、その人の生活や薬を飲む習慣、検診をちゃんと受けられる仕組みを整える方が大事だと考える医師が増えてきたと感じています。

(画像:提供)

現役産婦人科医としての悩み

産婦人科医として働く中で、親子のペインは出産以降にあると感じるようになったそうですね。

メディアでも報じられているように産後うつや幼児虐待が問題になっていますよね。それは親に問題があるのではなく、そうなってしまう社会の構造に問題があると考えています。

医師として、「社会的ハイリスク妊婦」という将来子どもを虐待するリスクを心配するような可能性が方を妊娠期から介入し、生活を整え、ソーシャルワーカーの方が妊婦さんを行政とつなげることで、産んだ後に安心して生活できるように整える、ということが日常的に行われている病院にいました。

医師として以前勤務していた病院では、「社会的ハイリスク妊婦」が多くいらっしゃいました。

将来子どもを虐待をするリスクが心配される方々だったので、妊娠期から介入し、生活を整え、時にはソーシャルワーカーの方が妊婦さんを行政とつなげ、対応されていました。すべては、子どもを産んだ後に安心して生活できるように整えるためでした。

その中で、産後1カ月で「よかったね。これからも頑張ってね」と言って別れたその後に、お母さんが何らかの理由で自殺してしまっているという事実がデータから分かってきたんです。

参考:「人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状」

病院で目の前にいるときに頑張って助けても、病院から離れてから悲しいことが起きている。そのギャップにすごく課題を感じています。

そういったリスクに繋がる「産後うつ」はどう対応するべきなのでしょうか。

産後うつが進んだ場合、精神科の先生の介入が必要になるケースも確かにあります。ですがそうなる手前で防げる場合も多くありますし、たとえ産後うつになった場合であっても、生活をどう変えるかが重要です。

実際のケースをお話しします。 その患者さんは、産後2カ月で診察に来られておりました。1ヶ月前の通常の産褥健診で診察して医学的に気になることがあったので、たまたま受診してもらいました。1ヶ月前の診察で気になっていた点は改善されていたので、診察後には「大丈夫ですね。また、なにか困ったら来てください!」と伝え、帰っていただこうとしたその時、表情が暗いことに気づきました。

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そこで、お話を聞いてみると、ご本人は子育てでいっぱいいっぱいでした。いえ、それは「孤育て」でした。ご主人は夜中0時まで帰ってこない。夕方からは、上の子が保育園から戻り、ご飯、お風呂を生後2ヶ月の子どもと共に対応されていました。

そこで、私は助産師さんと相談して、区につなぎ、2つの対策が取られました。

1点目は、ご主人は全く育児参加しないという状況だったので、担当の行政機関である新宿区にご主人を呼んでもらい、育児参加をしっかりするよう促してもらいました。その時の情景に関するご本人の話が印象的でした。

「ふたりで呼ばれて伺ったのですが、担当の方が現れるとすぐに、『ご主人、なんであなたが赤ちゃんを抱っこしていないのですか?今日、なんで呼ばれたか理解されていますか?あなたは育児のサポーターではないのですよ!育児の主体者ですよ!』と言っていただき、わたし的にはまだ足りないけど、少しずつやってくれるようになりました。」

ご主人が育児と家事に参加してくれるようになったのです。

2点目は、上のお子さんが通う保育園の延長保育が認められました。産休に入るまでは夜遅くまで見てもらえていましたが、育休と同時に夕方に帰宅するにようになりました。

区の介入により、以前のような延長保育を認めてもらうようになりました。保育園で夕ご飯やお風呂に入ってきら帰宅となるので、上の子はあとは眠るだけの状態になりました。

対策の結果、1週間後にはお母さんの表情が少し変わり始めて、2週間後には笑顔になっていきました。生後間もないお子さんを育てるお母さんにとって、一番大切なのは寝ることだと思っています。お母さんが適切に睡眠時間を確保できるように家族、ご主人がサポートして、日中の生活を変えるところがすごく大事なんですよね。

公衆衛生を学ばれていたことも、この課題感に繋がっているのでしょうか。

公衆衛生は簡単に言うと社会をどうやって幸せにするかという学問なんですよね。

医師の中でも、公衆衛生を学んでいない人は多いですが、私はこの学問はすべての医師にとって学ぶ意味があると思っています。

医師は1対1の患者さんをどうやって治療するかが大切な要素でもありますし、そこにやりがいを感じる職業でもあります。

マクロ的に医療を考えるより、目の前の患者さんをどうやって助けるかにフォーカスしやすい職業かもしれないですね。

実際に僕自身、積極的に公衆衛生を学ぼうと思っていたわけではありませんでした。産婦人科医として働く日々はとても幸せだったので、臨床をずっとやろうと思っていたんです。

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そんなとき、大学の指導教官が「若いときに研究しなさい」と言ってくれたことがきっかけで、研究に興味を持ちました。実は、2回断ったのですが、忙しい東大の教授がこんなに熱く語ってくれるなら、良い機会に違いないと思い、3回目の面談時に大学院に行くことを決めました。

では、大学院で自分は何を研究するのか考えました。すでに、同期が大学院で研究をしていましたが、東大卒の先生って、研究をすごく楽しそうにやっていくんですよね。「この人たちは、物事の原理原則に興味関心があって、ひたすら突き進める人なんだな」というのを目の当たりにしました。

自分は東大卒の先生に対して、医師として劣等感を感じたことはありませんでしたが、こと研究にのぞむ姿勢については、違いを感じていました。

じゃあ自分の強みを生かせるフィールドはどこか考えた結果、公衆衛生なら自分にとっていいんじゃないかと考えました。

医師を続けながら起業に挑戦する

なぜ起業という選択肢を考えるようになったのでしょうか。

大学院に進んだ当初から起業しようと思っていた訳ではありませんでした。大学院に進んで、公衆衛生は自分に合っている学問だと感じるようになったものの、それを世の中に活かすためには、具体的に何をしたらいいか分かりませんでした。

そこでお母さんたちにヒアリングをしてみることにしました。すると、お母さんたちは、子どもの急な病気の対応と仕事の調整に困っていることが分ったんです。

(画像:提供)

同じ頃に、子育て中の大学院の同期が、「病児保育が使いづらくて困る」と言っていました。この時初めて「病児保育」という言葉に出会いました。病児保育とは、保育園では預かってくれない風邪やインフルエンザなど、軽症のお子さんを預かってくれる素晴らしい事業です。

実際に病児保育施設に行ってみたのですが、電話予約や煩雑な紙書類など、使いづらさはあるものの、環境としてはすごくいい場所だということが分かりました。

その時、病児保育の使いづらさを、テクノロジーで改善することで、子どもの急病時の仕事の調整という課題を解決できるのではないかと思ったんです。

「自分は医療者でテクノロジーもすごく好きだ。自分が解決できる可能性があるなら、やるしかない」と。

ビジネスでどう稼ぐか、どういうビジネスモデルにするかもまったく考えずに、まず起業したのが正直なところです。

大学院に在籍中に起業して良かったことは、医師としての勤務が週1になっていたことですね。

臨床医をやっていると、毎日診療のため余裕がなく目の前の患者さんの対応でいっぱいいっぱいの生活だったのが、大学院に進学したことで考える時間がすごく増えたからです。

自分が今後どう生きていくのか、本当に何がやりたいのか。

医師としての通常のキャリアを考えると3つ思い浮かびました。一つ目は、大学で研究をしてステップアップしていくこと。2つ目は、大学の関連病院などで立場ある役職に就き、診療を中心にやっていくこと。3つ目は、開業です。後半ふたつは、自分がやりたい診療を仲間とやっていくイメージです。

そして、医師のキャリアとしては特殊ですが、ビジネスに挑戦する道でした。これらのキャリアについて比較した時、どうなったとしても医師には戻れるという保証があることに気づきました。なので、起業することに対してそんなにリスクは感じていませんでした。それよりもやりたいことをやれない方が嫌だなと。

今は若者が挑戦しやすい社会になりつつあり、テクノロジーも発展していますから、起業に挑戦しようという医師も増えていると思います。

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(画像: Syda Productions / Shutterstock.com) 2018年のエムスリー株式会社による、「医療機関の開業以外での起業の意向に関する調査」によると、「起業する予定」「起業したいと思っている」と回答した開業医は全体の12.5%、勤務医は18.3%。起業への関心がうかがえる。

いままで対処療法的なところで終わっていたものが、よりマクロの観点で、より上流の問題に目が向けられるようになっていくことが重要だと思っています。

わたしは、子育て支援にフォーカスし、安心して産み育てられる社会を実現できるように、取り組んでいこうと思っています。

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編集・写真:ami

「あずかるこちゃん」の事業について、詳しくはこちらから


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