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2019/12/25

大学発ロボット開発のイノフィス、フィデリティらからシリーズCで総額35億円調達

  • #資金調達記事
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本日、装着型作業支援ロボット「マッスルスーツ®」を開発・販売するイノフィスが、シリーズCで約35億円の資金調達完了を発表した。

調達後企業評価額は推定82億円。イノフィスは東京理科大学発のスタートアップで、 2020年後半のIPOを目指している。

事業会社を中心としたラウンドだが、今回新たに世界的な資産運用会社のFidelity International(フィデリティ・インターナショナル)が大株主として参画したことも特徴だ。

今回のファイナンスを担当した折原CFO、東京理科大学教授で創業者・開発者小林氏のインタビューを通じ、イノフィスのファイナンスを中心に解説する。

CONTENTS

シリーズCで総額35億円、調達後企業評価額は82億円

空気圧で稼働する人工筋肉のはたらきで動作を補助するアシストスーツ「マッスルスーツ®」を開発・提供する株式会社イノフィス(以下、イノフィス)がシリーズCにて総額35億円の資金調達を完了したと発表した。

累計調達額は49億円、調達後企業評価額は82億円とみられる(※評価額はINITIALによる推定額、イノフィスにより決定又は追認されたものではない)。資金使途は、新製品の研究開発、国内外の事業開発・事業拡大だ。

イノフィスは、「すべての人が、生きている限り自立した生活を送る世界を実現する」を理念に掲げる東京理科大発スタートアップ。同社は、2000年4月より東京理科大学小林研究室で人工筋肉を使用したウェアラブルロボット「マッスルスーツ®」の研究開発を開始したことに端を発する。

2013年12月にその実用化の目処がたったことから、法人を設立。2017年より研究開発型企業であるサンバイオ執行役員などの経歴をもつ古川氏がCEOとなり、それまで代表を務めていた創業者の小林氏は開発に重点を置いた経営体制にシフトチェンジしたとみられる。

マッスルスーツ®の原理は、背部のフレームが腿フレームが回転軸やワイヤーで連動する構造。背部の人工筋肉の収縮させて発生する力を回転力・反力につなげ、補助力の発生に至る。

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人工筋肉で動作を補助するマッスルスーツ®。介護現場を中心に、農業・工事現場・工場などさまざまな場面で利用されている(出所:イノフィス社 HP)

2019年11月には、さらなる軽量化と大幅な低価格化を実現した「マッスルスーツEvery(エブリィ)」を発売。従来品含む累計販売台数は5,000台を突破した(2019年11月現在)。

同社の強みは「安くて軽くて一番力が出る」。その秘密はユーザーと向き合った研究開発体制にある。

シリーズCはプレIPOラウンド。IPOを見据えた投資家陣

イノフィスのこれまでのファイナンスをみると、シリーズCの特徴がみえる。

シリーズCの希薄化率は40%程度で、INITIALシリーズCの希薄化比率 中央値11.7%に比べて高い水準となっている。

本ラウンドの特徴はその投資家である。

イノフィスは2020年後半の新規上場(IPO)を目指しており、今回のシリーズCはプレIPO(新規株式公開前)ラウンドとなる。

シリーズA、シリーズBで多い金融機関系の投資家と異なり、シリーズCでは事業会社からの調達が中心だ。

自動車用制御コントロールのハイレックスコーポレーションがリード投資家で、電機メーカーのブラザー工業、住宅・生活サービスのナック、システムインテグレーターのTIS、医薬品の東和薬品、医療関連サービスのトーカイ、家電量販店のビックカメラなど事業会社の業種も多岐にわたる。

フューチャーベンチャーキャピタルは、ロボットものづくりスタートアップ支援ファンドからの出資となる。当ファンドの主な出資者はイノフィスの創業時からの株主である菊池製作所であり、実質事業会社からの調達といえるであろう。

Fidelity Internationalにとって2社目の国内スタートアップ投資

今回、新たに世界的な資産運用会社のFidelity International(フィデリティ・インターナショナル)が大株主として参画した。

フィデリティ・インターナショナルは、株式の長期保有を前提に、主に成長株を中心に個別企業の将来の成長性や財務内容などを綿密に調査して投資判断を行う運用スタイルだ。

同社は上場企業を中心に投資を行い、国内スタートアップへの投資はイノフィスで2社目 と少ない(※公表ベース)。

国内1社目は、スキルシェアのCtoCマーケットプレイスを運営するココナラで、投資金額は約12億円(2019年7月公表)。

ココナラ、イノフィス両社の共通点はプレIPOシリーズにあることだ。上場直近の企業にまで投資対象を広げて、長期投資を行っていることがうかがえる。

ファンダメンタルズ調査に定評がある同社からの出資は、イノフィスの中長期の成長性が高く評価されたことを意味する。

後半は、シリーズCラウンドの資金調達を担当した折原CFO、創業者・開発者の小林氏のインタビューをお届けする。

シリーズCはIPO後を見据えて事業会社から調達

今回のシリーズCラウンドは、事業会社から中心に調達しています。ベンチャーキャピタルなどの金融機関を中心に調達してきたシリーズA、シリーズBとは異なる動きですが、なぜでしょうか。

イノフィス 折原氏(以下、折原) 一般的に金融機関は、IPOのタイミングで持ち株を売却するケースが多いです。

それまでの既存株主がIPO時に株主が入れ替わることを考慮し、安定した株主構成をまず念頭に考えました。それから事業シナジーの方向性で考えた上で、事業会社が最適と判断して2019年9月からファイナンスに動きました。

折原大吾(おりはら だいご)/ 株式会社イノフィス社 執行役員CFO兼経営企画部長。外資系通信機器メーカーにてコールセンターコンサルティング事業の立ち上げ、アライアンス開発及びプロダクトマネジメントに従事した後、UBS証券投資銀行本部において、通信、テクノロジーセクターの企業に対するM&A、資金調達などのアドバイザリー業務に従事。その後、(株)経営共創基盤(IGPI)において、JV設立やM&A、製造業の事業戦略立案、ハンズオン経営支援、投資ファンドでの海外企業への投資業務に携わる。2019年5月に株式会社イノフィス入社。(写真:イノフィス社 提供)

シリーズCラウンドのリード投資家は、自動車用制御ケーブル大手のハイレックスコーポレーションです。マッスルスーツEveryの部品を供給していただいたご縁で、製品や事業を評価いただき本ラウンドに至りました。

海外機関投資家のFidelity International(フィデリティ・インターナショナル)も新たに株主となりましたね。

折原 フィデリティ・インターナショナルは長期保有を前提にしているグローバル投資家です。

投資担当者とは何度も面談を重ね、マッスルスーツも実際に試着し、事業を理解して頂き株主になっていただきました。

今回のラウンドの目的である「安定株主」の観点と合致していました。また、グローバル投資家を株主に迎えることは上場後も強みになると考えています。

事業存続の危機から経営刷新、シリーズB調達へ

過去のファイナンスについてうかがいます。会社設立時は菊池製作所から、シリーズAでは産業革新機構(現・株式会社INCJ)と国内金融機関から出資を受けていますね。

イノフィス 小林氏(以下、小林) イノフィスは、2013年に菊池製作所の出資を受けて私が創業した会社です。

もともと事業化を検討していたエンジニアリング会社の日揮ホールディングスから、製作会社として菊池製作所を紹介されたことがきっかけです。

小林 宏(こばやし ひろし)/ 株式会社イノフィス 創業者・開発者、東京理科大学 工学部教授。東京理科大学博士課程修了、博士(工学)。1996年日本学術振興会海外特別研究員としてチューリッヒ大学に派遣されたのち、1998年東京理科大学 工学部第一部機械工学科で講師、1999年同助教授、2008年同教授。2013年に株式会社イノフィスを創業。(写真:イノフィス社 HP)

2014年末に産業革新機構(現・INCJ)から連絡があり、2015年8月にリード投資家として出資に至りました。

INCJに加えてDBJキャピタルと三菱UFJキャピタル、菊池製作所と付き合いのある信用金庫や地方銀行などの金融機関が入る形で、シリーズAでは5.85億円を調達しました。

シリーズBはシリーズAの約3年後に行っていますね。中でもアジアのメーカーからの出資が特徴的です。

小林 シリーズAから2年経った2017年8月、あと1年半で調達資金が底を突くことが判明し、事業存続の危機にありました。

当時は厚生労働省からマッスルスーツ®が無償で買える補助金制度があったので、介護施設を中心に1,500台以上出荷しました。しかし、補助金が打ち切りになった途端に製品が売れなくなってしまったのです。

事業を辞めるか、新たな経営者を受け入れて立て直すかで悩んだ末、後者を選びました。

経営体制を刷新し、(現在の代表取締役CEOで、経営共創基盤出身の)古川さんが着任してからイノフィスがガラッと変わりました。いわばゼロからの出発です。

シリーズBでは香港のShun Hingグループ、台湾のJochu社とアジアのメーカーにマッスルスーツ®の製品面を評価いただき、ほかVCと合わせて合計約8億円を調達しました。

ただ正直、ビジネス面での見通しはまだわからない状態でしたね。

大転換の1年。家電並の価格を実現し、販売台数は従来比20倍に

事業見通しが見えない時期からわずか1年以内で今回のシリーズC、35億円の大型調達を達成しました。成功要因と、今後の展望は何ですか。

小林 家電並の低価格を実現し、個人向けに販路を拡大したことが要因です。

これまでマッスルスーツ®の販売価格は約50万円で、購入者は代理店経由で介護施設や工場など法人向けが中心でした。

しかし、50万円は個人で買うにはハードルが高い。より多くの人に使って頂きたい思いで、販売価格を家電並に下げることを目指しました。

2019年11月に販売開始した新製品「マッスルスーツEvery」は、13.6万円(税抜き)と従来の約3分の1以下の価格を実現。

ビッグカメラ、ヨドバシカメラなど家電量販店、ジョイフル本田などホームセンターに加え、ECであるAmazonなど個人向け販路を新たに獲得しました。

その結果、販売台数実績は月50台程度から月1,000台にまで成長し、累計販売台数は5,000台を超えました。

マッスルスーツ®の強みは、「安い、軽い、一番力が出る」。私はどのメーカーよりもユーザーと一緒に開発をしており、ユーザーが認めてくれるものをつくってきた自負があります。

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新製品のマッスルスーツEvery。誤動作なし、着脱の容易さ、サポートの滑らかさが特徴だ(出所:イノフィス社 HP)

折原 今までは売上台数が判断できず、初期費用が数千万円かかる量産体制には踏み込めませんでした。今回個人向けに販売する戦略にシフトしたことからそれが実現できました。

ほかにも素材をアルミから樹脂に変更し、部品数を削減して汎用の格安部品を使用。企画・開発に携わったリコーグループの協力もあり、アシストする力は従来と変えずに低価格化と軽量化を実現しました。

マッスルスーツEveryの販売実績は、これまでの1年間の出荷台数を1ヶ月で上回る数字です。事業のスピードに追いつくために、営業、マーケティング、オペレーション、経理、経営管理などあらゆる会社の仕組みをこの1年間で変えてきました。

今後は「一家に一台、マッスルスーツ」を目指していきたいです。

また中長期的には、リハビリなど医療用に使える製品の開発・展開も視野に入れています。IPOによって、市場から資金調達できる体制を目指します。

(インタビュー・執筆:藤野理沙、編集:森敦子、デザイン:廣田奈緒美)


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