## はじまりはEXIT済み起業家の資金。今や60億ドル超を運用するFounders Fund
2005年にPayPal創業メンバーが立ち上げ、これまで計63億ドルの資金を運用するFounders Fund（以下、FF)の投資実績は華々しい。投資件数は549件、EXIT件数は87件に上り（出所：
Crunchbase）、数多くの有名スタートアップに投資している。

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1972年に設立されたセコイアキャピタルなど、米国では経験豊富な有力老舗VCがひしめく中、2005年設立と比較的若いVCに位置するFounders Fundの独自性はどこにあるのだろうか。

その背景をファンドの成り立ち、投資哲学から紐解いていこう。



__◆「起業家による」1号ファンド組成__

「Founders Fund」（以下、FF）の名前の由来は、その名の通り起業家からの資金を基に1号ファンドが組成されたことにある。

1号ファンドの規模は5000万ドルだが、その多くはPayPal創業メンバーがPayPalを15億ドルで売却して得た資金が中心とされる。

2号ファンド以降は大学基金や機関投資家からの資金が中心となっているものの、現在でも
「ファンド額の約20%」をGPであるFFが自ら拠出。2019年に15億ドルで組成された7号ファンド「Founders Fund VII」では、同社のパートナー陣が3億ドルもの資金を拠出したと報じられている。

VCのファンド組成額に対し、パートナーの出資は平均で約1％に留まる事と比較すると、FF自らが背負うリスクは現在でも非常に大きいといえるだろう。

__◆安易な課題には投資しない、独自の投資哲学__

FFはなぜ自らリスクを取り、難易度の高い領域に投資を行っているのか。それは現在のVC業界が「一握りのファンドしか上手くいかず、業界のリターンも平均的なものに留まっている」という問題意識に端を発している。

1960年代から1990年代にかけて、VCは半導体やコンピューターの開発において重要な役割を担ったように、「技術的な進歩の支援」「投資家への莫大なリターン」を両立させていた。しかし、現在は「先進的ではない、単純なテクノロジーに投資するVCが増加した」とFFは警鐘を鳴らす。

かつての役割を果たすために、FFはスタートアップをどう評価しているのか。彼らはいわば「逆張り」ともいえる、次の条件から投資先を判断している。

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投資領域はあらゆるセクターやステージをカバーしているが、特に「宇宙」「バイオテクノロジー」「先進機器、ソフトウェア」「エネルギー」等の先端サイエンス分野への投資を積極的に行う。

__◆投資先は高難度技術の実用化に成功、リターンも莫大な数値に__

先日、民間企業として初の有人宇宙船打ち上げに成功したSpaceXのニュースが大きく報じられたが、同社に対してFFは設立初期から継続的に投資を行ってきた。

同社は未上場だが、今年5月には約5億ドルの資金調達を行い、調達後評価額は約360億ドルに達したと推測されている。

また、100億ドルの評価額で買収された抗がん剤スタートアップのStemcentrxや、2018年に初値で266億ドルをつけ上場したSpotify等、EXITの事例も桁違いの金額規模となっている。

FFのパートナーがEXITによって得た自らの資金でファンドを組成し、「逆張り」の視点で世界を変える技術やスタートアップへ投資を行う。その投資先が巨額のEXITを行うことで、更に大きなファンドを組成することができる。

この「ハイリスク・ハイリターン」を実現するサイクルこそが、スタートアップやLP投資家がFFへ期待を寄せる理由であり、VCとしての独自性を築いた理由であろう。

## 米国有力VCで見られるスカウトファンドの仕組み
FFの投資先の多くは米国スタートアップだが、近年は英国やドイツ、インドやシンガポール等、世界中で投資を行っている。

有望なスタートアップへ早期から接点を持ち、グローバルでの投資を実現させる手法の1つとして、FFは「スカウトファンド」を利用している。

一般的に、スカウトファンドとは、VCに代わって個人投資家が「スカウター」として、投資案件のソーシングを行う仕組みである。スカウターはスカウト活動の貢献度に応じて、VCからインセンティブを受け取る。

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スカウトファンドはSequoia Capitalが2012年に始めたとされ、Founders fundやAndreessen Horowitz等も独自にスカウトファンドを運営している。

これらの有力VCがスカウトファンドを展開するメリットは、大きく2つある。

1つ目は、有望なアーリーステージのスタートアップの発見や支援の強化だ。

米国の有力VCは、大きい場合には10億ドル以上のファンドを運営するため、大規模な資金を要するスタートアップが投資対象であり、費用対コストの観点から、アーリーステージのスタートアップに小口の資金を投資することはできない。

そこで、経験豊富な個人投資家に、有望なスタートアップを発見・支援する役割を担ってもらうことで、その問題をクリアしている。

FFのアジア太平洋地域向けのスカウトファンド、「FF APAC Scout Fund」のスカウター、ジェフリー・ロンズデール（Jeffrey Lonsdale）氏は、普段エンジェル投資家としてアジアのスタートアップを見る中で、前途有望なスタートアップを見つけた場合はFF APAC Scoutと支援することもあるという。

将来的な可能性がある場合には、それらのスタートアップをFounders Fundに繋ぐこともあるとジェフリー氏は話す。

2つ目は、ファンド出資者であるLP投資家との契約の影響を回避することだ。

通常、VCはファンド組成時にLP投資家との間でファンド運営に関する契約を締結し、契約どおりに投資を実行することが求められる。

LP投資家との契約上、特定の国が投資対象地域に入っていなければ、その国へスタートアップ投資を行うことは出来ない。しかし、スカウトファンドがその国を投資対象としているファンドとして組成されていれば、その国へのスタートアップへの投資が可能となる。

（編集部注：Founders Fundはグローバルに投資を行っており、同社の投資チームやスカウトファンドが投資できる地域について制限があったことはない）

ファンド規模の大きい海外VCが日本へ進出する際には、スカウトファンドのメリットを享受できると考えられる。彼らがスカウトファンドを通して日本のスタートアップに投資する事例は今後も見られるのではないだろうか。

一方、日本ではスカウトファンドを展開しているVCは存在していない。

日本のVCは米国に比較するとファンド規模が小さく、スカウトファンドを立ち上げてスタートアップを探す必要性が小さいことや、日本でも多数存在するシード・アーリー期のVCが、スカウターの役割を実質的に果たしていることが背景にあると考えられよう。

しかし、2019年にはグロービス･キャピタル･パートナーズが400億円規模の6号ファンドを組成したように、ファンドの大型化は日本でも進みつつある。スタートアップとの接点をより増やす目的で、日本でも有力VCがスカウトファンドを設立する可能性はある。

スカウトファンドの担当者はどのような目線で投資先を見ているのか。FF APAC Scoutのスカウターを務めるエンジェル投資家、ジェフリー・ロンズデール氏に有望なスタートアップを見極めるポイントについて話を聞いた。

## 良い起業家を見極めるために「逆選択」を回避せよ

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> ジェフリー・ロンズデール（Jeffrey Lonsdale） / エンジェル投資家として、スタートアップ企業への投資、FF APAC Scoutのスカウターを担当。Founders Fundのアジア地域のManaging Director、西海岸のグローバルマクロヘッジファンドでの勤務やCabezon Investment Groupのポートフォリオマネージャーなどの職を経て現在に至る。

### 優秀な起業家を見極めるために、投資家はどう接点を探るべきでしょうか。

重要なことは、情報の非対称性に起因する「逆選択」を避けることです。

たとえば、他の投資家が出資を見送ったスタートアップに対して、自分も投資を検討しているとしましょう。既に出資を見送られている事実は、注意すべきポイントが存在することを示しています。

その情報を事前に掴んでいない場合、良くない案件に投資してしまう可能性も高まります。シリコンバレーの投資家は、優秀な知人や友人から情報を収集することで、こうした逆選択を回避しています。

では、部外者がそのネットワークに入り、良い投資に出会うにはどうすべきか。それは、スタートアップに入社し、そこで貢献して実績をつくることです。

PayPal創業チームのように、ある企業で大きく成功した人たちは「マフィア」と呼ばれ、新たなスタートアップを立ち上げたり、VCを設立するなど、新たな挑戦を行っています。

彼らは一度成功した実績がある分、シリコンバレーのネットワークの中の評判も高く、次の挑戦がしやすくなっているわけです。

一方、「良い起業家」を探すこと以外にも重要なことがあります。投資「すべきでない」、いわゆるアンチテーマについてです。

Uberなどの巨額の赤字を出して急成長した企業の高い評価額のを見て、アーリーステージのスタートアップが同じ真似をすることがあります。

収益性について明確な道筋が立てられていない限り、将来的に資金を失う可能性が高いので、そのような企業には投資しません。

### コロナウイルスの影響は当面収束しないと考えられます。 スタートアップと投資家はこの状況をどう考えるべきでしょうか。

まずはスタートアップの置かれた局面ですが、2パターンに分けられます。

1つ目は、レンタカー会社や航空会社など、政府の大規模な救済措置を要するほど、大きな影響を受けた領域です。

そうした領域のスタートアップは、コロナウイルスの影響が好転すれば元に戻るでしょうが、現状では成長することは難しい。今は耐える期間として既存投資家にフォローしてもらい、この苦境を乗り越えることに集中すべきです。

2つ目は、株価の最高値を更新しているZoomのように、コロナウイルスの影響が追い風となっている領域。そのような会社は、今はコストをかけることなく顧客を獲得することができています。

__これに対する投資家の視点ですが、この期間の成長率が今後も続くことを前提に計画を考えているのであれば、それは間違いです。コロナウイルスによる変化が「永続的に」続くことはありえないからです。__

たとえばベトナムでは、3ヶ月前であれば誰も握手を交わそうとしませんでしたが、今では以前のように握手をしているように、環境は直ぐに変わり得る。

コロナウイルスの影響が収まったあと、人々の生活がどのレベルまで元に戻るのかは、よく考えておかなければいけません。

## 日本のスタートアップは、「英語によるコミュニケーション」「上場のタイミング」を考えるべき

### 海外投資家の視点で、日本とアジア諸国や米国を比較すると違いはどこにありますか。

日本は中国とは違い、まだそれほど多くの海外投資家がいるわけではありませんし、新たに海外投資家が参入する余地も大きい。日本に投資する意味は残されています。

しかし、海外投資家には「日本語を知らないため、日本のスタートアップ関係者の大部分とは会話できない」と考える人も一定数存在します。

実務的なやり取りを行うCFOが英語を話せれば、投資は決まるかもしれません。しかし投資家は、CEOの考え方を自身の言葉で理解したいと考えます。

ネイティブのように話せなくとも、英語を自ら使う方が翻訳者を通してコミュニケーションするよりも遥かに良いですね。
　
そして最も重要な違いは、上場に対する考え方です。

日本では、未上場企業のまま事業を続けるよりも、早期の上場を選択する起業家が多い。

それこそが、この10年間日本のエコシステムにおいて、米国や他の地域に比べ、本当に大きく成長したスタートアップが現れなかった理由の一つだと思います。

メルカリのように大きく成長してから上場するケースも見られるようになりましたが、
私がこれまでに会った日本のレイターステージのスタートアップの多くは、「どれだけ早く上場できるか」に強い関心があるようです。

日本のアーリーステージの投資家が、EXITを確保する点で素早く上場を行うことを望んでいるか、あるいは、上場すれば知名度があがり、ビジネスが加速すると期待しているのかもしれません。

しかし、海外投資家にとっては、「IPOのタイミングは早いほど良い」と起業家が考えていることは懸念材料でしかありません。上場後の方が資金調達が難しくなることを踏まえれば、未上場で事業を続けたほうが良いケースもあるからです。

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海外投資家と関わる際に、早期のIPOへのこだわりは強調すべきではありません。

米国の巨大な事業を築いたスタートアップのように成長するためには、未公開のまま資金調達を行い、事業を拡大していく戦略も選択肢として考えるべきでしょう。


> 編集部注記1：Jeffrey Lonsdale氏はFounders Fundとの間に雇用関係は無く、独自の判断に基づき投資活動を行っています。

（聞き手：藤野 理沙、文：三浦 英之、デザイン：石丸 恵理）


> __【修正とお詫び】 __
> 
> 文中の内容に誤りがございましたため、7月16日10:00から7月20日16:15までの間、記事取り下げを行い、7月20日16:15に事実内容の確認の上再公開いたしました。
> 読者の皆さまに深くお詫び申し上げるとともに、ここに訂正いたします。
> 
> __（訂正1）__
> 
> 冒頭分において「Founders Fundが、日本においてスタートアップへの投資を始めた」と記載しておりましたが、2020年に行われたスマートラウンドとCraifの2社への投資はFounders Fund本体によるものではなく、Founders Fundのスカウトファンドである「FF APAC Scout」によるものです。
> 
> そのため、該当箇所を
> 「2020年、FF APAC Scoutが日本のスタートアップ、スマートラウンドとCraifの2社へ投資を実施した。FF APAC ScoutはFounders Fundのスカウトファンドである。」
> に変更しています。
> 
> __（訂正2）__
> 
> 「スカウトファンドの仕組み」の節において、
> 「FF APAC Scoutはアジア地域を投資対象にしたファンドとして組成されており、メインファンドとは違い日本のスタートアップへの投資が可能だ。」
> としておりましたが、Founders Fundはグローバルに投資を行っており、同社の投資チームやスカウトファンドが投資できる地域について制限があった事実はございませんでした。
> 
> そのため、該当箇所を削除し、注記を次の通り追加しています。
> 
> （編集部注：Founders Fundはグローバルに投資を行っており、同社の投資チームやスカウトファンドが投資できる地域について制限があったことはない）

株式会社スマートラウンド

Craif株式会社

gap4 cover

Founders Fund

資金調達記事

VC/CVC

SaaS

海外

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米国トップVC「Founders Fund」、スカウトファンドの正体

## 海外の視線が集まり始めた2019年

スタートアップの資金調達額が大型化しているのは、近年の特徴の1つである。それは、昨年、Sansanやfreeeの初値時価総額が1000億円を超えていたことに表れる。両社はレイターまで未上場で資金調達を実施し、シリーズEラウンドにティー・ロウ・プライスが参加していることが共通点だ。

数字でもその傾向は確認できる。VC投資だけに絞って数字を確認すると、海外VCからの投資額は2018年212億円に対し、2019年は383億円。VC投資全体に割合に占める割合も5.5pt上昇している。

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具体例をみよう。昨年、SmartHRがLight Street Capitalと他1社（非公開）から、フロムスクラッチはKKRやジー・エス・グロース・インベストメントなど海外新規投資家を含めた投資家から大型調達を実施したことが話題となった。フロムスクラッチへ投資したKKRは[INITIALの過去インタビュー](https://initial.inc/articles/7JjK04BPh6EouTHtJ6DeNg)に対し、3年ほど前から日本のスタートアップへの投資検討を行っていたことを明かしている。

この他、2019年には米国PayPal Ventures、Soros Capital ManagementがPaidyへ、Fidelityがココナラやイノフィスへ投資している。また、Samsung Venture Investmentなど複数の韓国VCがCogent Labsへ投資を行っており、米国以外の海外投資家の活動もあった。この動きは2020年に引き継がれており、Goodwater Capital、Greenspring AssociatesがKyashへ、中国Legend Capitalがいちからへ投資をしている。

最近では、AppleやGoogleなど名だたるスタートアップのEXIT実績を持つ、シリコンバレーを代表するVC、Sequoia Capital（セコイア・キャピタル）が日本へ参入することが一部で報道された。

通常、ファンドサイズが大きい海外投資家の新規参入が相次いでいるのは、GDP規模が世界3位の日本においてスタートアップが育ってきており、投資対象と成り得てきたと言える。ゆえに、新規参入の投資はレイターステージが中心である。

## アーリーステージにおける海外からの調達例：スマートラウンド

その流れの中で、1つ特徴的な資金調達が行われた。今年5月に公表されたスマートラウンドのプレシリーズAの調達だ。

資金調達の概要は以下のとおりである。これまでのラウンドはシードで国内エンジェル投資家中心、今回もエンジェル投資家を中心に実施したものだが、それが海外であることに特徴がある。

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スマートラウンドは、スタートアップと投資家の業務効率化プラットフォーム「smartround（スマートラウンド）」を提供する。同社の代表取締役社長CEO砂川氏のインタビューを元に、今回の資金調達に迫る。

![overseas 06](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/1j60L2E0MpvwzwGff4jZn1/e9d019c8f35100d5d0d4ace119283733/overseas_06.png)

> 砂川大（すながわ・まさる）1995年に慶應大学法学部卒業、三菱商事入社。2001年にHarvard Business Schoolに留学。卒業後、米国独立系VCであるGlobespan Capital Partnersに入社し、ディレクターとして投資業務に携わる。同社日本代表を経て、2005年に起業。株式会社ロケーションバリューの代表取締役社長として、複数の位置情報サービスを展開し、2012年にNTTドコモに同社を売却。2年半のロックアップを経て、2015年にGoogleに入社。Googleマップの製品開発部長、Androidの事業統括部長を歴任。2018年にGoogleを離れ、株式会社スマートラウンドを起業、現在に至る。また個人では、エンジェルとして国内外のスタートアップに積極的に投資している。

今回の資金調達はJ-KISSを活用し、3回のラウンドに分けて実施された。J-KISSは2016年に500 Startups Japan（現Coral Capital）によって「誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書」として[無償公開](https://coralcap.co/2016/04/j-kiss/)されている。J-KISSは、当時のシリコンバレーで一般的な資金調達方法となりつつあった、KISS（Keep It Simple Security）がベースになっている。大きな特徴はバリュエーションの先延ばしだ。これによって、シード期における資金調達をスピーディに実施できる。

本メリットに限らず、J-KISSの英語版テンプレートが用意されていたことや、新株予約権であれば電子上で登記までを完結できることがわかったため、J-KISSを選択したと砂川氏は話す。海外投資家へも「KISSと同様の交渉が少ないコンバーティブル・エクイティである」旨を説明して受け入れられたという。

また、砂川氏は今回の資金調達の成功要素の1つに米国スタートアップのCarta（カルタ）の存在を挙げる。Cartaは有力VCからの投資を受けるユニコーン企業である。投資家には、SkypeやFacebook、Zyngaなどへの投資実績を持つ、Andreessen Horowitz（a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ）が名を連ねる。同氏によれば、Cartaは特に海外投資家に知られるツールであり、投資家回りをする際に「Cartaの日本版」と伝えることによって投資家の関心を得ることができたという。

創業当初はとくにCartaを意識することなく自身が目指すビジョン実現のためにサービスをつくってきたが、現在はベンチマークとして捕捉し、本気でCartaに勝ちにいきたいとも語る。

## 有力VCからの調達で注目を集めたCarta

Cartaは2012年設立の米シリコンバレーに本拠をおくスタートアップだ。Cartaは2019年5月にAndreessen Horowitzをリード投資家に約3億ドル調達したことで注目を浴びた。その後、シリーズFを経て調達後企業評価額は31億ドルとなっている。

Cartaは、未公開企業向け資本政策の管理をメインに企業評価(409A Valuations※)やセカンダリーマーケットの運営、取締役会の文書管理、承認ツールなどのサービスを運営提供する。また、上場企業向けにも従業員株式購入プランなどのサービスを用意する。さらに、投資家や会計士、弁護士向けにはポートフォリオ管理サービスなどを提供する。

> ※409A Valuationsとは、Internal Revenue Service（IRS）による企業の評価プロセスのこと。スタートアップのフェア・マーケットプライスの決定が目的。この評価を経ずにストック・オプションを発行すると多額の税金を課されることがある。

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2月には創業期のスタートアップを支援するCarta Venturesを設立するなど、Nasdaqに対抗するプライベート株式取引プラットフォームを目指している。

それに対して、スマートラウンドはスタートアップと投資家のデータの作成と共有を効率化するサービスを提供する。具体的には、資本政策、経営管理、株主総会などをマニュアル、 ツール、テンプレートで効率化する。Cartaとのポジショニングの違いとして、砂川氏によれば現時点でスマートラウンドはコミュニケーションの部分に重きをおく。


日本国内では未公開企業のエクイティに関連するサービスとして、ケップルが挙げられる。ケップルは日本経済新聞社、野村総合研究所らから出資を受ける。未公開企業の投資家向けに投資先企業の発掘、管理、サポートツール「FUNDBOARD（ファンドボード）」を始めとして、アフリカのスタートアップに投資するKepple Africa Venturesで現地スタートアップ支援、日本企業との協業支援なども行う。

このような環境下、なぜスマートラウンドはこのタイミングで海外投資家から資金調達を実施したのだろうか。その背景を探る。

## プレシリーズAで海外投資家からの調達を選択した理由


まず、今回の調達の特徴である投資家をみていこう。主要投資家は以下の3投資家である。

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スカウトファンドとはVCファンドに代わってエンジェル投資家がスタートアップに投資する権限を与えられているファンドのことである。一般的にファンド本体のネットワークを超え、起業家やエンジェル投資家らScout（スカウト）からシードステージのスタートアップにリーチすることが目的としてつくられる。

Sequoia CapitalやLightspeed Venture Partners, Andreessen HorowitzなどトップティアVCもそれぞれスカウト・ファンドを運営している。日本では、クルーズ子会社が出資するファンド規模3億円のJapan Angel Fund 1号が同様の仕組みである。

気になるのは、これらの投資家へのアクセスだ。米国VCでのバックグラウンドを持つ砂川氏固有の理由なのか。砂川氏は「その時のネットワークはあるにはあるが、務めていたのは20年近く前で今回はそのネットワークではない。紹介です。」と話す。

キーマンは砂川氏と旧知の仲である株式会社クラウドワークス代表取締役社長CEO吉田氏。吉田氏から投資家であるJustin氏を紹介された。そのJustin氏が旧知の中であるFF APAC Scout Fundの担当Jeff氏やMatias氏の紹介をしてくれた。

砂川氏は自身のVCバックグラウンドを振り返ってみても、調達における「紹介」は見過ごせないと語る。砂漠の中から原石を拾いあげる作業に似ているスタートアップ投資を考えると、信用やクオリティ面において紹介がフィルタリングの役目を果たすことも頷ける。

ファイナンスを考えた時に行動するのではなく、常日頃からネットワークを広げることが資金調達の成功確率を高めることを改めて実感したという。

ではなぜ、このタイミングで海外から調達する決断に至ったのか――。この問いに対し、砂川氏は、資金調達において実施タイミングと資金の引受手によって生じる影響を戦略的に考えることが重要であると話し始めた。

まず、調達の背景には、スマートラウンドがスタートアップ向けのサービスを展開していることから、自分たちが事例をつくることで貢献したい使命感があるという。

加えて、先のとおりCartaを意識し、将来的に米国進出を見越していることだ。そのためには海外トップティアから支援を受けることが必須であると考えた。

アーリーステージから著名投資家から資金調達をすることで、次のラウンドでの選択肢の増加につなげるだけでなく、米国進出への布石を打ったというわけだ。

主要投資家3名へインタビューしたところ、スマートラウンドへの投資を決めた理由として、まずプロダクトが提供する価値と、その先にある日本国内エコシステムへ寄与できることが共通して挙がった。

また、砂川氏のシリアルアントレプレナーなどの経験が評価されている。その彼がスマートラウンドをやることで説得力を得ている。意外な点としては、その英語力が高く評価されていたことだ。インタビューの中では、CFOは英語が話せる人も多いが、英語が話せるCEOと直接コミュニケーションできることを利点として聞くことができた。

## クロスボーダーファイナンスにおける差分

砂川氏は、海外から調達する場合、その投資家の投資レンジにいるか確認しながら動くことも重要であると話す。今回の資金調達において「投資規模が小さすぎる」と他海外投資家に断られた例もあったからだ。

しかし、__テクニカルな部分を除き、本質的に異なることはなかった__と同氏は振り返る。

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同時に、今回の調達に際し、米国のトップティアVCを始めとする海外投資家らと直接話す中で、彼らの日本のスタートアップに対する熱量が高いことを感じたと砂川氏は話す。

とくにSaaS領域に対する投資意欲が高い。過去、米国でおきたクラウドシフトが日本ではこれから加速するとの見立てであるという。また、本領域では、米国が先行してPSR（株価売上高倍率）など見るべき指標が体系化されており、言語ギャップがあったとしても数値で比較しやすいことも理由としてあげられるという。

コロナ禍において、国内投資家の投資マインド減退を懸念する一方、海外投資家の視線が集まる日本。スタートアップにとって、資金調達の選択肢が広がることはプラスである。日本とそれ以外の地域の差はあるものの、根本的にみられる部分は同じ。砂川氏の調達からのメッセージは希望を示す。

次回の記事では、海外投資家の思考に迫る。


（聞き手：森 敦子、酒居 潤平、文：森 敦子、リサーチ：平川 凌、デザイン：石丸 恵理、廣田 奈緒美）

※本インタビューはINITIAL主催のH2Hセミナー[「元米国VCの起業家が語る「海外エンジェルから資金調達した理由」](https://initial.inc/events/20200618)が元になっています。

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スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院准教授

プロフィンクス株式会社 代表取締役COO

大室産業医事務所 産業医

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