スタートアップの最新トレンドを発信する「INITIAL Briefing」。 今週は、ピックアップニュース解説と注目スタートアップのインタビューをお届けする。
ピックアップニュースでは、Spiberが新たに250億円調達した「事業価値証券化スキーム」について解説する。国内企業で同スキームを活用する例は珍しく、スタートアップとしては初の資金調達手法である。Spiberが新たな資金調達手法を採用した背景や、そのメリット、デメリットに迫る。
注目スタートアップでは、動画活用の内製化サービスのリチカ社を紹介する。近年需要が高まる動画コンテンツの制作とマーケティングの両面で、400以上の企業を支援しているBtoB SaaS企業だ。今後の資金調達も視野に入れる同社の成長の背景や、INITIALの注目ポイントについて、リチカ代表・松尾 幸治氏のインタビューを交えて解説する。
Spiberの新たなファイナンス手法を解説。INITIALピックアップニュース3選
「INITIALピックアップニュース3選」では、INITIAL編集部が選定する一週間の抑えておきたい3大ニュースを解説する。
Spiberが事業価値証券化スキームで250億円の資金調達
トップニュースは、2020年末に発表されたユニコーン企業Spiberの大型調達だ。三菱UFJ銀行などから250億円の調達を行なった。調達資金は、⽶穀物メジャーのADM社と共同で行う米国での量産体制構築、研究開発に充当する。
Spiberが資金調達手法「事業価値証券化」を国内スタートアップでは初めて採用した背景や、本ファイナンスのメリット・デメリットと今後の展望について解説する。
まず、事業価値証券化とは何か。事業価値証券化とは、企業が保有する資産を証券の形に変えて資金調達を行う「証券化」の一種で、事業が生み出すキャッシュフローや有形・無形資産を裏付けにしているものだ。
Spiberの場合は、研究開発設備、タイ国の量産プラント等の有形資産、知的財産等の無形資産を担保にした将来のキャッシュ・フローを裏付けとして調達を行っている。特に、Spiberの技術力を示す特許などの知財価値を最大限生かして設計されたファイナンスだ。
事業の証券化はほとんど過去に事例がない。不動産業界を除き、国内企業が事業の証券化を行った事例は、2006年のソフトバンク(当時:BBモバイル)があげられる。ボーダフォン買収資金の借入金の組み換えとして1.45兆円を調達したスキームだ。
事業価値証券化のメリットは、一般的な資金調達に比べて株式の希薄化が生じず、通常のデットファイナンスよりも大型の調達ができることだ。一方デメリットは、投資家と結んだ証券化の条項が事業運営の制約となるリスクもある。
今回の調達スキームは証券化商品の一種であり、投資家はクレジット投資家が中心だ。クレジット投資家は、企業の信用リスクを取ってリターンを狙う投資家で、機関投資家や事業会社が含まれる。今回開示があるのは三菱UFJ銀行のみであるが、実際には複数の投資家が存在するだろう。
クレジット投資家側のメリットは、定期的に投資資金が回収できることだ。特にSpiberは未上場企業のため、これからエクイティ投資を行う場合、IPOもしくはM&Aが発生しない限り資金の回収は難しい。
Spiberはこれまで人工クモ糸素材を開発していたが、過去の共同商品開発における失敗から現在の構造タンパク質「Brewed Protein」の開発にたどり着いた。植物由来の糖類を主原料に使⽤し、微⽣物の発酵で製造される新素材だ。現在はアパレル分野や輸送機器分野での活用が想定されており、脱⽯油・脱動物性素材として高く評価されている。企業評価額は1,144億円だ(2020年9月25日時点)。
Spiberの課題である量産体制化に向けて、2020年9月にもADMから約59億円、金銭債権の現物出資の形で調達を行なっている。続けて、今回は250億円と過去最大の資金調達に成功した。
2021年から年間数百トン規模の生産が可能となるタイの量産プラントが本格稼働すると同時に、今回の調達で米国での大量生産も本格化する。量産化におけるファイナンスに一定の道筋がついたため、今後は生産された新素材で売上を上げられるかがポイントだ。
Spiberは、今後も本スキームを⽤いた資⾦調達を継続していくとしている。量産体制が確立して売上が安定するまで、未上場・証券化での調達を選択したSpiber。2021年はSpiberにとって進退を決める、重要な一年となるだろう。
Spiberの事例を皮切りに、スタートアップ企業でも事業証券化のスキームでクレジット投資家から資金調達をするケースが出てくるかに注目だ。
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