スタートアップの最新トレンドを毎週発信する「INITIAL Briefing」。 今週は、ピックアップニュース3選、独自取材による注目スタートアップ紹介、マザーズ・IPO企業動向を紹介するExit Reviewのコンテンツをお届けする。
ピックアップニュースでは、ジェネシア・ベンチャーズ80億円のファンド設立をはじめとした、デジタル・トランスフォメーション(DX)領域の注目ニュースを紹介する。
注目スタートアップでは、ゲノム編集技術の研究開発を行うバイオパレットを紹介する。同社は2020年にノーベル化学賞を受賞した技術、CRISPR/Cas9をさらに発展させた基盤技術を有する。9月にはシリーズAで10億円の調達を発表。グローバルでの活躍が期待できる同社について、事業開発マネージャーの岩田清和氏、ジャフコ グループの三浦研吾氏に話を伺った。
Exit Reviewでは、10月に上場したIPO企業の時価総額動向と、11月に上場予定のIPO企業について解説する。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)領域が加速する動き。INITIALピックアップニュース3選
「INITIALピックアップニュース3選」では、資金調達など抑えておくべき3大ニュースを解説する。
今週は、大型ファンドの設立や注目のニュースを選定した。
ジェネシア・ベンチャーズ、2号ファンド・約80億円でDX企業などに出資へ
トップニュースは独立系VCのファンド設立ニュースだ。ジェネシア・ベンチャーズは2号ファンド80億円で最終募集を完了した。金額は約80億円と、1号ファンド(40億円)の二倍だ。
東京、インドネシア、ベトナムのアジア3拠点で、シード・アーリーステージのデジタル・トランスフォーメーション(DX)、ニューエコノミー、メディア・エンターテインメント企業に出資する。
1号ファンドに出資した事業会社は2号ファンドにも継続して出資しており、新たにグリーやミクシィ、オリエンタルランド・イノベーションズなどが参画した。オリエンタルランドCVCのオリエンタルランド・イノベーションズは設立以来、初めてのLP出資となる。
ジェネシア・ベンチャーズは元サイバーエージェント・キャピタル代表の田島氏が2016年に立ち上げた独立系VCだ。2017年に1号ファンド設立以来、国内外47社に出資している。2018年12月に2号ファンドを45億円でファーストクローズし、既に2号ファンドからも国内29社、海外11社とハイペースで投資を行っている。
順調に進んできた一方、2号ファンドのファイナルクローズは当初目指していた2019年9月末より1年遅れている。背景には同社が投資するシード、アーリーステージ企業はEXITまでに時間がかかるため、EXIT実績が少ないことに加え、コロナ禍で調達が遅れたことが考えられる。
2号ファンドからは、東南アジアで豊富な投資実績を有する元サイバーエージェント・キャピタルの鈴木氏がジェネラル・パートナーに就任する。今後はファンドを通じ、アジア全域でDXの実現と産業創造を目指す。
物流業界もDX加速。オープンロジ、シリーズCで17.5億円調達
DX関連企業の大型調達ニュースを紹介する。物流プラットフォームを展開するオープンロジは、第三者割当増資とデットファイナンスによりシリーズCで総額17.5億円を調達した。調達後評価額は105億円、累計調達額は27.5億円となった(INITIALによる推測)。2020年12月末にはシリーズCセカンドクローズを予定している。
オープンロジはEC事業者向けに、オンラインで物流業務を全て完結できる物流アウトソーシングサービスを提供している。2014年のサービスリリース後、すでに利用社数は8,000社、提携物流会社は40社を超えている。
同社のファイナンスはシリーズBまではVC中心、シリーズCではアライアンス目的で事業会社中心に投資家属性が変化している。 本シリーズCでは総合商社の住友商事、双日、伊藤忠商事、物流企業セイノーホールディングスからの調達を完了し、物流ネットワーク面でアライアンスを強化する狙いだ。今後は、テクノロジーのさらなる活用やアルゴリズムにより物流を最適化することを目指す。
Kyash、法人向け事業譲渡でtoC向けサービスに注力へ
FinTech企業・Kyashは法人向けカード発行事業「Kyash Direct」をインフキュリオン社に譲渡した。Kyashは2020年8月に資金移動業の登録を完了しており、今後は消費者向けのモバイルバンキングサービスに注力するための事業リソースの選択と集中を行なった形になる。
譲渡先のインフキュリオンは、金融機関向けに金融・決済機能をAPIを利用してサービス提供するBaaS(Banking as a Service)事業を展開している。今回の法人向け事業とサービス親和性が高い。2015年には、当時設立間もないKyashにシードラウンドで出資も行っている。今回のKyashとインフキュリオンのように、スタートアップの事業譲渡先が初期投資家となる事例は珍しい。
バイオパレット:独自のゲノム編集技術で世界を目指すバイオテック企業
注目スタートアップを紹介する、「INITIALピックアップインタビュー」。 今週紹介する企業は、ゲノム編集技術の研究開発を行うバイオパレット社だ。同社事業開発マネージャーの岩田清和氏に話を聞いた。
世界で2大学しかない、塩基編集技術を有する神戸大学発企業
バイオパレット社は、独自のゲノム編集(塩基編集)技術の事業化を目指して2017年に設立した神戸大学発のバイオテック企業だ。本技術は神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 西田敬二教授、近藤昭彦教授らの研究成果である。
創業メンバーは、西田、近藤両教授、代表取締役の村瀬 祥子氏、神戸大学発スタートアップの創業支援を行う科学技術アントレプレナーシップ社の4者だ。
ゲノム編集技術は、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)が2020年にノーベル化学賞に選ばれるなど現在注目されている技術だ。米国を中心に産業化への動きが急速に進んでいる。
参考:技術系スタートアップの大型調達もファイナンスに違い、カギはEXIT
バイオパレット社の特徴は、世界でも珍しい独自のゲノム編集(塩基編集)の基盤技術を有する点だ。
塩基編集技術の基本特許を有するのは、世界でハーバード大学と神戸大学のみだ。神戸大学から本技術の独占的実施・許諾を受けているほか、米国バイオベンチャーともクロスライセンス契約を結びマイクロバイオーム治療の開発に取り組んでいる。
同社の基盤技術は日本国内だけでなく、米国、中国、欧州、香港、シンガポールなど世界で基本特許を取得している点も特徴だ。
同社のゲノム編集技術(切らないゲノム編集®︎)は、DNAの切断を前提とする従来のゲノム編集技術とは異なり、DNAを切らずに置き換えることができる。従来の技術と比べて編集の精密さと正確さ、育種の効率性が高く、医療、農業、微生物などの幅広い分野での応用が期待されている。
(写真:バイオパレット社HPより)
また、ベンチャーキャピタリスト経験者を複数抱える経営体制も同社の特徴だ。
代表の村瀬氏はライフサイエンス、バイオテクノロジーを専門とするベンチャーキャピタリスト(以下、キャピタリスト)として複数のスタートアップ企業創業に関わった実績がある。取締役の山本氏は約20年にわたりキャピタリストの経験があり、現在は神戸大学大学院教授として神戸大学発スタートアップ企業の投資育成事業に携わる。
神戸大学関係者だけでなく、設立間もないシード期に投資したキャピタリストも取締役に迎える。Eight Roads Ventures Japan代表のデービッド・ミルスタイン氏、F-Prime Capital Partnersのパートナーで製薬・バイオ業界で25年以上の経験を有するスティーヴン・ナイト氏は、2017年8月から取締役に就任している。(2社はともに資産運用会社・フィデリティグループ傘下のVC)
Eight Roads Ventures Japan、F-Prime Capitalの2社にとって、バイオパレットは初の日本でのバイオテクノロジー分野の投資案件だ。設立わずか3ヶ月後に4億円ものシード投資を実行した点、2名を取締役に送ることからも、バイオパレット社への期待値の高さがうかがえる。グローバルで投資経験を有する二名から、米国を中心に成功事例の共有や、共同開発先のソーシングおよびネットワーク共有など多方面での支援があると推測する。
2020年9月にシリーズAでジャフコから10億円調達
2020年9月には、ジャフコ グループ(以下、ジャフコ)からシリーズAで10億円調達を実施。累計調達額は15.5億円となった。調達完了までに担当キャピタリストと約1年にわたり密な議論を重ねたという。
投資家を選んだ決め手について、岩田氏は「シード・アーリー期のベンチャー企業への投資実績が日本でトップであり、その実績に裏打ちされた確かな支援があると考えたこと。また、投資担当者の事業創造に対する熱意を感じ、当社経営陣との信頼関係も形成され、ゲノム編集技術を世の中で製品として実現するチームとして共に進んでいきたいと考えた」と語る。
担当キャピタリストのジャフコ三浦 研吾氏は、「バイオパレットはゲノム編集技術領域で世界と伍して戦える稀有な会社です。また、スタートアップ経営経験の豊富なビジネスサイドのメンバーと、トップクラスの研究実績がありながら実用化への強い想いを持つ研究者による理想的なチームを持っています。経営チームの実用化に対する想いに強く共感し、一緒に挑戦していきたい」と語る。
資金用途は、非臨床試験実施、研究部門の人員増強(現在10名弱から20名程度に増員予定)、研究施設の拡充などに活用予定だ。
調達後企業評価額はシリーズAで約39億円。INITIALシリーズAの中央値である11.8億円を大きく上回る。「評価額で大きなポイントになったのは、当社の事業基盤となる知的財産です。ゲノム編集技術の基本特許のほか、米国Beam Therapeutics社とのクロスライセンス契約のライセンス収入もバリュエーションの根拠となっています」と岩田氏は語る。
今後の事業展開
今後はマイクロバイオームの中でも特に口腔と皮膚を戦略的注力領域と定める。本領域に強い研究機関との連携や、パートナー企業との共同研究を実施し、2024年に臨床試験の開始を目指す。現在、ゲノム編集技術の活用に具体的なニーズ・アイデアを持った戦略的パートナー企業も募集中だ。
調達資金をもとに研究開発を進め、日本発・グローバルでの活躍が期待できるゲノム編集スタートアップとして注目だ。
バイオパレットについて詳しく知るにはこちら(INITIAL企業ページ)
CtoC ECのクリーマが上場承認。マザーズIPO企業動向
月次でマザーズ・IPO企業動向を紹介する「EXIT Review」。今回は、10月に上場したIPO企業の時価総額動向と、11月に上場予定のIPO企業について解説する。
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