## KDDIのスタートアップ支援の取り組み。ステージごとの共創手段と日米の役割の違い

まず、KDDIのスタートアップ支援の取り組みを概観する。

スタートアップ支援の背景には、日本での通信キャリア事業の成熟がある。通信キャリア事業単体での持続的成長が難しいため、「通信とライフデザインの融合」を掲げ、他企業とパートナーシップを組み、事業の共創を目指している。

事業共創にあたり、スタートアップ支援はシードからレイターステージにまで至り、企業ステージごとに共創手段は異なる。

創業初期（シード〜アーリー）はインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo（ムゲンラボ）」、創業中期（アーリー〜ミドル）はKDDI Open Innovation Fund（以下KOIF、グローバル・ブレインと共同運用）、創業後期（ミドル 〜 レイター）は直接投資やM&Aを通じて事業共創を行う。

CVCファンドのKDDI Open Innovation Fund（以下、KOIF）は現在3号ファンドまで設立。日本と米国などを拠点に、国内外のアーリー〜ミドルステージのスタートアップに投資。出資先の合計は74社だ（2020年5月26日現在）。

日本では、事業提携の実現性が高いミドル〜レイターステージ、米国では、将来的な協業可能性に期待してシード〜アーリーステージを中心にスタートアップを発掘する。

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KOIFの海外出資案件は全投資案件の約1/3を占める。2020年4月にはスマートコンタクトレンズを開発・提供する米国スタートアップ「Mojo Vision」への出資など、シリコンバレー現地VCとの協調出資の案件も出てきている。

今回INITIALでは、米国・サンフランスシコを拠点に国内外スタートアップの投資・協業を担当するKDDIの傍島氏に取材。KDDIの米国進出の背景や、シリコンバレーでのネットワーク構築方法について聞いた。

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> 傍島 健友（そばじま けんゆう） / 1996年KDDI（第二電電株式会社）入社。入社後、携帯電話システムCDMAの無線技術者として事業の立ち上げを担当。2008年にはマイクロソフト社との提携による法人向けSaaS事業を推進し、2011年からGREE、Google、Facebookなどとのアライアンス事業を担当。2014年よりKDDI∞ラボ、KDDI Open Innovation Fundを通じてのスタートアップへの出資、事業開発を担当した後、2015年から米国サンフランシスコにて現職を担当。



## 米国拠点の目的は「数年先のトレンド」の把握にあり

### 傍島さんがサンフランシスコ拠点に赴任するまでの経緯を教えてください。

1996年にKDDIに入社後、携帯電話システムの立ち上げやBtoBサービスの企画部門、コンテンツ部門など様々な部署を経験しました。

コンテンツの部署では主に協業（アライアンス）を担当。2011年頃からGoogle、Facebookのメンバーと仕事をする中で、シリコンバレーの凄さを痛感し、彼らと仕事がしたいと思うようになりました。

米国だけではなく、国内でも協業を実施。中でも思い出深いのは、グリーとの協業です。
当時スタートアップでものすごいスピードで成長したグリーとの協業経験から、「第二のグリーと協業したい」との思いからスタートアップ支援に関わることになりました。

その後、インキュベーションプログラムやCVCファンドを運用するスタートアップ支援の部署で、日本・米国両方の投資チームを担当していました。念願叶い、2015年からサンフランシスコに赴任しています。

### KDDIが米国拠点を置く目的は何ですか。

日本で将来起こり得るトレンドを、米国スタートアップへの投資を通してキャッチアップし、新規事業を創出するためです。

日本での投資と異なり、米国での投資は協業までタイムラグがあるケースも多いです。2〜3年後を見据えて、既存の通信事業とは異なる周辺領域にも出資し、1〜2年かけて事業開発を行っています。

ただキャッチアップするだけでなく、数年後米国のスタートアップが日本に進出するタイミングで、事業会社として何が協力できるのかを説明しています。

### 具体的に米国スタートアップへの支援はどのような活動を行ってきましたか。

まず、2011年に、米国VCのDCM Venturesが運用するA-FundにLP出資を行い、LP投資家として米国現地の投資活動を学びました。

その後2011年6月にサンフランシスコ拠点の立ち上げ、2012年にKOIFを立ち上げ、そこからは自分たちのファンド活動にフォーカスしました。

当時KDDIはほとんど知名度がなかったので、とにかく現地のVCや起業家などたくさんの人たちに会いに行きました。

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投資先を発掘する際には、現地のVCやスタートアップからの紹介（リファレンス）を重視しています。なぜなら、紹介の案件の方が直接アプローチする案件よりも質が高いからです。

われわれはKPIに「投資検討案件の紹介率」（全体の面会数に対する紹介経由の割合）を置いています。私がシリコンバレーに着任した2015年の紹介率は70%程度でしたが、現在では95％程度まであがっています。

現地では一人年間150〜200件程度、1件につき30-60分ほど時間をとってスタートアップとの面会を日々行っています。そのうち投資に至るのは、年間3〜4件程度です。

## ギブ＆ギブ。KDDI流・シリコンバレーでのネットワーク構築方法

### 現地での知名度がないところから、VC等から案件を紹介してもらうまでの信頼を築くまでに、どういった活動を行いましたか。



まずは、経営陣からVCへ直接アピールを行いました。

KOIFの設立当時（2012年）に、日本から（現在の社長の）髙橋誠や（会長の）田中孝司を米国に呼んで、現地のVCを呼んだパーティーを開催。

当時社長の田中は、「KDDIは資金だけでなく、顧客基盤もあるんだ」と自らVCにアピール。パーティーをきっかけに、現地VCの案件紹介数が増えましたね。

また、自社からの情報発信から、話の種を引き出す活動を行っています。

現地VCを中心にキーマン約500名のリストを作成し、KDDIから出資があった場合にニュースをメールで一斉にお送りしています。その返答に対して、話が繋がるケースもあります。

米国VC向けに送る内容とは異なりますが、経営陣含めた日本の事業部のメンバー約2,000人にも毎週メールマガジンを定期的に送っています。

メールマガジンの内容は米国で話題のトップニュース紹介、気になるスタートアップ紹介、アメリカの文化紹介など担当者コラムの3章構成です。比較的読んでもらいやすい昼の12時に送るのもこだわっています（笑）

シリコンバレーの事情をアンテナを張ってリサーチする必要がありますが、自身のキャッチアップのためにも4年間メルマガの活動を継続しています。

このような定期的な情報発信などの地道な活動から、関係構築につながっています。

### 組織のベースがあったとはいえ、2015年、傍島さんがシリコンバレーに赴任した際はネットワークを新たに作っていく必要があったのではないでしょうか。

シリコンバレーでは日本と異なり、会社の看板ではなく「担当者」が信頼できるかどうかが見極められます。先任から関係性を引き継ぐことができません。

我々から紹介できる情報や案件も少ないため、会った人から「役に立つかもしれない」と思ってもらうのは大変です。
そこで、__「ギブできる情報は何でも探してギブ」__していきました。日本市場の情報はもちろんですが、シリコンバレーにある美味しい日本食レストランの情報まで（笑）。”Wow！”と思ってもらえるために、バリューを出せるようにしましたね。

またこれは個人の活動ですが、妻や子供のネットワークも含め、毎週のように家族ぐるみでホームパーティーを開催していました。

お酒を交えて、自分たちが何をしているのかを歓談する。そこで知り合った家族の旦那さんがスタートアップのCEOで、投資の話につながったこともあります。

### ほかにネットワークを構築する上で心掛けていることはありますか。

紹介してくれた方へ丁寧なフォローをすることです。具体的には、紹介先との面会後に、御礼とフィードバックを送ることです。

投資を検討する中で、実際の投資に至るのは数百社のなかでわずか1〜2社。紹介案件でも、ほとんどはお断りとなります。

また、シリコンバレーは人材の流動性が高い。昨日まで起業家として活動していた人が急にVCに転身することもあります。だからこそ、紹介先との丁寧なコミュニケーションが関係性の構築に必要になります。

紹介先には「紹介してくれてありがとう。今回はこのような理由で見送ったけど、次はチャンスがあると思う」などと連絡をしています。

このように、紹介先への丁寧なフォローができている投資家は意外と少ないです。

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## トップティアVCとの「Mojo Vision」に対する協調出資の裏側

### シリコンバレーに赴任しネットワーク構築を続けて5年間。どのような変化がありましたか。

地道な活動や議論のおかげで、KDDIへの理解が高まったと感じています。

KDDIの特徴を「日本で約6,000万人のユーザーを抱え、マーケットシェアは30％前後、売上は約5兆円にのぼる日本の通信業の会社です」と伝えると、現地の起業家やVCは我々がスタートアップに対して提供できるバリューを即座に理解してくれます。

また、シリコンバレー現地VCとの協調投資をする事例も増え、いわゆるトップティアと呼ばれるVCからも、ようやくお声がけしてもらえるようになりました。

2020年4月に出資を発表した、スマートコンタクトレンズの開発を手掛ける 「Mojo Vision」がその例です。米国老舗VCのNew Enterprise Associates（以下、NEA）がリード投資家で、KOIFが協調出資を行いました。

### トップティアVCやスタートアップとの関係性の構築で大切なことは何ですか。

関係性の構築に近道はありません。1つ1つのやり取りを丁寧に行ってきたことが結果に繋がっています。

実はNEAとは、以前から様々なかたちで議論を重ねていました。最終的には出資には至りませんでしたが、Mojo Visionの前にも協調出資を検討した案件もありました。

またそうしたVCの方たちは多くのスタートアップや起業家の情報を詳しく知っているので、彼らにリファレンスコール（投資先情報の照会）を取ることもできるようになってきました。

米国ではKDDIに対して「M&Aを行う事業法人」よりも、事業の共創ポテンシャルを期待されていると感じます。

米国のスタートアップもVCも非常に優秀なので、単純なお金というのはどこからでも集められます。そうした中で付加価値をつけるために、我々の日本にいる事業部門と事業をどう作り、日本進出をどれだけ手助けできるかが重要です。

現地の投資家・起業家と膝を突き合わせ話を続け、今すぐ出資できなくても、将来的には十分なポテンシャルがあることを理解いただけるように活動を続けています。


## 課題が山積みで環境変化がある今こそ、シリコンバレー進出のチャンス

### 今後、米国進出を考えるCVCにアドバイスはありますか。

シリコンバレーは生半可な環境ではありません。CVCはスタートアップに選ばれる立場ですし。米国進出にはそれなりの覚悟が必要です。

現地の投資や、コンセプトの実証（PoC）自体は、それほど難しくありません。難しいのは、スタートアップの成長にコミットできるかです。ベストプラクティスもないですし、スタートアップの成長に役立たないのであれば、事業部側の要請を断る場面も出てきます。

新型コロナ拡大で環境は大きく変わりました。「飲食店で売上が伸びない」、「工場に人が入れない」など課題が山積みです。

失業率も悪化していますが、逆に優秀な人材が労働市場に溢れています。この状況をチャンスと捉える現地の人も多いんですね。

どんな状況下でもビジネスチャンスと捉えて起業する——シリコンバレーではガッツのある人たちが山ほどいます。今こそ新しい消費者向け（toC）ビジネスが生まれるチャンスなのではないでしょうか。

日本の大企業が、シリコンバレーで挑戦するポテンシャルはあるはずです。このタイミングを好機ととらえ、自社の資産を最大限活かし、現地での活動に挑戦する企業が増えてほしいです。

（聞き手、文：三浦英之、編集：中村香央里、藤野理沙、デザイン：石丸恵理）

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