スタートアップと組み、次世代治療薬とエコシステムを生む
エーザイ様がCVCを設立された背景についてお教え下さい。
石田様当社は2016年に定めた中期経営計画「EWAY2025」の中で、「神経」と「がん」を戦略的重点領域と位置付けています。エーザイはこの2つの領域においてフロントランナーとなり、イノベーションを創出していくことを掲げています。
具体的には、次世代治療薬の創出に加え、デジタルを活用したIoTをはじめとする新たな診断方法の開発やソリューションの提供を目指しています。また、認知症領域では、当社の実績、ノウハウ、臨床データなどに加えて、外部のビッグデータやゲノムデータ等を活用して行政、医療機関、介護施設、保険会社などあらゆるパートナーの連携による「認知症エコシステム」を構築し、日常生活(未病)領域から実際の認知症の方々とそのご家族に新たな価値をお届けすることを目指しています。
例えば、スマートフォンを見ている時に「そろそろ定期検診へ行ってみてはいかがですか」とポップアップが出るだけでも、病気の早期発見につながります。「治療」の部分だけでなく、治療前の予防、来院、診療後のケアまで包括的にカバーすることを目指しています。
このような背景から、当社は 2020年1月よりCVC活動を本格的に開始いたしました。
エーザイ株式会社 石田様
INITIAL Enterpriseを利用しようと考えた背景は。
石田様こうしたビジョンを成し遂げるためには、自社の力だけでなく国内外で様々なスタートアップとの連携が不可欠です。
あくまでも一例になりますが、昨今、デジタルセラピューティクス(DTx:Digital Therapeutics、デジタル治療)の重要性が叫ばれ、テクノロジーを用いて疾病の予防、診断・治療などの医療行為を支援・実施するアプリケーション(SaMD:Software as a Medical Device、治療用アプリ)の開発が加速しています。
CVCとしては、患者様やそのご家族をサポートするDTxアプリを提供しているスタートアップの情報をいち早くキャッチアップし、コンタクトを取ることが重要です。
しかし一般的な検索エンジンでは、どのスタートアップにどのベンチャーキャピタル(以下、VC)が投資していて、前回の調達がいつで、いまどのラウンドにいるのかといった情報にたどり着くのは非常に難しい。
投資先をソーシングする際、必要な情報が一元的にまとまっているデータベースがなく、非常に困っていました。そこで、前職の投資銀行時代から利用していたentrepedia(現INITIAL Enterprise)を導入することに決めました。
普段、INITIAL Enterpriseをどのようにご活用いただいていますか。
石田様外部ネットワークや社内からの紹介、ピッチイベント、ニュース等で有望なスタートアップの情報をキャッチしたとき、INITIAL Enterpriseで検索してその企業や類似企業を探索しています。
まず、該当するスタートアップについて、バリュエーションや投資家情報、その投資家の他の出資先についてリサーチします。すでに調達が完了している企業も多いので、次に、投資家を探している類似企業がないか検索します。
INITIAL Enterpriseはその企業の投資ラウンド、ファイナンス情報から外部ニュースまでひと目でわかるよう整理されています。導入後、情報収集のスピードが格段に早くなり、情報の整理も手早くできるようになりました。
実際に投資する際は、100社以上の投資先候補をリストアップしてそこから30、40社ほどに絞り込み、投資先として見合うか面談しています。
都合がつくときはINITIAL主催のHome 2 Homeセミナーも聴講しています。最新の実践的な知見が得られるので、有用だと考えています。
よく使っている機能は?
石田様検索機能と企業情報の他、「#ヘルスケア」などのタグで検索して気になる企業をピックアップしたり、リサーチした情報をExcelでダウンロードしてカテゴリ別に企業分類したりしています。INITIAL Enterpriseを導入してからは、他部署から「有望なスタートアップはないか」という問い合わせが寄せられるようになり、企業リストを提供することもあります。
※ INITIAL画面「タグ検索」より抜粋。タグ機能を軸に、スタートアップに関する情報をワンストップでご覧いただけます。
今、どのようなスタートアップに注目していますか。
石田様創薬分野に関しては、サイエンティフィックなバックグラウンドのある国内の大学発ベンチャーと積極的に連携していきたいと考えています。
一方、テック系スタートアップについては、例えばDTx分野や、医療分野の知見が豊富で、強固な差別化が期待できるスタートアップに注目しています。
経営者のバックグラウンドも重要です。例えば医師免許を持っている経営者なら、医療現場の課題を自分ごととして理解できるでしょう。医療系の資格、経験の有無について、INITIAL Enterpriseで確認したり、検索エンジンなどで事前調査したりし、面談時に直接話を聞いて確かめるようにしています。
当社の場合、これまでのところ、海外スタートアップへの出資が多かったのですが、国内スタートアップ企業の方とも積極的にお話をさせて頂いており、今後、連携が加速できるのではないかと考えています。
国内にもすばらしいスタートアップはたくさんありますが、海外に比べてまだ数が少なく、競合分析が甘いケースも見受けられます。もっと起業しやすい環境を整え、より磨き込まれたプロダクトが生まれるよう、我々CVCもサポートする必要があると考えています。
INITIAL Enterpriseの導入により、大きく変わった点は?
石田様導入後、私たちの部署がベンチャーソーシングのハブという位置付けになったと感じています。
CVC活動は2020年に本格化したばかりの新しい取組ですが、最近では「認知症エコシステム」の構築を担当する部署から、AI×ヘルスケア、あるいはヘルステック系アプリを扱うスタートアップはないかと問い合わせが寄せられることも。こうした他の部署から「スタートアップのことならCVCに聞こう」と認識してもらえるようになりました。 その際、私のほうでINITIAL Enterpriseで検索し、カテゴリ分類などして企業リストをお渡しするようにしています。
今後の展望は?
石田様認知症に関する知見や、臨床試験のノウハウ、病院との強いパイプラインなどエーザイにしかないナレッジやネットワークをスタートアップのみなさまに還元し、その成長に貢献していきたいですね。それにより、その先にいらっしゃる当事者さまやその家族の方々への貢献にもつながると考えています。
日本発の製薬会社であるというアイデンティティを大切にし、医療、バイオサイエンス、創薬分野のエコシステムづくりに貢献していきたいと考えています。