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2019/06/11

アドバイスだけでは変わらない、心の願いとは。NVCを用いた組織コミュニケーション入門編

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「なぜアドバイスだけでは、人は変わらないのか」

前回の記事では、マネジメントにおけるアドバイス一辺倒のコミュニケーションの、メリットとデメリットが明らかになった。

実際に、管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査(H29年 内閣官房内閣人事局)では、管理職、一般社員の双方が「部下のキャリア形成や人材育成に対する支援」を十分に行動できていない最大の項目として挙げている。このことからも、マネジメント手法に多くの人が課題を感じていることが分かる。

では、どのようにしてマネジメントをすればよいのか。

本記事では、NVC(Non-Violent Communication)というコミュニケーション技術を使って、どのように人が物事を認知し、感情や行動に繋げるかを図解してもらった。そこからは、「アドバイスだけではなぜ人は変わらないのか」その理由の核心と、どうすれば人に本質的な変容をもたらせるのか、その答えが見えてきた。

円滑なマネジメントを阻害する「思考」のループから抜け出すには何が必要なのか。

CONTENTS

amiファシリテーター 松岡(以下、松岡) 本日は Inner Technology (インナーテクノロジー)の三好さんにお越しいただきました。

Inner Technology 三好さん(以下、三好) こんにちは、よろしくお願いします。

僕はスタートアップから大企業まで、組織づくり・組織変容の支援を行っています。今日も話しますが、人間関係の質がパフォーマンスに影響していることを体験から痛感したことでこの取り組みをはじめました。

もともと僕自身、グラミン銀行やGoogle、サンフランシスコのスタートアップで事業のグロースを担当していたのですが、今はグロースと同じくらい「人間関係のデザインや育み方」をもっと広めたいと思っています。

そうすることで、プロダクトが本来の願いに沿ってきちんと社会に波及すると同時に、その中で働いている人たちも生き生きと満たされる生態系が創れると信じていて。

グロースと人間関係の質の両方をセットで扱うカルチャーを、もっともっと世界に広めたいなと思ってやっています。

松岡 それを踏まえた上で、今回はどんなテーマで配信していただけるのでしょうか?

三好 前回は、マネジメントをする上でアドバイス一辺倒だと、いかに機能しづらいのかということをお伝えさせて頂きました。

今回は、アドバイスの代案として何があるのかをお伝えしたいと思っています。

まず「アドバイスの代わりに何をしたらいいんだよ」という問いにストレートに答える前に、人間の体験がどのような構造でできているのかという仮説を、シェアしたいと思います。

その上で、マイクロソフト社も導入している NVC(Non-Violent Communication)というコミュニケーション技術を取り入れた、「アドバイスに代わる新たな選択肢」を提案できたらと思います。

※本記事で以下に紹介する「反応のプロセス」のフレームワークは、株式会社 LLT が体系化した Human OS Migration Technology (HMT) のコンテンツの一部です。

一人ひとりに異なる現実をもたらしているものの正体

三好 具体例を使って共有したいなと思っているので、松岡さんに協力をいただいて、松岡さんの例で、どういうふうに人間の認知は成り立っていて、かつ、不本意な行動が起こってしまうのかというのを解説させていただきたいと思います。

松岡 よろしくお願いします。

三好 今まで経験したことで不本意だったとか、残念だったことを1つ教えて頂いてもいいですか?

松岡 私は福岡の田舎出身なんですが、先祖代々ある大学に通うといった固定概念が強い家庭で育ちまして、いまだに実家に帰ると「医学部に行き直せ」という圧力をかけられるという。

三好 なるほど。それは、とくに誰が言うんですか?

松岡 祖父ですね。

三好 なるほど、おじいちゃんが、「医者の大学に行け」と。

実際のセリフとしては、何と言うんですか?

松岡 「医学部に入り直せ」ですね。

「無理だよ」と言ったんですが(笑)。

三好 なるほど(笑)。この時、「おじいちゃんが『医学部に入り直せ』と自分に言った」という事象が、松岡さんに対して起きていますよね。

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このように何か事象が起きたとき、人は誰しも、その人なりのフィルターを通して現実を認識すると思うんですよ。

たとえば、この言葉を「おじいちゃんすごく心配してくれているんだな、ありがとう」で済む人もいれば、全然違う人もいると思います。松岡さんは後者ということですよね?

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(写真:ami)

松岡 そうですね。

三好 その時松岡さんの中ではどのようなことが起きていますか?

松岡 悲しいしイラっとします。

三好 「悲しみ」と「イラっとする」という感情があるわけですね。 それはどのようにこの言葉を受けとめているからですか?何されたと受けとめていますか?

松岡 「自分自身を否定されたのではないか」と受けとめます。

三好 「自分自身に否定されている」、それで悲しみとかイラっとする感情があると。ありがとうございます。

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「医学部に入り直せ」というのは、ただの音声じゃないですか。ワーって物理的に声が鳴っているという。 それに対して何らかの自分の中にフィルターがあって、「否定されているんだ」という解釈が生まれます。 そして、その解釈によって引き起こされる感情があるわけですよね。

松岡 そうですね。

三好 松岡さんはおじいちゃんの「医学部に入り直せ」という発言を、「否定されているんだ」と受けとって、「悲しみとイライラ」の感情が生まれて。

ここで終わればいいんですけど、人間の内側はこの感情が生まれると次にやりだすことがあるんです。次にそれを見ていきたいんですけど。

不快な感情を避けることで始まるループ構造

三好 人間のこの「悲しみとイライラしている」感じは身体の中の動きですよね。 悲しい感じを身体で感じるとどんな感覚ですか?

松岡 体で感じると…。

三好 たとえば、胸ぽっかりするとか、サーって冷めた感じがするとか。

松岡 そうですね、どっちかというと、冷めた感じですね。シュンとなります。 身体の動きでいうと、ちょっと肩が落ちる感じですかね。

三好 そういう感じで、実は感情の本質は「身体反応」なんですよ。

たとえば、イライラとか怒りとかであれば、頭にぐわーーっと熱く上っていく感じとか、胸が熱くなる身体のエネルギーの動きですよね。僕らはそれを伝えるために「怒り」という言葉をつけたり、「イライラ」と名付けているというのが感情の本質じゃないですか。

今回の場合だと、「悲しい、イライラしている」時の身体の感覚は不快ですよね。

松岡 不快ですね。

三好 その時、不快なのでずっとはその感覚を味わっておきたくないわけですよ。

そこで次に人間が何をするかというと、「思考」に持っていきます。

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不快な感情の身体反応から逃れるために、意識が頭にもっていかれて、思考による描写、ドラマを膨らましはじめます。これは完全に無自覚な中で起こります。

松岡さんの場合、悲しみイライラがきたときに、おじいちゃんに対して言ってやりたいことしてどんなセリフが頭の中にありますか?

松岡 最初は「黙れよ」って思います(笑)。

三好 いいですね〜(笑)。

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(写真:ami)

松岡 「黙れよ」って思いますけど、次に「もう私はこうやっているんだ」といったように自分の意見を表明しようとします。

三好 納得してもらいたいという感じですか?

松岡 そうですね。

三好 なるほど。どうして納得して欲しいのですか?

松岡 そうですね。「医学部に入り直せ」ということは、私のこれまでの10年弱ぐらいを否定されていることになるので、悲しいです。なので、今自分が人生をこういうふうに歩んでいるということに対して認めてほしいと思います。

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三好 このおじいちゃんに言われた瞬間に思考がバーッと始まります。

その後に、反射的におじいちゃんに対して行動すると思うんですよ。

たとえば、反射的にどんな行動に出ますか?

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(写真:ami)

松岡 さすがにもうおじいちゃんですし、正面衝突するとおじいちゃんが命の危機にさらされるかなと思うので、半分呆れた感じで笑います(笑)。

三好 おもしろいですね(笑)。もう半分は何しているんですか?

松岡 その時の私の意見を述べます。

三好 たとえば、どういうことを言うんですか?

松岡 「医学部に入らずとも生きていける方法」ですかね(笑)。それを理解してもらうためにロジック立てて話そうとします。

三好 半分笑いながら「医学部に入らずとも生きていけるという主張」をするということですよね?

松岡 そうですね。

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三好 そこから実際の行動を外界に起こすので、フィードバックとして何かを体験すると思うんですよ。これをやった結果、何を体験しますか?

松岡 理解してもらえないという体験ですね。

三好 理解してもらえない(笑)。そうですよね。

ありがとうございます。ここまで一区切りという感じなんですけど。

アドバイスの話にも関わりますが、お伝えしたいのは、まず人はこういう認知の流れになっているというのを掴んでもらいたいと思います。

「起きたことに対して “解釈” がある → その解釈がトリガーになって “感情” が起こる → 不快な感情を味わったままにしたくないので “思考” のドラマが自然に始まる → そこから反射的な “行動” が起こる」という流れです。

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今回の場合は、「半分笑いつつ医学部入らずとも生きていけるぜ」という主張、そしてその結果、体験が起こるという流れですね。

この体験というのが「理解されない」、そして「認めてもらえない」という感じだと思うんですけど。 基本的にこのパターンからは他者との「分離」の体験しか起きないように僕には見えるんですが、どうですか?

松岡 なるほど、一生交わり合うことがないということですね(笑)。

三好 このパターンを繰り返していて、いつかつながれる気がしますか?

松岡 もう彼が寿命を全うするのを待つことの繰り返しですね(笑)。

三好 言い換えると、どちらかが死ぬまで続く感じがするということですよね?(笑)

松岡 はい、そうです(笑)。

三好 このように「起きたこと」に対する、「フィルター」を通じた「解釈」→「感情」→「ドラマ」→「行動」→「体験」という、いつも繰り返してしまう一連の無自覚なパターンを誰しもが持っています。

そして冒頭でも言いましたが、同じおじいちゃんの言葉でも「応援してくれている、心配してくれている」と見る人も可能性としている一方で、「否定されている」と見る人もいれば、「抑圧してきてる」「支配しようとしてきてる」と見る人もいるかもしれない。

つまり、そこには「無自覚な信念」がもたらす「フィルター」があって、その「フィルター」が体験をその人特有のものにしているんです。

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この無自覚な信念とは、突き詰めると「自分は◯◯だ」という自分の存在に対する判決文で成り立っています。

幼少期の痛みの体験をベースにして、誰もがこれを無自覚にもっているんですね。

そして「行動」の結果もたらされる「不本意な体験」は、この「自分は◯◯だ」という信念を強化する形で、ループの輪が閉じます。こうしてますます信念は強化され、反応行動もパターン化し、不本意な体験も深まる、という構造を持っているんです。

松岡 なるほど。

三好 今回は時間がないのであまりここを掘り下げませんが、たとえば聴こえてくるのは「自分は信頼してもらえないんだ」という信念。そういうのは表層的にはありそうですよね。

松岡 そうですね。あると思います。

三好 深層的にはもっと核心的な信念があると感じますが、いったんこの「自分は信頼してもらえないんだ」という信念があるとすると。

おじいちゃんの真意は仮に「応援もしてるし、信頼もしていて、だけど心配なだけ」だとしても、この信念がある以上、「否定された」と解釈が起こるし、その結果主張もしてしまう。

そしておじいちゃんとしては「心配な気持ちを受けとってもらえない」という体験になるので、余計声のボリュームを上げることになってしまう。

そして結果、松岡さんとしては「やっぱり認めてもらないし、信頼してくれないんだ」という体験から、また信念が強化される、というのが起きそうですよね。

松岡 たしかに。自分の信念を、自分自身で補強していくだけのループですね。

三好 まず、アドバイスする人も、される人も、誰もが、この固有のフィルターを持ちながら世界を捉えていて、無自覚なパターンを持っているという認識を持ってもらえたら嬉しいですね。

この構造の話をふまえた上で、ようやく冒頭の問い「アドバイスの代替案は?」に入れます。おまたせしました!(笑)

アドバイスに代わる新たなコミュニケーションの経路

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(写真:ami)

三好 ではいよいよ本題に入っていきますが、この話を例えば松岡さんの上司が聞いているという設定で見ていきますね。

まず僕たちはどんなコミュニケーションをしがちかというと、多くの人はこの「解釈」の話を真に受けて、さらにそこから湧く「思考のドラマ」をバーッと傾聴して松岡さんの言葉を拾っていくことが多いです。

そしてそこから最もやりがちなのは「おじいちゃんの話はもう気にしなくていいよ」といった行動内容の是正、つまり “アドバイス”。

他にも「いや、その気持ちすごい分かるよ」といった ”同調”、はたまた「いやあ自分もさ、同じようなことがあってね、自分の場合はさあ...」という話題の “乗っ取り” もやることがありますよね。

あとはアドバイスにつなげる原因分析のための ”情報収集” 。「そのおじいちゃんってどういう背景があってそんなことを言ってるの?」とかですね。

もちろんこれらが悪いと言っている訳ではないです。ただ、これらばっかりをしてしまうと、思考のループを基本的に助長させることが多いことを認識していただけたらと思います。

なぜなら、 このループ構造は「行動として何を行うか」が根本の原因ではなく、現実をつくっているのは自分のフィルター、無自覚な信念だからです。

松岡 たしかに。

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三好 だから、本当の意味で部下や関係する相手に対する本質的な変容までいきません。

もちろん、アドバイスや同調をすることで行動が変わることもありますし、別のアウトプットの体験が出てくるかもしれない。

ただ、上記とは異なる選択肢も知っておくと役立つのではないかというのが、今日の提案です。

その上でのポイントは、この感情を味わいたくないからといって思考に持っていくという流れの部分に、そこから抜け出す別のルートをつくることです。

松岡 感情から思考に行かない別のルートですか?

三好 そうなんです。さっき挙げた “アドバイス” や “同調”、”乗っ取り”、”情報収集” に共通して言えることは、相手が感情につながることを妨げている、ということなんです。

そもそもこのループは何がエンジンとして回ってるかというと、原因はもちろんフィルターなのですが、そこから生まれた不快な「感情」を味わいたくないので回っているわけですよね。だから思考のドラマが膨らみ、反射行動、不本意な体験、という流れになります。

でも、実はこの避けたいものである「感情」につながることが、このループが崩れ、その人が本質的な願いと情熱につながり、本質的な変容が起こる糸口なんです。

なので、相手の話を聴くときに、「思考につなげるのではなく、感情につなげるのをサポートする」ということが、”アドバイス” や “同調” に代わる新しい手段です。

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(写真:ami)

それを簡単に今、松岡さんに体験してもらいますね。

何も答えは与えない、感じるコミュニケーション

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(写真:ami)

三好 まず、おじいちゃんに「医学部に入り直せ」と言われたとき、否定されている感じがあって悲しいというのがあるんですよね。

松岡 そうですね。そう思っているし、悲しいです。

三好 悲しいですよね。その悲しみには「おじいちゃんから承認してもらいたい」という声があるように聴こえるんですが、それを聴くと何がありますか?

松岡 そうですね。「承認してもらいたい、応援してもらいたい」という気持ちがあります。

三好 そうですよね。さらに僕には「おじいちゃんが何と言おうと、自分で自分のことを信頼してあげたい」という気持ちも聴こえてきます。それを聴くと何がありますか?

松岡 そうですね。そうだなあっていう気持ちです。

三好 そうですよね。この気持ちと同時に僕に聴こえてくるのは、「医学部に入り直せと言っている、そのおじいちゃんの態度も、おじいちゃんはおじいちゃんであっていいと承認してあげたい」という気持ちを感じます。それはどうですか?

松岡 そうですね。きっと本当にどうでもよかったら、「もうどうでもいい」と断ち切るはずなので。

三好 そうですよね。なので、「自分は自分であっていい」という自己信頼と、「おじいちゃんもおじいちゃんであっていい」という気持ち、この二つをとても大切にしたいのかなと感じているんですけど、どうですか?

松岡 そうですね。たしかに深掘っていくとそこに行きつくなあと感じています。

三好 その「感じがする」というのを踏まえた上で、もう一度このおじいちゃんの「医学部に入り直せ」というセリフを聞いてみるとどのような感じがしますか?

松岡 変わりますね。

自分を全否定されていると思っていましたが、新しく祖父の気持ちも感じることができたり。今まで一方通行だったものに対して、違う見方ができるようになったような気がしますね。

三好 そうですよね。今だったら何ができそうですか?

松岡 「黙れよ」って感じにはならないですね。認めてもらおうと主張するのではなく、祖父にどんな気持ちがあるのか、聴いてあげたりできそうだな、とも思います。

三好 そうですよね。ありがとうございます。

簡単なやり取りでしたが、この会話で僕がしたことは、ただただどんな感情があるのかを聴いて、「その感情は何を大切にしたいからあるのか」を仮説ベースでぽんぽんと渡して、聴いてあげるということでした。

逆に言うと、こうした方がいい、ということは何一つ与えず、問いだけです。

松岡 たしかにそうでしたね。

三好 そして大切にしたいことにつながると、自然とそれをどう満たしたらいいのか、自分からアイデアが出てくるんですよね。こちらから与えずとも。

松岡 たしかに。

三好 重要なポイントは、感情はどんな機能として人間に備わっているか、ということです。感情とは「何を大切にしたいか、満たしたいか」を教えてくれるメッセンジャーである、ということなんですね。

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大切にしたいものがあるけど、それが満たせていないとき、「不快な感情」というかたちで教えてくれます。逆に、満たせたときには、うれしいとか楽しいとかの「快の感情」が生まれます。

例えば空腹を満たしたいんだけど、満たされなくてお腹が減ると、イライラしたり基本的には不快ですよね。逆に満たされたときには、嬉しかったりする。それと同じです。

なので今回だと、悲しかったりイライラという不快の感情は、「自分を自分で信頼したい」という自己信頼を大切にしたい、同時に「おじいちゃんもおじいちゃんでありのままであってほしい」という気持ちも大切にしたい、だけど満たしきれてないよ!ということを教えてくれてた、と言えますよね。

松岡 そうですね。

三好 感情の役割はこの「満たしたいこと」があるということを伝えることです。そして、それをちゃんと受けとってもらえたとき、きちんと役目を終えて流れていきます。

先ほどだと、「満たしたいこと」を理解できたことで松岡さんの悲しみやイライラは流れて、思考も止まり、フィルターがゆるんで、「満たしたいこと」を満たすために「おじいちゃんの話を少し聴いてみよう」といったアイデアが自然と出てきたりもしました。

ここまでくると、少しおじいちゃんとの関係も変わりそうな気はしませんか?

少なくとも、「おじいちゃんもそういうふうに思っているんだね」と承認したい気持ちも自分の中にはあると気づくことで、コミュニケーションが変わりそうですよね。

松岡 そんな気がしますね。

最初の扉は「自己共感」

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(写真:ami)

三好 大幅に時間オーバーしてしまいましたが、まとめるとポイントは二つです。 一つは、まず話を聴く自分自身も、このフィルターを通じて相手のことを解釈しながら聴いている、という認識を持つこと。

たいていありのままに見れてない、ってことですね。たいてい「こいつは◯◯だ」と評価判断しながら聴いてます。松岡さんがおじいちゃんを「否定してくる人だ」って受け止めてたように。

そして自分のフィルターから勝手に立ち上げた相手のイメージを、さらに是正するために何かする、または避けるために何かしない、というパターンが自分にもあるかもしれない、と見てもらえたら嬉しいですね。

相手をどうにかしないと、とアドバイスなどを始めてしまうわけですが、そのこと自体、上司として部下との関係性で不本意な体験が、繰り返される種になっている可能性がそもそもあります。

なので、僕が松岡さんに対して行った「感情につながって “大切にしたいこと” を自己理解する」という対話を、まず自分の中で行うこと。これが最初に僕があらゆるリーダーに広めたい技術です。これを「自己共感」といいます。

そうすることで、松岡さんに起きたように、はじめて相手のことを評価・判断でき、相手の話を聴ける余白ができます。そうすると相手もはじめて、自分の感じていたことが共有できる安心感が生まれますよね。

そして二つ目は、自己共感に続いて他者のこと。つまり、相手の感情をつなげて、その奥にある「大切にしたいこと」につなげてあげるコミュニケーションです。

この「大切にしたいもの」を NVC(Non-Violent Communication)という心理学の用語で「ニーズ」と呼んだりしますが、この「ニーズ」こそが内発的モチベーションの源泉です。

アドバイスで外から「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」では続きません。松岡さんにあの会話もなく最初から「おじいちゃんの話も聴いてあげたら?」とアドバイスしても、たぶんそんなにうまくいかないですよね。ニーズにつながって、自分で出した答えだからこそ、現実が変わるわけです。そしてその成功体験がさらに本人を育てていく。

ニーズは誰にも言われたものではなく自分の内側に元々あるからこそ強いんです。このニーズにうまくつなげてあげるコミュニケーションが職場にあることで、前回で言う「壁」の人や「反応」の人が自発的に動くモチベーションを継続するサポートが可能になります。

松岡 なるほど。とても勉強になりました。ありがとうございました。

三好 こちらこそ、急ぎ足でしたがありがとうございました。具体的なコミュニケーション手法の話や、そもそもフィルターのもとになっている「無自覚な信念」を扱う話も、ゆくゆくできたらと思います。

前回と本日で、まずは入門編終了ということで!

こうした技術を社会に広めること、ぜひ皆さんにも協力してもらえると嬉しいです。引き続きご声援よろしくお願いします!

※本記事で紹介した認知構造のフレームワークは、株式会社 LLT が体系化した Human OS Migration Technology (HMT)のコンテンツの一部です。HMT について理解を深めたい方は、こちらをご覧ください。

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