本記事では、上場後の新たなスタートアップファイナンス動向について解説する。
2020年7月、マザーズ上場企業のライフネット生命、ユーザベースが海外市場からそれぞれ89億円、50億円の大型調達を発表した。
従来、マザーズ上場企業の大型調達は新規上場(IPO)時が中心。上場後の大型資金調達、また海外市場に限定した調達事例はバイオ系企業を除き極めて珍しい。
マザーズ上場後の海外大規模ファイナンスは、新たな潮流となるのか。今後のEXIT動向についても見通しを提示する。
マザーズ上場後のファイナンス手段。2020年以降、海外募集による50億円以上の大型調達が増加
まず、マザーズ上場企業の資金調達状況について概観する。
通常、マザーズ上場企業の資金調達は新規上場(IPO)時に行われる。新株発行で不特定多数の株主に売り出す公募増資が一般的な手法だ。
2019年のマザーズ上場企業64社のうち、公募による資金調達額の中央値は約7億円。ただし大型調達の機会は限定的で、30億円以上の調達は8社、50億円以上の調達はわずか3社だ。(出所:KPMG「2019年のIPO動向について」)
上場後は、公募増資のほか、特定の株主に新株を引き受けてもらう第三者割当増資による調達が可能だ。公募増資の中でも引受対象の投資家は国内のみ、海外のみ、国内外両方と3パターンあり、各企業の意向で決めるケースが一般的だ。
特に海外募集による公募増資は数千万円以上のコストがかかる。そのため、研究開発費で多額の資金が必要なバイオ系スタートアップをのぞき、企業規模が比較的小さく資金需要の低いマザーズ企業では海外募集による資金調達は一般的でなかった。
しかし、これまでバイオ中心だったマザーズ上場企業の海外大型ファイナンスに変化の兆しが見えている。
以下は、海外募集による公募増資を実行した主なマザーズ上場企業の事例だ。
特に2020年以降でインターネット企業のファイナンスが目立つ。2020年にマネーフォワード、ライフネット生命保険、ユーザベースが海外募集による大型調達を実施した。
2020年7月に海外大型調達を発表したライフネット生命保険とユーザベースは、発表翌営業日に株価をそれぞれ4%、9%下げたが、その後株価は戻り、発表前の株価から19%、6%上昇(2020年8月13日現在)。同期間のマザーズ上昇率は4%、3%だ。
一般的に公募増資は株式の希薄化を伴うため、既存株主からは敬遠されて短期的には株式下落につながることが多い。ただし、中長期的に見れば株式流動性の向上および機関投資家層の拡大に寄与するケースも多い。
今回の株価上昇は、投資家が成長投資のための資金調達を好感した結果といえよう。
マザーズ上場後の海外大型調達が支えた、マネーフォワードの成長
マザーズ上場のソフトウェア企業でいち早く海外公募増資を実行した、マネーフォワードの上場後ファイナンスと株価の動向、海外機関投資家の保有比率の推移を見てみよう。
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