店舗を介することなく、ユーザーとメーカーが直接取引を行うDirect to Consumer、略してD2Cが小売業界のバズワードになっている。
ユーザーとの距離が近いからこそ重要な「買い続ける理由」。
その創出にもがく”パンツの起業家”と、”スーツの起業家”のマーケティング理論とは。
OneNova高山さん(以下、高山) ONENOVAの高山です。メンズボクサーパンツをつくっていて、クラウドファンディングの時は「世界一透明なパンツ」というキャッチコピーで展開していました。今日はよろしくお願いいたします。
FABRIC TOKYO森さん(以下、森) よろしくお願いいたします。 このキャッチコピー、むちゃくちゃいいですよね!
僕も今日はじめて、高山さんとお会いしますけど、透明なパンツのことを知っていました。
高山 光栄です!ありがとうございます。
森 最初は僕も、「えっ、透明?それ大丈夫?」みたいに思いました。(笑)
(写真:ami)
高山 クラウドファンディングの頃から見ていましたか?
森 見ていましたよ。
高山 ありがとうございます。
森 「透明なんだ…、どんな感じ?」と思ってLPに行っちゃいましたよね。そしたら、「そういうことか」と分かりました。(笑)
「製造過程が透明」ということですよね?
高山 そうです。製造工程や原価を見せるといったことも今、やっています。
森 DtoCという共通点で、我々2人がマッチングさせられたと思うんですけど、その文脈で悩み相談、アドバイスできると思います。
初期ユーザーの獲得方法
高山早速質問なんですが、最初のお客さまをクラウドファンディングでつくることができて、そのお客さんがまたリピートしてくれているという状況まではきました。そこで次のお客さんをどういうふうに獲得していくか、ということをお聞きしたいと思っています。
具体的には、FABRIC TOKYOさんが、立ち上げ時にどういう施策を具体的にやったのかお話しを聞きたいです。
(写真:ami)
森 FABRIC TOKYOを立ち上げたのが2014年ですが、そのときに、デットとエクイティのファイナンスで合計2,000万円ぐらい集めました。
その1年後に1億円の調達をしましたが、このお金はあまり広告宣伝費には使わなかったですね。
最初は、プロダクトマーケットフィットがすごく難しいじゃないですか。なので、いろいろ広告宣伝費にお金を回しても数字が合わないんですよね。
そこで、アセットになるようなお金の使い方をしました。
高山 たとえばどういうところに投資しました?
森 たとえば、しっかりSEO(検索エンジン最適化)に対応した記事をライティングしました。
高山 メディアをつくったんですか?
森 コンテンツマガジンでLP(ランディングページ)をつくりました。LPをつくることで、一旦はキャッシュアウトするんですけど、それがずっとGoogle上に残り続ける限り、創客し続けてくれます。
DtoCは絶え間ないPDCAがあるんですよね。商品もよくして、WebのUXも、実店舗やオペレーションも含めて全てよくしていかないといけない。
そんな中でどんどんお金を突っ込んで広告宣伝していたら、PDCAを回しているうちに限界がくるんですよ。
だから、小さくても、お客さまが創出されるような仕組みを1つ持っておくのは、すごくいいんじゃないかなと思います。
(写真:ami)
高山 コミュニティづくりは力を入れていて、ほぼ毎月1回Nova会というファンイベントを開催していて、ユーザーと交流しています。LPについても今、つくっているところです。
森 素晴らしいじゃないですか。
DtoCの良さは市場が大きいこと
高山 次の質問なんですが、最初に2,000万円調達して、その1年後に1億調達したじゃないですか。
その期間にどういうことをやって、1億円を調達したのかということを知りたいです。
森 1億円の調達ができたのは、リピーターが生まれていたことを評価されたからですね。
うちの商品単価は、4万5,000円ぐらいなんですよ。そこそこ高いじゃないですか。
単価4万5,000円の商材をインターネット上で買う人がいるということの証明と、それをリピートする人の証明ができていたので、ユニットエコノミクスとして見えるかもしれない、という状況を評価されて、1億円の投資マネーが入ってきたということですね。
高山 少しずつファンがついてきて、リピートしてくれるユーザーを増やしていけば、事業も拡大できるということですね。
森 そうです。DtoCのよさは市場規模が大きいことですね。
ITのスタートアップだったら、「それって事業性どこまであるの?まだ市場がなくない?」という市場規模の疑問が多いんですけど、DtoCはそもそも既存の市場があるので、市場性というのは全く問題がないし、問われることはないと思うんですよね。
なので、「自分たちがやっているUX、プロダクト、ビジネスモデルによって、既存の市場がリプレースされるんですよ」ということを証明していくことが一番大事かなと思います。
高山 ちなみに、森さんがアンダーウェアをやったらどう展開させていきますか?
(写真:ami)
森 まずはDtoCのアンダーウェアを買う理由は何なのか、というところの答え合わせをしていきますね。
たとえば、ファストファッションやブランド物のアンダーウェアを着ているお客さんがいるじゃないですか。
その人たちの悩みや課題は何?というところを突き詰めますね。そうすると、その悩みに対して、仮説ができるじゃないですか。それをプロダクトで証明しにいく。
本当に数件、数十件でもいいと思うんですけど、「たしかにこれで悩みが解決された人がいる」という事実をつくりにいきますね。
たとえばそういった人が5人つくれたとします。さらにその次は、「5人の悩みは解決されたけれども、それが1万倍になるのか、10万倍になるのか」ということを調査するイメージですね。
高山 自分の肌感としては、悩みを解決できたというよりも、今まで知らなかった経験を与えることができたというような気がしています。
基本的に下着に気を使う男性がまだ少ない中で、初めて履き心地のいいパンツを履いて感動してくれて、リピートしてくれているんですよ。
それは「悩みを解決」というよりも、「新しい体験」になると思うんですが、そういうかたちでも大丈夫ですか。
森 すごくいいと思います。おそらく、DtoCのやり方には2つあると思います。
(写真:ami)
「ターゲットは尖らせた方がいい」
森 1つが悩み解決型のかたちで入っていくマーケットインのやり方。もう1つは、ビジョナリーでプラスαの価値をつくりにいくやり方。
マイナスをゼロにするサービス、ゼロをプラスにしていくサービスという2つがあると思うんですね。
先ほどのコミュニティをつくるということは、高山さんがやりたいところにすごく合っているんじゃないかなという感覚はありますよね。
一方、SEOやSEMとかのマーケティングは効きづらいと思います。
高山 効きづらい?
森 効果的ではないと思います。
基本的にSEMってGoogleじゃないですか。Googleで検索する人たちは、何か悩みがあるから検索するんですね。僕は、パンツに関して悩みがあってGoogleで検索することはあまり人生の中でなかったな。
高山 「コンテンツマーケティングで、記事をつくってSEOを狙っていこう」とよく言われるんですけど、パンツに関する記事やキーワードでどうやって獲っていくか、悩ましいところです。
森 そうですよね。
なので、既存のパンツのマーケットのプレーヤーたちができてないことは何なのかをお客さんに聞いたり、自分たちでちゃんと仮説を立てて組み立てて、その人たちにとって魅力的なブランド、魅力的な商品を訴求していくことがすごく大事かなと思います。
そう考えるとけっこう難しいですね。
高山 難しいんですよ。
昨日初めて、テラスハウスの人にパンツを体験してもらって、いわゆるインフルエンサーマーケットをやってみたら、注文が一気に入ってきて成功体験得られたんですが、そこに踏み込んでもいいのかなって思っていて。
森 インフルエンサーマーケティングって、その人たちが持っているコミュニティを借りてくるみたいな感じですよね。
高山 シェアするという感じですね。
森 そうです。「この期間、貸してください」という考え方だと思っていて、その人たちが持っているコミュニティが欲しいんだったら、まずそのコミュニティに価値を届けると。
今度はまた別のコミュニティに届けて、コミュニティがどんどん広がっていったら、認知が取れますよね。そうしてお客さんが増えていくと思います。
高山 最初は同じコミュニティに属しているインフルエンサーに向けて集中する。
森 最初は、ターゲットはすごく尖らせたほうがいいと思います。そのほうが、認知度のインパクトは大きいですよね。いろんな角度で伝えられて初めて人は認知して、マインドシェア(*1)につながっていくと思います。
(*1)マインドシェア ブランドや企業が、消費者の心の中でどの程度好ましい地位を得ているか
高山 そう考えると、LGBTのゲイ男性のコミュニティはどうかなと考えています。国内最大のゲイ男性向けメディアに広告出稿を検討しているんですけど、それについてどう思いますか?
森 すごくいいと思います。
(写真:ami)
ゲイ男性の方たちはすごく見た目にも気を使いますし、インフルエンサー、ファッションリーダーでもあるじゃないですか。
そういったおしゃれとか好きなものに関してすごく敏感なので、その人たちに認められたらその周りのフォローしている人たちにもしっかり伝わると思うので、すごくいいと思いますね。
なぜユーザーはファンになるのか?
高山 この間、プレスリリース出したときに連絡をもらって、「せっかくのチャンスだからこれは狙って売りたいな」と思って、すごく楽しみにしているんです。
森 いいですね!
そこで1つ思うのが、「ファンになっていく所以」ですね。
高山 「なぜ、ファンになるのか」ということですか?
森 たとえば、EverlaneというアメリカのDtoCのブランドがありますが、LGBTをすごくターゲットにしているんですね。
ソーシャルグッドの文脈で「100%ヒューマンキャンペーン」をやっていて、人権保証の協会に寄付をしているんですが、そうした取り組みによって熱狂的なファン、Everlane信者みたいな人が生まれているんですよね。
(写真:ami)
高山 メッセージ性も強いですよね。
森 そうですね。あのブランドは僕もすごい好きです。「継続して使って、買う」という理由をつくるのがすごくうまい会社だと思っているんですよね。
たとえば、LGBTコミュニティの人たちに、まず最初は「おしゃれだから」「新しいから」といった理由で入ってもらってもいいと思うんですよね。
だけど、何年も継続して買ってもらうには、「理由」を考える必要がある。
商品の質、ブランドのスタンス、利便性、サービス、それとも買いやすさなのか、そういった「買ってもらう理由」をしっかりつくっていくのが何より大事だと思います。
高山 森さんはブログの中でも「コミュニケーションがDtoCにとって一番大事なポイントだ」と仰ってますが、それをすごい実感しています。
Twitterを運営していると、「仲のいい人がいなかったら買わなかったかもしれない」という意見をもらうことがあります。
コミュニケーションができていることに対して価値を感じているユーザーがいることを実感しているんですが、それと同じことですか?
森 たしかに、キャラクター自体や人が背景に感じられると覚えてもらいやすいし、親しんでもらいやすいと思います。
それを高山さんあるいは別の人でも、キャラクターとしてつくるという手もあるのかもしれないですね。
FABRIC TOKYOは、それを逆に避けているかなと思います。
高山 そうなんですね!属人的にはしないということでしょうか。
森 そうですね。だから、インフルエンサーマーケティングもあまりやっていません。
うちのコンセプトは、「Fit Your Life」と言ってますからね。
それぞれの個性をライフスタイルで表現していって、それがスーツに落とし込まれたりシャツに落とし込まれたりという感じです。
(写真:ami)
高山 ありがとうございます!